「いつまで同じことを?」

画像の説明 8月15日、韓国の光復節(韓国の植民地からの解放記念日)に合わせ、韓国与党セヌリ党の羅卿〓(ナギョヌォン、〓は王偏に爰)前外交統一委員長を団長とする10名の韓国国会超党派議員団が竹島に上陸し、同島の領有権を主張した。光復節は韓国にとって特別な日であり、日本に植民地にされたことを想起する日でもあり、竹島問題に関連する行動がとられやすい日である。

韓国メディアが伝えたところによると、議員団は上陸目的について、「日本が領有権を主張する中、われわれの領土を守る意思を国民に伝え、愛国心を鼓舞するため」と述べている由である。

他方で朴槿恵大統領は同日の演説で、「韓日関係も歴史を直視する中で、未来志向の関係を新たに作っていかなければならない」と強調し、慰安婦問題について言及を避けている。

13年、14年の光復節の演説では日本に歴史問題での対応を迫ることに主眼を置いていた。昨年は日韓関係改善に重点を置きながら、対日関係にも一定の分量を割いて述べている。今年の光復節演説は、日韓関係については一言触れただけで、日韓関係を改善しようとする意向を明確にした。今回の議員団の行動はこうした中で行われた。

今回の議員団の行動に対して、地元・島根県の人々は「韓国信用ならぬ」として怒りを表明し、こうした不法行為が定着しないかと、産経新聞は懸念を表明している。

それはまた、慰安婦合意に基づき韓国側が設立する慰安婦を支援するための財団へ日本政府が10億円の拠出に合意し、その手続きを進める中で行われたものであり、日本人の間には韓国不信が強まっている。

日本として、日韓関係を進める韓国政府とこれを妨害しようとする議員団の行動をどう理解すればいいのか。竹島と慰安婦合意をどう位置づけて考えるべきかとの疑念も芽生えている。こうした疑問に対し、私なりの考えを述べたい。

韓国でも政治的パフォーマンスと見られている議員団の竹島訪問

議員団の竹島上陸の動機は何か。

団長を務めた羅議員はかつてソウル市長選に出馬した際、日本の自衛隊記念日のレセプションに出席したとして親日と批判され、その影響もあって落選した苦い経験を持つ。

今回は、その挽回を期待したのであろう。他の議員については、日本の竹島領有権の主張に毅然として反対していると印象付けようとした売名行為か、中には竹島について日本の主張に感情的反発を覚えている者もあるであろう。

7月25日に竹島に上陸した、文在寅「共に民主党」前代表は、竹島を領土問題から歴史問題にすり替えた故盧武鉉元大統領の秘書室長であり、弁護士事務所の盟友でもある。竹島に関しては故盧武鉉大統領の強い信念を共有していたのであろう。しかし、来年の総選挙に立候補することに意欲を示し、野党の有力候補と目されており、かつ来月に党大会が予定されていることから、それを狙った政治的パフォーマンスと言われても仕方がないであろう。

韓国の国内政治は対立と抗争の歴史を繰り返してきた。その主導権争いは熾烈を極めている。

注目すべきは前回現職議員が竹島に上陸したのは2013年8月14日であること。それから3年あまりの間は、日韓関係は慰安婦の問題を巡って対立し、首脳会談も開かれない状況下にあった。したがって、反日行動は目立たない状況にあった。

しかし今年の光復節は、昨年12月に慰安婦についての合意がなされ、朴槿恵大統領が日韓関係の改善を進める中で、議員団が竹島に上陸したということになり、政権とは明確な対比ができる。

大統領が日韓関係の改善に動けば、対立する野党議員、また与党の中でも主流に属さない議員はむしろ反対の行動に出るのである。大統領がこれを抑制しようとしても当然言うことを聞かない人たちである。

竹島に上陸した議員団を公然と批判した韓国メディア

ただ、注目するべきことは、メディアと一般国民がこうした議員の行動を以前のように支持しなくなっていることであろう。

韓国の大手新聞の中央日報は、「政界が警戒すべき『独島(竹島の韓国での呼称)ポピュリズム』」と題する社説を掲げている。

その中で同紙は、「与野党の政治家が騒がしく独島を訪問するのは政治的な人気を得る戦略ではないかという疑念を拭えない」として批判している。

同社説はさらに、「(韓国が竹島を歴史問題と主張する中で)波紋が広がれば独島は領土紛争地域と誤った信号を国際社会に与えることになる」「これまで多くの政治家が独島問題に触れながら得るものもなく韓日関係を悪化させてきた」「(文在寅・前「共に民主党」代表について)李明博前大統領の独島訪問を最も強く批判したのが現在の野党だった」とした上で、「慰安婦被害者のための『和解・癒し』財団が発足した時点に、あえて日本側を刺激するのは賢明なことではない。

政治的な意図が込められた『独島ポピュリズム』は自制されるべきだ」と結んでいる。

日本の毎日新聞は、「ソウル市内では、同日地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の賛成、反対両派の集会が盛り上がりを見せた。これらの集会への参加者が警察集計で計約6500人だったのに対し、日本大使館前での慰安婦合意に反対する集会参加者は約130人にとどまった」と伝えている。

朴大統領の演説が、韓国が抱える経済困難の克服、安保問題に集中していたことと、市民の集会参加者が、反日的活動が極めて少なかったことと平仄が一致していることを注目するべきであろう。反日活動はそれほど共感を呼ばなくなっているのである。

日韓関係を大きく左右する朴槿恵大統領の意向

韓国では大統領が日韓関係でどのような姿勢を示すかが重要である。朴槿恵大統領は慰安婦を支援する財団に強くコミットしており、韓国政府は着々と合意の履行手続きを進めている。

慰安婦合意については、朴大統領は強くその実現を目指している。しかし、来年には大統領選挙が行われ、野党の候補が大統領となれば、韓国政府の姿勢も変化しかねない。したがって、日韓両国政府としては、慰安婦合意を着実に履行し、韓国の一般国民がこの問題は解決したとの認識を持つことで、政権が変わってもこの問題を再提起することは政治的にメリットにならないと自覚させることが重要である。

韓国側財団関係者は、韓国の慰安婦支援団体に属さない元慰安婦とも接触を続けており、その多くは理解を示していると言われており、この人々が財団の活動を理解し、これを受け入れることで、韓国の一般国民は、慰安婦問題は解決したと感じるであろう。

そのためにも、日本側は韓国政府の動きを助長していく必要がある。菅義偉官房長官は、議員団の竹島上陸に関し、「事前の抗議にもかかわらず訪問が強行されたのは極めて遺憾だ」と述べる一方、慰安婦合意については「責任をもって実施することが重要」と述べている。まさに日韓両国政府の呼吸はあっていると言える。

韓国政府が、日韓関係の改善に寄せる思いは朴槿恵大統領の光復節演説に表れている。

そして、こうした朴大統領の意向が中央日報の社説に反映されているのである。これまで韓国では、国会議員団の竹島上陸を公然と批判するメディアの報道はおそらくなかったであろう。

竹島に上陸した議員団の行動は、仮に日本政府が抗議しても、決して受け入れることはない。日本側の抗議を受け入れれば、それに屈したことになり、むしろ政治的にマイナスとなる。

彼らはそもそも「確信犯的」な人々である。こうした行動を止めるためには、韓国の国内世論の批判が高まることが不可欠であり、中央日報の社説や市民の姿勢が、その発端となることを期待したい。

竹島問題は歴史問題だとする韓国の認識を改めさせることが最も重要

竹島問題は、韓国では最も国民感情が刺激される問題である。それは、歴史問題にこだわった故・盧武鉉大統領の時代、韓国国民が政治的宣伝活動で、竹島を領土問題ではなく歴史問題として認識するようになったことが背景にある。

日本が竹島を島根県に編入したのは1905年であり、それは日本が韓国から外交の権限を奪い、保護領とした年と一致する。

したがって、韓国では竹島は日本の韓国侵略の第1歩であり、日本の竹島領有権の主張は、日本の新たな領土的野心の表れだとの認識が広まっている。

島根県による「竹島の日」の制定や、これに伴う記念行事、日本教科書の竹島記述は、竹島を領土問題と見るならば、韓国の「独島」不法占拠、「独島領有権」教育に比べて国際的に見ても決して理不尽な行動ではない。

むしろ、非常に抑制された行動と言える。それでも韓国が反発するのは、歴史的に韓国が領有してきており、日本の領有権の主張には具体的な根拠がないとの一方的な見解に基づくものである。

韓国の国民は日本の領有権の根拠を知らない。というより、自分たちに都合の悪いことは知ろうとしない。韓国では、「良心的日本人」という言葉があるが、要するに竹島は韓国の領土だとする韓国迎合の日本人が若干名おり、それが、韓国では広く紹介されているのである。

こうした主張を打破していくためには、日本が竹島を領有するという根拠を具体的に示していくことが重要である。日本が国際司法裁判所に提訴するという動きに韓国政府が応じることは韓国の国内政治上困難ではあるが、日本が確かな根拠を有していることを示す上では、有益なことかもしれない。

ただ、その場合には日韓関係が悪化するというリスクも大きい。どのように行うか、慎重な判断が必要であろう。

竹島問題の進展は一朝一夕には起こらないかもしれない。しかし、中長期的視野で戦略的に前進させることが重要である。

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