「空き家」

画像の説明 2030年頃には2000万戸にも達すると言われている全国の空き家。

行政も対策に本腰を入れるようになってきたが、いまだ解決の道筋は見えてこない。そんななか、空き家の持ち主からの相談を引き出して再利用を活性化させようとしている動きもある。空き家サービス「空き家手帳」を展開するベンチャー企業・うるるに話を聞いた。

いまは7~8軒に1軒が空き家
15年先には10軒に3軒が空き家になる

自宅の周りを30分程度散歩してみると、人の気配がしない空き家を目にすることはないだろうか。あからさまな廃屋はなくても、玄関やドアノブにホコリがたまっていたり、庭の雑草が手つかずになっていたりする家屋があれば、空き家である可能性が高い。

2013年時点で日本にはおよそ820万戸の空き家があり、総住宅数の13.5%に及ぶ。実に7~8軒に1軒の割合だ。きちんと管理されているなら、外部からはそれと分からないので気づきようもないが、住宅密集地なら1ブロックに1~2軒が空き家になっている計算になる。散歩中に5軒以上見つけたとしても、そこまで驚くことはないわけだ。

国は増え続ける空き家対策に力を入れているが、空き家オーナーの7割以上が「何もしていない」まま。売るにしろ活用するにしろ、具体的な「メリット」を提示しない限り、所有者は動かない

今後、空き家は増加の一途を辿ると言われている。野村総合研究所が16年6月に発表した予測によると、33年には約2150万戸に達し、空き家率は30.2%にまで上昇する。

20年も経たないうちに、10軒に3軒が空き家という事態になる計算だ。

空き家が増えると、火災や倒壊リスクが増し、不法入居者が集まる心配も生まれる。治安と景観を損ね一帯の価値が下がるなど、地域全体、ひいては国全体の負債となってしまう。

そこで国も本腰を入れて対策に乗り出すようになり、15年5月には「空き家対策特別措置法」を施行。景観を損ねたり、倒壊の危険のある空き家は住宅向けの固定資産税軽減対象から除外されるようになり、最悪の場合、市区町村が強制撤去後に所有者へ費用を請求できる仕組みができた。

また、16年6月には、国土交通省がこれまで地方自治体単位で運営してきた空き家のデータベース「空き家バンク」を一元化し、17年度予算案に経費を盛り込むとも発表している。

しかし、それだけで解決すると楽観視する声は聞かない。

「空き家を処分するにも、共有名義で所有者が複数いて身動きがとれなかったり、道路に面していないから市場的な価値がつかなかったりすることも多くて、『売りたい』『貸したい』『どうしたい』の段階まで辿りついていない方が非常に多くいます。まずはそうした人たちの潜在的なニーズをくみ取ることが重要だと思います」

そう語るのは、16年9月に空き家所有者と事業者のマッチングサイト「空き家手帳」を立ち上げたベンチャー企業・うるるの代表取締役・星知也氏だ。

空き家所有者の71%が何もしていないし、困っていない

空き家所有者の71%が何もしていないし、困っていない

うるるはもともと、在宅ワーカー(クラウドワーカー)の労働力を生かしたサービスを中心に提供しており、不動産や相続業界に軸足を置いている企業ではない。労働力を生かせるアイデアが生まれたら、その都度必要な情報やノウハウを収集・蓄積していくスタイルをとる。

「空き家手帳」も、1年前は同社の新規事業部で提出された何百の中の1企画に過ぎなかった。そこから市場リサーチやテストマーケティングを経て事業化にこぎつけたわけだが、過程で得た知見は少なくない。

なかでも印象的だったのは、「空き家所有者はあまり困っていない」という事実だったそうだ。

13年11月に価値総合研究所が実施した調査によると、空き家住宅所有者の現在の状況は「何もしていない」が71%で、売却や賃貸など何かしらの手立てを考えている割合の19.3%を圧倒している。

他の調査結果も照らし合わせると、親が亡くなったり高齢者住宅に移ったりして空いた実家を、とりあえずそのままにしているケースが多いことが透けて見える。

「家をそのままにしておいても、急に困る事態が目の前に現れることはあまりなく、売ったり貸したりしようとした途端に問題が見えてくるんですね。所有権や資産価値、メンテナンスなど諸々の問題が具体的になるわけです。そして、そこを乗り越えても望む通りに処理できるかは分からない、というのが実情です。だったら、所有する物件にどんなニーズがあるのか、どんな選択肢があるのかを見せるところから始めないといけないと思いました。でなければ71%の人たちは動かない」

そうして生まれた「空き家手帳」は、空き家物件のデータベース化以上に、空き家所有者と事業者とつながれる仕組み、具体的には、不動産会社や司法書士、リフォーム会社、民泊運営支援団体などと直接やりとりできることに重きを置いて作られている。

空き家所有者には、相談掲示板「空き家相談ボード」に物件情報を載せて「どうにか売りたい」「リフォームして賃貸にしたい」「手入れをどうにかしたい」といった相談を自由に書き込んでもらう。各事業者は、投稿のなかから力添えできる案件を探してアドバイスを書き込む。

所有者は条件にあった専門家から助言をもらったり選択肢を提示されたりして現実的なニーズと道筋が掴め、事業者は空き家物件の所有者との商談に持ち込むことができる。そうした互恵のやりとりを狙う仕組みだ。

「空き家相談ボード」の画面。クリックすると物件と相談の詳細が確認できる。閲覧は誰でも可能だ
サービスをスタートしてから気づいたこともあるという。

「個人で空き家を探している方が意外と多いと知りました。前身サービスでは事業者側登録の3分の1が個人となっています。(法整備の整っている特定エリアで)民泊を始めたいという人や、『退職後に海の見える一軒家でカフェをやりたい』という人まで様々なニーズがありますね」

空き家の処分に頭を悩ませている所有者の割合は、都心よりも買い手が見つかりにくい地方のほうが圧倒的に多いが、辺鄙な場所でも様々な理由から、ピンポイントで物件を探している人もいて、マッチングが成立することもあるそうだ。

「空き家手帳」の初年度目標は登録事業者500社、かつ、相談ボードへの投稿3000件という。その後は「弊社が契約しているクラウドワーカーさんに空き家清掃を依頼したりと、様々な展開ができると思います」とのこと。ニーズがある限り、柔軟にサービスの幅を広げていけそうだ。

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