「ペソ急落原因」

画像の説明 米国大統領選でトランプが大統領に当選した後の「トランプ・リスク」の典型として現れたのがメキシコペソの急落であった。

米国大統領選挙戦を通じてトランプ候補は「これ以上の不法移民の増加を防ぐためメキシコとの国境に壁を作りその費用はメキシコ政府に負わせる」「メキシコの不法移民を強制送還する」「NAFTAを見直してメキシコからの輸入に35%の関税をかける」と公言してはばからなかった。

これらの措置を通じて移民の急増で職を失った、あるいは低賃金に抑えられた白人労働者層の支持拡大を狙ったものだ。トランプ大統領誕生により、メキシコ経済は奈落の底に沈む、という恐怖から、メキシコペソは史上最安値を更新する1ドル=20.75ドルを付けるまで売り込まれた。

だが、メキシコペソの下落はこの10年余りの長い期間の傾向だ。トランプ・リスクは付け加わっただけといった方がいい。

ペソレートは2005年8月に付けた1ドル=11.97ペソの高値からから2016年9月の19.87ペソまで約4割の下落をたどっている。

その要因として説明されたのは、①産油国でもあるメキシコはバーレル当たり100ドルからいったん30ドルを割り込んだ原油価格の急落で国際収支、財政収支の大幅悪化をきたす、②新興国市場の中でメキシコの外為、国債市場はもっとも厚みがある。

従って、FRB(連邦準備理事会)のバーナンキ前議長が量的緩和の段階的縮小(いわゆるテーパリング)について発言するなど、新興国全体からの資本流出が懸念されるときには新興国通貨の代表選手として真っ先に売り込まれた。

三番目の要因として、先般ワシントンのシンクタンクを訪れた時になるほどと思ったのは「米国の景気回復はサービス産業中心であるが、メキシコは製造業の輸出中心であり、そうした産業構造にフィットしていない(例えばビジネスのアウトソーシングやITで言えばクラウドの大容量記憶装置の敷設)」ことだ。

製造業でもさらに細かく見ていくと、メキシコは中央高原エリアを中心に北米への自動車輸出基地としてGM,フォード、ホンダ、日産などの工場が集積している。

しかし、主力は小型車の生産であり、米国で需要の大きいSUVやピックアップトラックといった大型車の需要を取り切れていない。中南米向け輸出もブラジルの経済不振などから大きく落ち込んでいる。

ペソの回復が難しいのには、メキシコ国内の政治経済の動きも加わる。メキシコのペニャ大統領の支持率は失業、貧困の増大や物価の高騰、さらには汚職の蔓延、麻薬カルテルの勢力争い激化などから就任当初の55%程度から20%台(不支持率は70%強)へと急落し、歴代最低水準となっている。

ペニャ大統領の親族の収賄疑惑も明るみに出た。大統領自身は再選禁止であるので2018年の大統領選挙には出馬しない。しかし、与党PRIが次の大統領も送り込もうとすれば、17年6月に行われるメキシコ州知事選挙で勝利を収められるかが試金石となる。

だが、今年の地方選挙ではRPIは苦戦を強いられた。麻薬がらみの犯罪は有名であるが、それ以外でも日系自動車メーカーなどでは完成車を搭載した貨車からタイヤなどの部品が盗難に遭うといった事態も発生している。

メキシコの実質成長率は2%台半ばとかつての4~5%から大きく下方屈折している。原油生産、工業製品輸出も伸び悩みを続けている。このところ、ペソの暴落に伴い物価も上昇しているうえ、ペソ防衛に伴う利上げも加わって内需を主導してきた消費の先行きを危ぶむ声も強い。

荒唐無稽と思える壁の建設や高率輸入関税の適用、移民の送還など、トランプ新大統領の公約がどこまで実現するのかは定かではない。

ただ、仮に多くの公約が実現されず、また石油価格がOPECの減産から底入れしてバーレル当たり50ドル台まで回復する、今年末とみられるFRBの利上げが見送られる、などといった僥倖があっても、国内政治経済情勢の不安定さからみてメキシコペソの回復は容易ではあるまい。

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