「留学」

画像の説明 中国人エリートのなかで、海外留学先として日本の人気が徐々に高まっている。

日本では「欧米に留学する人が一流、日本には欧米に行けなかった人が来る」という印象を抱く人も少なくないようだが、実態は必ずしもそうではない。

アメリカ留学はハイリスク、ハイリターン型
日本の方が健康そうで幸せ?

「中国人が留学したい国ナンバーワン? そりゃ、何といっても、やっぱりアメリカです。アメリカの有名大学のキャンパスに行けば、中国人留学生がゴロゴロいます。

でも、中国人にとって、アメリカ留学だけが幸せな選択肢じゃないですよ。私から見れば、日本に住んでいる友人のほうがずっと健康的で、幸せそうな顔をしています」

以前、北京で知り合った中国人に連絡してみたところ、彼女は私に率直な意見を聞かせてくれた。中国の理工系大学のトップ、清華大学を卒業し、アメリカ東海岸にある一流大学の大学院に留学。

現在はニューヨークのIT企業に勤務している28歳の女性だ。彼女は高校時代、東京都内の進学校に短期留学した経験があり、日本に住んでいる中国人の友人も多い。

私は新刊『中国人エリートは日本をめざす』の執筆のため、今年の春から東大や早稲田など日本の有名大学の関係者に取材をしてきた。

私が取材した中で、日本の有名大学を選ぶ中国人留学生は、中国人の中ではどちらかというとおっとり型、激しい競争を好まないタイプが多いと感じてきたが、アメリカ留学はどうなのか? アメリカ留学と日本留学の違いを取材してみようと思い、彼女にコンタクトしてみたところ、こんな声が返ってきたのだ。

「アメリカ留学は一言でいえば、ハイリスク、ハイリターン型ですね。東海岸は白人が多いので、その中で黄色人種というだけでもプレッシャーですが、だからなのか、全体的にアグレッシブな中国人が多いんです。

ハーバード、スタンフォードに留学するような人は、中国に住んでいるときから常に学年でトップクラスですから、プライドがものすごく高くて負けず嫌い。中国での競争をそのままアメリカに持ち込んでいる感じで、いつも顔が引きつっていて怖かったですね」

「大学院の宿題はものすごく多くて、勉強以外に何もできないので、プレッシャーに強い人でないと生きていけないんです。そういう意味では、中国にいるときよりもさらに厳しい生活環境を覚悟しなければならない。中国人同士の足の引っ張り合いも、ものすごいんですよ」

韓国ドラマも真っ青の悪質な事件も頻発

アメリカでは激しい中国人同士の競争
韓国ドラマも真っ青の悪質な事件も頻発
中国人同士の足の引っ張り合いとはどういうことだろうか?

今度は西海岸の有名大学大学院で学ぶ中国人男性にメールで話を聞いてみた。彼は上海の名門、復旦大学を卒業後、アメリカの大学院に進学。彼もまた、学部時代に京都の大学に交換留学した経験があり、日本の事情にも詳しい。将来はアメリカの大学で教職に就くことを目指している。

「アメリカでの中国人同士の競争は、そりゃすさまじいですよ。最も激しいのは就職活動のとき。アメリカの大学は中国の学生から膨大な学費が入ることを想定して、博士課程よりも修士課程で修了する短期のコースを大量に作りました。

金儲けのためです。いくつか、その筋で有名な“中国人御用達”の修士コースがあって、アメリカ留学を目指す中国人ならば名前はきっと知っていると思います。

簡単に入学することができるんですよ。でも、そうして入った修士課程を修了した留学生が、ほぼ同時に就職口を争わなければならなくなってしまうのです」

彼は言う。
「アメリカの大手企業の就職試験は熾烈を極めます。海外でがんばる中国人同士なのに、ジョブフェアのイベントの日程が違う日に変更になった、と友人にわざとデマ情報を流したり、事故に見せかけてライバルに怪我をさせるように工作したり、友人が席を立った隙に友人のパソコンをたたき壊したり、ライバルのスマホを川に投げ捨てたり……、なんていうのは日常茶飯事。韓国ドラマも真っ青の悪質な事件も頻発しています」

最悪、就職口を見つけられなかったら、留学生ビザが切れる前にアメリカ人と結婚させる中国人専用の斡旋ビジネスも横行している、というから驚きだ。

想像しただけで息苦しくなってくるが、彼が在籍している大学の修士課程の95%は中国人で、右を向いても左を向いても中国人だらけ、日本の大学院の比ではないという。アメリカには一体どれくらいの中国人留学生がいるのだろうか。

米国国際教育協会(IEE)の調査によると、14~15年度にアメリカで学んだ外国人は過去最多の約97万5000人だった。最も多いのが中国人で約30万5000人(日本人は約1万9000人)と、アメリカの留学生全体の3分の1を占める(ちなみに、第2位はインド人、第3位は韓国人となっている。余談だが、インドは中国に次いで人口が12億9000万人と世界第2位なので留学者数が多いことも理解できるが、人口が日本の半分以下の約5000万人しかいない韓国人がこれほどまでにアメリカ留学していることは、注目すべきことだろう)。

優秀な中国人がアメリカを避けるケースも

やはり、中国人が真っ先に選ぶ留学先はアメリカなのだ。中国人の留学先の第2位はイギリス、続いてオーストラリア、カナダ、香港の順となっており、日本はその次だ。

日本への留学生は約9万4000人と、アメリカの3分の1以下となっている。オーストラリアやカナダは移民しやすいので、留学後の移民先としても中国人に人気がある。

では、アメリカに留学するのと比較して、日本留学はどう思われているのだろうか。そして、日本留学した中国人はなぜアメリカではなく、日本を選んだのだろうか?

優秀な中国人がアメリカを避けて日本を選択するというケースも

留学生たちの意見は、以前、東大の記事(「中国人エリートが東大留学する本当の理由」)や、早稲田の記事(「中国人エリートが慶應よりも圧倒的に早稲田を目指す理由」)に詳しく書いたので一部割愛するが、アメリカにも留学経験があり、現在、東大で中国人留学生の指導も行っているある教授はこう語る。

「自分が指導する中国人留学生に、アメリカ留学している中国人と大きな違いは感じません。アメリカだから一流、日本に来たからそうではない、とは必ずしもいえません。本人の適性や家庭環境などの問題もありますので。優秀な中国人がアメリカを避けて日本を選択する、というケースもたくさんあります」

同教授によると、前述したように、アメリカに留学する中国人は、厳しい競争に巻き込まれることも覚悟の上で行くなど、強靭な精神力を持ち合わせていることが多いという。

「それに、日本の学費はアメリカに比べて安く、中国との距離が近いことがメリットです。近場の旅行を『安・近・短(安い、近い、日程が短い)』と表現することがありますが、日本留学は『安・安・安(安心、安全、学費が安い)』といえるでしょう」

「日本政府が留学生を積極的に受け入れる方針を取っていて、同じ漢字圏ということもあり、中国人は日本で成績上位者となりやすく、奨学金が取りやすい。しかも日本の学費はアメリカの私立大学の7~9分の1という安さ。それに、アルバイトも探しやすく、アメリカに比べれば、日本人は人種差別をしません。私が知る限り、中国人にあえて優しく対応してあげる教授も多いくらいです」

「さらに、経済的な理由だけでなく、距離的に近いことは親を安心させる好材料で、私の研究室にいる女子学生は親から『アメリカは遠すぎるし怖い。日本ならば私たちもすぐに会いに行けるし、日本は夜道も安全だから』と言われて留学を許可された、と聞きました」

日本留学はまだ希少価値

日本では「欧米に留学する人は一流、日本には欧米に行けなかった人が来るのだろう、と思い込んでいる人もいると思いますが、必ずしもそんなことはないですよ」と教授はつけ加える。

「日本に来る留学生は、確かに中国の進学校で1番だった、という超一流ではないかもしれないけれど、日本の住みやすさや日本文化を理解し、日本で落ち着いて勉強したいという性格の中国人で、そこそこのエリート。強いていうなら、1.5流といってもいいでしょう」

つまり、多くの中国人が行きたがるアメリカではなく、あえて日本を選ぶ人は、激しい競争を好まない、控えめなタイプが多い。

トップにはなれなくても、常にコツコツやるがんばり屋さんに向いているといえる。自分の専門分野に合った教授が大学にいるかどうかなど、自分にとって重要なポイントとなることをいくつか天秤にかけて、冷静に留学先を日本に定めている人が多いという。

アメリカには中国人が多すぎる
日本留学はまだ希少価値

数年前、東大修士課程を修了後、アメリカの博士課程に進学した上海出身の男性も、同様の意見を言っていた。

「アメリカには中国人が多すぎて、アメリカ留学したメリットを感じにくくなっているのが現状です。そこで勝ち残っていくためには、少なくともトップ10以内の大学で優秀な成績を収めること。さらに、学力や努力以外のもっと別の才能や強力なコネも必要。運も深く関係しますね。アメリカで思い描いたようなキャリアを得られず、かといって、中国に戻って錦を飾ることもできないで、そのまま雲隠れしてしまう残念な“エリート崩れ”も数多くいます」

「それに比べると、日本留学は、アメリカ留学に比べて人数が少ないので、9万人もいるとはいえ、まだ希少価値なんです」

『中国人エリートは日本をめざす なぜ東大は中国人だらけなのか?』 

希少価値というと「えっ? こんなに多いのに?」と日本人は思うが、『爆買い』中国人観光客同様、総体的に見れば、中国人は日本よりも欧米に行くことのほうが圧倒的に多く、まだまだ日本の魅力、日本留学のよさが中国人に完全に伝わっているわけではない。

「今、日本に留学している中国人は、他人を押しのけてまで、という、まるで中国人の専売特許のような“戦闘モード”があまりない。日本に住んでいると日本のお国柄に似てくるのか、礼儀正しく、いい意味で“日本人化”している人が多いと思います」

「日本ならば、最も進んだ研究分野で教授の右腕となることも可能だし、日本の研究者とのネットワークの構築もできる。何しろ同じ東洋人同士で、中国人と日本人は考え方が似たところがありますから。アメリカ留学に幻想を抱く中国人もいますが、日本留学にはアメリカよりもよいことがたくさんあり、日本は魅力的な国。そう考えている人が多いからこそ、今、日本を目指す中国人エリートが密かに増えているのではないでしょうか」

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