「野望」

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中国、太平洋侵出の野望~ 西太平洋を「中国の海」に

               

日本を「中国の海」に浮かぶ孤島列島にするのか。

■1.「海からの包囲網」「海からの脅威」■

中国側から太平洋を望むと、どんなふうに見えるだろうか。
北から見ていくと、黄海は対岸を韓国にブロックされている。

その南の東シナ海は、九州から沖縄、そして台湾に阻まれている。その先は南シナ海だが、フィリピン群島が遮っている。中国には太平洋への出口はない。「海からの包囲網」に取り囲まれているのである。

中国が半植民地化された「屈辱の150年」は、19世紀中葉のアヘン戦争から始まったが、その敵イギリスは海から中国を攻撃した。その後の日清戦争も日中戦争でも、日本軍は海から来襲した。「屈辱の150年」は「海からの脅威」によってもたらされた。

現代中国は、経済的な躍進を続けているが、その原動力は上海や広東省に代表される沿岸地域だ。しかし、そのすぐ目と鼻 の先には沖縄、佐世保、横須賀に米軍基地があり、台湾にも強力な空軍がある。対潜水艦作戦能力では世界トップクラスの日本の海上自衛隊の力も無視できない。いざという場合に、沿岸地域が日・米・台湾軍によって攻撃されるという怖れを、中国が抱いていたとしても不思議ではない。

それに対抗する中国海軍は、北海・東海・南海の3つの艦隊からなるが、北海・東海が台湾の北、南海が南と、幅わずか131キロの狭い台湾海峡によって分断されている。台湾はあまりにも大陸に近く、中国から見ればピストルを腹部に押しつけられているようなものだ。

中国の抱えるもう一つの懸念は、経済成長を支えるエネルギー輸入の問題である。石油の対外依存度は30パーセントを超え、2004年には一億トンもの石油を輸入している。この石油は 中東からインド洋を通り、南シナ海を経由して入ってくる。さらに沿岸の北半分に石油を送るには、台湾海峡を通らねばなら ない。中国にとって見れば、この大動脈も「海からの脅威」に曝されているわけである。

■2.「屈辱の150年」は終わっていない■

「海からの包囲網」「海からの脅威」は、決して過去の記憶や、妄想の産物ではない。1996年3月、台湾の総統選挙で李登輝再選を阻止しようと、中国は台湾周辺海域で大規模な軍事演習を行った。短距離弾道ミサイルの台湾近海に向けての発射実験、台湾海峡における海軍と空軍による実弾射撃訓練、中国沿岸の島への渡海・上陸作戦と、台湾侵攻の手順を見せつけたものであった。

これに対し、アメリカのクリストファー国務長官が「中国の演習は無謀な威嚇であり、危険な威圧だ」と警告し、横須賀から原子力空母「インデペンデンス」率いる第7艦隊を出動させ、台湾北部海域に展開した。同時に中東にいた原子力空母「ニミッツ」を中心とする艦隊を台湾南部海域に派遣した。

中国はこの軍事的圧力に屈した。彼らは改めて「海からの包 囲網」「海からの脅威」に阻まれ、「屈辱の150年」はまだ終わっていない、と感じたろう。

■3.「中国の海」■

「屈辱の150年」を完全に終わらせ、中国が真に世界の大国としての地位を取り戻すには、台湾を我が物にしなければならない。それは「中華世界の復興」というような歴史的イデオロギーだけの問題ではなく、現実の地政学的な要請である。

かりに中国が台湾を領有できたとしよう。平和的な統一であれ、武力占領であれ、結果は同じである。「海からの包囲網」も「海からの脅威」もまるでドミノゲームのように一挙にひっくり返って、西太平洋は「中国の海」となる。

台湾には巨大な中国海軍の基地が築かれる。台湾海峡は完全 に中国の内海になり、台湾の東側海域も制海権内に入る。そこ に中国の原子力潜水艦が出没し、機雷を自由に敷設できる。

横須賀を母港とするアメリカの第7艦隊も、容易に中国沿岸に近づけなくなる。アメリカの制海権は日本列島-台湾-フィリピンをつなぐ第一列島線から、小笠原諸島-硫黄島-グアム島を結ぶ第二列島線に後退するだろう。

台湾の東側海域は日本が年間2億トン以上もの石油を輸入するシーレーンである。その海域の制海権を得ることで、中国は日本の首根っこを抑えることができる。石油輸入を止められたくなかったら、在日米軍を出動させるな、あるいは追い出せ、と威嚇できる。

■4.南シナ海と東シナ海は「中国の海」になりつつある■

中国はこのシナリオを目指して、着々と布石を打ってきた。現代中国の軍事・外交を専門とする平松茂雄氏は、こう語る。

中国は1949年の建国以来、一貫して国家目標を掲げ、それを達成するために国家戦略を持ち、国家の総力をあげて、国家目標を達成してきた国だった。

建国当初、何度もアメリカから核兵器で威嚇され、「たとえズボンをはかなくとも」核兵器を開発する、と決意して、開発を進め、いまや世界第三位の核兵器大国となった経緯は、弊誌186号「貧者の一燈、核兵器~中国軍拡小史」で紹介した。

この姿勢は海洋侵出についてもまったく同様である。73年ベトナム戦争からアメリカが手を引いた途端に、ベトナム沖のパラセル(西沙)諸島をベトナム軍を武力排除して実効支配した。 南シナ海の中ほどに浮かぶスプラトリー(南沙)諸島には87年 頃から侵出を始め、米軍がフィリピンから引き揚げた92年以降、恒久的な軍事施設を建設した。

68年に尖閣諸島付近の大陸棚に膨大な海底油田が発見されると、中国は、突如、尖閣諸島は自国領土だと主張を始め、70年代から海底探索を行い、80年代にはボーリング調査を実施し、90年代にはガス田開発を開始した。2004年に日中中間線のすぐ中国側で採掘施設が姿を現すと、中川昭一経済産業大臣が、日本側の石油資源も吸い取られてしまうと抗議をして、ようやく日本国内がこの問題に注目した。以後、日本政府の抗議に対して、中国政府は共同開発などの提案をして時間を稼ぎながら、その間に着々と工事を進めている。

ちなみに尖閣諸島は、台湾と沖縄の中間地点にあり、ここに軍事基地を作れば、台湾、および沖縄の米軍基地を威圧するには絶好の位置にある。さらに沖縄本島と宮古島の間を通って太平洋に出るルートを開くことにもつながる。

南シナ海と東シナ海はその名の通り、着々と「中国の海」になりつつある。

■5.太平洋海域における中国の海洋調査■

中国海軍は、日本列島-台湾-フィリピンをつなぐ第一列島線の内側は片付いたとして、小笠原諸島-硫黄島-グアム島を結ぶ第二列島線までの西太平洋海域の調査を始めた。2001年末から03年にかけて、東は沖縄本島から西は小笠原諸島まで、北は種子島から、南は沖ノ鳥島までの広大な海域を海洋調査船で綿密に調査した。経度で言えば小笠原諸島は房総半島よりも東であり、また緯度では沖ノ鳥島は、台湾よりさらに南である。その大半は日本の排他的経済水域である。

その目的は、海洋資源調査のみならず、水深や潮流に関するデータを集め、将来、アメリカの空母機動部隊がやってきた時に、潜水艦隊を展開し、機雷を敷設する準備をしたものと見られている。

日本国民はわが国太平洋海域におけるこうした調査活動を知らされていなかった。外務省中国課が、国連海洋法条約に規定されている「科学調査」と解釈し、かつ「許可」を求めてきているから合法的であり、したがって公表する必要はないという理屈であった。平松氏はいくつかのメディアを通じて、中国の海洋調査活動に関して警鐘を鳴らしたが、大半の国民も無関心のままであった。

拉致問題と同様で、政府とマスコミの意識的、あるいは無意識的な怠慢が、ここまで事態を悪化させたのである。

■6.沖ノ鳥島を狙う中国■

2004年には、わが国最南端の領土である沖ノ鳥島周辺海域で、中国海軍の測量艦や海洋調査船が事前通報なしの調査活動を行った。この年だけで34回もの不法調査が確認されている

沖ノ鳥島は満潮時に海面下に水没しそうな小さな二つの岩からなっている。しかし、この島を中心に半径200カイリの円を描くと、わが国の陸地国土面積に匹敵する広大な排他的経済水域となる。そして、この海域の海底にはコバルト、マンガンなどの希少金属が埋蔵されているとみられている。

日本政府はさすがに通報なしの違法調査に対して抗議をしたが、中国は取り合わなかった。「人間が居住または独自の経済生活を維持することのできない岩は排他的経済水域や大陸棚を有しない」との海洋法条約の規定を中国は援用して、沖ノ鳥島周辺海域を日本の排他的経済水域と認めず、従って同島周辺海域での調査活動に際して日本政府の許可を得る必要はないと主張したのである。

中国はベトナムに近い南沙諸島海域の岩礁に掘っ立て小屋を立てて人を住まわせ、周辺の排他的経済水域の権利を主張した。同様に日本政府も沖ノ鳥島の排他的経済水域を守ろうと、灯台を建設したり、サンゴ育成を行う計画を発表した。

中国が沖ノ鳥島を狙う理由は、海洋資源だけではない。沖ノ鳥島からグアム島までは約1千キロ。そこには米国海軍の原子力潜水艦の基地がある。

■7.グアム島近海にまで出没した中国原潜■

海洋調査船の調査が終われば、次は潜水艦による調査である。2004年10月中旬には、中国海軍の原子力潜水艦が青島の基地を出航し、東シナ海を南下、10月下旬に沖縄本島と宮古島の間の海域を通って太平洋に出た後、11月初旬にはグアム近海150キロまで接近して周囲を一周し、北上して日本の種子島近海に達した。この際に石垣島近辺の日本の領海を侵犯したため日本政府が抗議し、中国政府も反中感情の盛り上がりを心配したのか、めずらしく遺憾の意を表明した。

この原潜は米軍の対潜哨戒機が発見、その後、海上自衛隊が追尾したが、それを逃れるために「海底すれすれの状態」で潜行しており、海上自衛隊は「海底を熟知している証拠で、練度は高い」と分析している。

ワシントンのシンクタンクで中国人民解放軍の研究を専門とするラリー・ウォーツェル氏は、産経新聞のインタビューに答えて、中国政府の意図として、海図調査以外に、日本側の対応のテストがあった、と述べている。「具体的には日本のどんな対応をみるのか」との質問に:

自衛隊がどれほど早くその潜水艦の動きを探知し、どんな追尾や防衛の手段をとってくるか。日本の対潜能力をみるわけだ。また日本の政治指導部の対応も観察される。その背後には中国側のさらに大きな戦略的な意図がある。

「戦略的な意図とは」の質問に対しては、こう答えた。

中国海軍の近代化の中心人物となった劉華清提督(元党中央軍事委副主席)が十数年前に言明したことだが、中国軍の長期の戦略目標は太平洋海域では千島列島から日本列島の東、パラオ、ミクロネシアへと南下する諸島連鎖の線までをコントロールすることだという。そのためには航空戦力とともに潜水艦の能力も大幅に増強せねばならない。
中国の原潜が日本列島のすぐ南を経て、太平洋海域へと進出していくという構図はこのきわめて野心的な長期戦略の一端であり、今回の侵犯もそういう背景でみるべきだ。

■8.米空母は中国の潜水艦に撃沈されかねない■

この時の中国原潜の動きは、米軍や海上自衛隊によって探知されていた。しかし、昨年10月末には、沖縄近海の太平洋上で、米空母「キティホーク」が中国海軍の通常型潜水艦の追跡を受け、魚雷などの射程圏内に接近されても探知できなかったという事件が起こった。後方約8キロの水上に浮上した潜水艦を哨戒機がようやく発見したのである。

この2年ほどで、中国の潜水艦の内部騒音に関する技術的改良が進み、それだけ発見しにくくなっているのであろう。この型の潜水艦は、ロシア製の誘導型魚雷のほか、対艦ミサイルを搭載している。実戦であれば、空母キティホークは中国潜水艦からの魚雷かミサイルにより撃沈されていた可能性もある。

1996年3月の李登輝再選の際には、中国はアメリカの二つの空母機動部隊に威圧されて引っ込んだが、今は空母が台湾近海に近づく事すら大きな危険を伴う。

中国の軍事政策研究で知られるリチャード・フィッシャー氏は、産経新聞のインタビューで「中国は2010年までに50隻から60隻の近代的で、精鋭の潜水艦を保有するようになる」と予測した。米国が世界中に展開している原潜が55隻なので、それに匹敵する潜水艦部隊を中国は西太平洋に展開できるのである。

■9.日本を「中国の海」に浮かぶ孤島列島にするのか■

台湾に中国の潜水艦基地が作られ、西太平洋に数十隻もの中国の原潜がうようよする「中国の海」となれば、日本はその中にポツンと浮かぶ孤島列島となる。大陸本土からの核ミサイルばかりでなく、太平洋沿岸に潜行する原潜からも核弾頭付き巡航ミサイルが撃ち込まれる脅威にも曝される。そしてシーレーンを握る中国は、いつでも日本の石油輸入をストップできる。

あえて武力に訴えなくとも、日本は中国の一服属国に成り下がるだろう。親中派の政治家とマスコミが国内をリードして、経済援助や対中投資という形で、世界第二の経済大国からの朝貢は思いのままとなる。

1995年、当時の首相であった李鵬は、オーストラリア首相との会談で、「日本などという国はこのままで行けば、20年後には消えてなくなる」との発言をしたと伝えられている。これは単なる予言ではなく、日本を上述のような服属国にしようという中国の国家意思を表したものと考えられる。

我々の子どもや孫の世代に、中国の服属国民という悲哀を味あわせないためには、今のうちに我々が国家の独立と安全を維持すべく努力しなければならない。日米同盟が世界第1位と2位の経済大国、技術大国の結びつきである事を思い起こせば、中国の国家意思を打ち砕くだけの体力は十分にある。あとは自分たちの独立と自由を維持しようという国家意思の問題である。

                                        

伊勢雅臣

日本外交のあまりにも弱すぎる面々に時々不安を感じていましたが、今回の「20年後に日本などという国はない」という極端な中国首相の発言には寒気がし、また怒りで数日このことが頭から離れませんでした。

私は外国に永住して数年が経ちますが、日本を出て思うことは、日本特有の「協調性」「親切」「無言実行」「誠実」「謙遜」などの道徳観と「争いを好まない」習性は、外国では格好の餌食になりやすいという現実です。

いろいろな民族と接していると、どこまで、自分の主張や利益にそって生活できるかと、自分の人生の目標を達しうるうるかに最大の焦点がおかれ、日々「生きることが戦い」であることを思い知らされます。顔色をうかがいながら、使える奴はとことん使うのです。またどのような状況下でも自分が他の下になることを嫌い、能力がなくとも口達者に常に自分が上であろうとします。実際、能力のある者を従える力があれば自分に能力はなくてもいいのです。

この人間関係の延長が国の外交で、今回の日本の反応をためしながら、事を成し遂げようとする中国の様は私が日頃から目の当たりにしている人間関係とまったく同じです。

謙虚で勤勉な日本人は能力や金といった貴重な財産を惜しげもなく他に与え続け、恩知らず、礼儀知らずの諸外国はその上にあぐらをかき、中国首相の発言のように恩を仇で返す結果を招くのです。

最近のニュースでも「日本技術の協力を隠して中国の新幹線始動」とありましたが、一体日本はいつまで慈善事業を続けるのでしょうか。それとは裏腹に自国の利益のみを追求し、日本が中国の従属国となるような構想を抱かせている愚かな現実をいつまで見過ごすのでしょうか。

外国では日本でいう「親切・優しさ」という概念はときに「弱さ」といい、「ずるい」という概念は「賢い」といわれていることを私たちは肝に銘じるべきです。中国はずるいのではなく、彼らの概念では「賢い」のです。日本が「愚か」なだけで、そこには罪悪感が生まれるわけがありません。私たちが「ずるい行動」と捉え物事を躊躇している間に、諸外国は「賢い行動」と正当化し、迅速に事を成しとげてみせるのです。

日ごろから、戦う術を知らない平和な日本人は脅しや情に弱いということを外国人たちのほうがよく心得ています。諸外国の道徳観や価値観を知り、世界から見た日本人という民族性と日本人は世界でどう振舞うべきかを学び、国民一人ひとりのレベルで外交を考える教科があってもよいのではとさえ思う昨今です。外国のいうところの「賢い」日本外交はいつ実現しうるのでしょうか。世界レベルではまだまだ腰が低すぎます。

国際社会の中で日本はトップであり続けてほしいと願ってやみません。

   

■ 伊勢雅臣より

日本人の「親切・優しさ」をもとにした「賢い」「強い」外交とはどうあるべきか、考えたいと思います。武士道がヒントになるような気がします。
 

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