「ビジネスモデルの崩壊」

画像の説明 銀行はいま大きな構造問題に直面している。

貸付金利がゼロ%に収斂し、銀行にとっての主要な収益である資金運用収益が、ゼロになる可能性があるのだ。そうなれば、銀行のビジネスモデルの基幹が崩壊する。

日本の銀行が直面する2つの構造問題

前回見たように、日本の学生は銀行が安定的な就職先だと考えている。しかし、データを見ると、日本の銀行はさまざまな、そして深刻な問題に直面していることが分かる。

これは、つぎの2つの要因によって引き起こされる。

第1は、経済のマクロ的な変化と金融政策だ。利ザヤが長期的に減少しており、マイナス金利政策によって、その傾向が加速される可能性がある。

第2は、金融技術の発達である。技術進歩は一般には生産性を向上させ、関連産業の成長を促進することが多い。しかし、金融業の場合には、プラスの効果だけでなく、マイナスの効果が生じる可能性もある。これまで金融業は情報産業でありながら、情報技術の進歩にはあまり影響を受けていなかった。その状況が急激に変わりつつあるのだ。

第1の変化は、すでに起きている。そして、こうした変化が生じつつあることは、広く認識されている。しかし問題はそれだけではないのだ。より大きく、より本質的な問題は、第2の要因によって引き起こされる。それは銀行業の存在そのものをも揺るがしかねない。

今回は、これらのうち、第1の問題について検討することとする。

マイナス金利で貸し出しが増えず資金運用収益が減少

資金運用収益が経常収益の大半を占める

ただし、利ザヤ減少は、後で見るように、長期的な傾向だ。16年4~6月のデータを見る限りでは、マイナス金利でとくに加速されたとは言えない。

重要なのは、マイナス金利が貸し出しを増やす効果を持たなかったことだ。

マイナス金利導入の目的は、貸し出しを増やすことだとされていた。しかし、貸出金利が下がっただけで、貸し出しは増えなかったのである。住宅ローンも、借り換えが中心で、貸出総額は伸びていない。だから、利ザヤの低下を貸し出しの増加でカバーできなかったのだ。

もっとも、マイナス金利の影響は、貸出金利にまだ十分反映されていないのかもしれない。影響が今後浸透していくと、利ザヤはさらに縮小する可能性もある

そうなれば、資金運用収益はさらに減少する。マイナス金利が銀行の収益に与えるネガティブな影響は、甚大なものとなる可能性を否定できない。

依然として資金運用収益が経常収益の大半を占めている

資金運用収益の将来を考えるに先立って、それが銀行の収益の中で占めるウエイトについて見ておこう

銀行の経常収益としては、資金運用収益の他に、役務取引等収益(振込など為替手数料)、その他業務収益(国債の売買益など)、その他経常収益(株式売却益など臨時的な収益)などがある。

2008年度から15年度の期間について、これら各項目の経常収益に対する比率の推移を見ると、図表3のとおりだ。

資金運用収益の比率は、08年度の72.1%から15年度の66.5%へと低下はしているものの、依然として経常収益の大半を占めている。

役務取引等収益の比率は、08年度の11.8%から、15年度の16.0%へと上昇している。

その他業務収益は、国債保有額の増加に伴って12年度までは増えたが、異次元金融緩和で保有額が減少したため、その後は低下気味だ。

その他経常収益は、株価の動向に合わせて、13年度以降上昇した。

利ザヤ縮小で資金運用収益が長期的に減少

銀行の収益構造は、規模によっても大きな違いがある。零細銀行ほど資金運用収益に対する依存度が大きいのである。

資本金10億円以上では、資金運用収益66.2%でしかなく、その半面で、役務取引等収益は16.2%、その他業務収益が7.1%,その他経常収益が7.5%などと、かなりの比率を占めている。

それに対して、資本金1億円未満では、資金運用収益が90.1%も占める。役務取引等収益は1.0%、その他経常収益0.8%と、ウエイトは微々たるものでしかない(その他業務収益が8.1%)。

したがって、零細金融機関ほど、利ザヤ低下による影響を強く受けるわけだ。そして、今後も利ザヤが縮小するような状況が続くとすれば、零細金融機関は淘汰される可能性が高い。

利ザヤの縮小で資金運用収益が長期的に減少

長期的に見ても経常利益が減少している(2014年度に若干増えてはいるが、15年度は再び減少した)。

その大きな原因は、利ザヤの縮小で資金運用収益(当期末)が減少したことだ。この様子は、図表6、7に示されている

貸出金利と預金金利の長期的推移を示す。

金利水準が全般的に下がっているが、それだけでなく、利ザヤが減少しているのが重要である。このことは、図表7を見れば、よりはっきり分かる。
 これが、長期的に見た資金運用収益の減少をもたらしているのだ。

資金運用収益は、08年度から15年度の間に、87%に縮小した。その原因は、利ザヤが約6割に縮小したことだ。

貸付金利がゼロになる可能性がある

他方で、貸し出しは、緩やかに増加している。
もっと長期的に見ると、図表7に示されているように、1990年代には、利ザヤが2.5%程度あった。その頃に比べると銀行の資金運用収益は大幅に悪化しているわけだ。

90年代には不良債権処理が重要な課題だったので、こうした構造変化が進んでいることがあまり認識されなかった。

総貸出平残の長期的推移

今後マイナス金利政策が浸透すれば貸付金利がゼロになる可能性がある

なぜ金利がこのように低下したのか。そして、今後はどうなるか?

それを考えるために、約定平均金利を、図表9に示す10年国債の利回りと比較してみよう。

最近の値を見ると、10年国債の利回りがほぼゼロ%であるのに対して、新規貸付金利はほぼ0.7%だ。この差は、貸し付けのリスクプレミアムであるように見える。そうだとすれば、日銀は今後10年国債の利回りをゼロ%程度に維持するとしているので、預金金利がほぼゼロとすれば、銀行は今後とも現在と同程度の利ザヤを稼ぐことができるだろう。

しかし、この0.7%程度の差がリスクプレミアムなのかどうかは、疑問だ。実際2008~09年頃を見ると、10年国債の利回りも新規約定平均金利もほぼ1.5%であって、大きな差がない。むしろ、09年には、新規約定平均金利のほうが若干低いくらいである。

この間に貸し付けのリスクプレミアムが上昇したとは、考えられない。BISの自己資本規制バーゼルIIIが10年に公表されているので、銀行のリスク資産はむしろ減少しているはずである。

こうしたことを考えると、新規約定平均金利が現在0.7%程度になっているのは、単なる遅れによるものである可能性がある。

もしそうだとすれば、今後マイナス金利政策が浸透するに伴って、貸付金利もゼロ%に近づいていく可能性がある。

他方で預金金利をマイナスにできないという制約を課すとすれば、利ザヤはゼロ%に収斂してしまう。つまり、銀行の資金運用収益はゼロになり、銀行のビジネスモデルの基幹が破綻してしまうことになるのだ。

この状況を打破する第1の方法は、リスクの高い貸し付けを行なってリスクプレミアムを高くすることだ。しかし、それは見かけ上の収益を増やすことであって、銀行経営のリスクは増大する。またバーゼルIIIの制約下にある銀行が貸し付けのリスクを増やすのは、難しいだろう。

もう1つの方法は、預金金利をマイナスにすることである。あるいはATMの利用料や送金手数料等の引き上げを行なうことだ。

しかし、こうしたことを行なえば、預金者の銀行離れが起きるだろう。従来であれば、現金保有のコストが銀行離れに歯止めを掛けただろうが、いまは、仮想通貨という強力な代替手段がある。したがって、資金が銀行システムの外に流出してしまうだろう。

銀行は、フィンテックの導入によってコスト削減しようとしている。しかし収益源が消滅するという問題には、基本的に対処できないだろう。

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