「特権?」

画像の説明  全国自治宝くじ──。1年間に5回発売されるジャンボ宝くじの正式名称だ。

「自治」の名の通り、発売元になっているのは都道府県などの自治体だ。宝くじの詳しい歴史は後述するが、もともと宝くじは戦後、自治体の歳入確保の手段としてこれまで発展してきた。

ジャンボ宝くじ以外にも、近畿や西日本地域などの自治体連合による「ブロックくじ」、「ナンバーズ」や「ロト6」といった数字選択式のくじも含めると、年間で約560回も発売、抽選が実施されている。

そのため、各自治体が個別に運営するのは難しく、ジャンボくじであれば47都道府県と20政令指定都市で、「全国自治宝くじ事務協議会」という連合体を組み、そこでの議論を経て、毎年の発売計画を練っているのだ。

詳しく解説していこう。全国自治宝くじ事務協議会の会長は、全国の自治体の“親玉”となる東京都知事。事務局長は、同じく東京都の主計部長が務めるのが慣例だ。

実務を担っているのは都の公債課。公債課長が事務局の次長として、日々の細かな業務に目を配る体制になっている。

これまでの販売実績や景気動向、実質賃金の伸び率などを踏まえて、年間発売計画のたたき台を作成するのも、公債課の仕事の一つ。

それを基に、各自治体の代表者が議論を重ねて、毎年10月までに翌年度の計画を決定する。

昨年は大阪市内のホテルで協議会を開き、オブザーバーとしてみずほ銀行などが参加する中で、2016年度の発売計画を決定した。

計画を基にして、実際に発売を許可するのは総務相だ。宝くじの根拠法となる「当せん金付証票法」を所管する実務は地方債課が担っており、計画に問題がなければ発売に向けた準備に入る。

宝くじにおける自治体、協議会の主な仕事はここまで。それ以降は、みずほ銀に業務を委託というかたちで大幅に権限を委譲し、みずほ銀が外注業者を含めて、販売から抽選までを統括しているのが実態だ。

みずほ銀は前身の日本勧業銀行時代から長年、受託を担っている。

そもそも、なぜ毎年のようにみずほ銀に委託をしているのか、と疑問に思う読者もいるだろう。

みずほ銀が持つ各事業者に対する強大な権限

実は、発売3カ月前に公告される委託先の募集に対して、手を挙げる金融機関がそもそも、みずほ銀しかいないのだ。

毎年1兆円近いお金が動くビジネスにおいて、統括するだけの人員とシステムの整備は、ほかのメガバンクにおいても簡単にできるものではない。それが、事実上の参入障壁の一つになっているともいえる。

包括受託が生み出す強大な権限

協議会から包括的な権限委譲を受けているみずほ銀は、各業務をさまざまな事業者に発注、または再委託している。

宝くじ券の印刷は凸版印刷、運送は日本通運、抽選機材はNHKアート、抽選システムは日本宝くじシステム、宣伝は電通などといった具合だ。

中でも、ボリュームが大きいのが販売(売りさばき)業者だ。14年度で1096社あり、店舗数は宝くじ専業だけでも3600店を超える。それらを全て、再委託先の事業者として、みずほ銀が管理しているわけだ。

これだけでも大変な事務量だが、そうした作業を請け負うことによってみずほ銀が受け取る報酬は、特にないという。

協議会から委託を受けて、みずほ銀は売り上げの中から1200億円超もの資金を各事業者に支払っているが、コスト削減などで浮いた分の経費は、発売元の協議会に返還する必要がある。実際に14年度は、19億円を返還した。

そのため、みずほ銀としての利益になるのは、あくまで一販売業者として宝くじを売った分の手数料しかない。

手数料率は、300円くじは6.3%などと、法律であらかじめ規定されているので、そこから人件費や物件費などを引けば、利益率はさらに低くなる。

宝くじ業務をめぐっては、みずほ銀の利権になっているという指摘が一部である。

だが、電通など発注先企業との関係強化、受託によるみずほ銀行宝くじ部の人件費捻出という意味でのメリットはあっても、利権というほどのもうけ(業務純益)が、銀行本体にもたらされているわけではないようだ。

宝くじ業務の心臓部は都内某所の施設

ビジネスとしての実入りは多くない宝くじだが、年末ジャンボだけでも真夏の7月ごろから印刷を始め、5億枚以上を流通させるなど業務は煩雑だ。

その業務を一手に引き受ける、みずほ銀の「心臓部」ともいえる施設が都内某所にある業務センターだ。

印刷された宝くじ券は、業務センターにいったん集められ、全国のみずほ銀の支店約70カ所に、一斉に日通が配送している。

宝くじは有価証券ということもあって、厳格な取り扱いが求められる。そのため、基本的に各販売業者に直送することはない。各支店に配送された宝くじ券を、各業者が受け取りに行き、それぞれの店舗まで運ぶという仕組みにあえてしているのだ。

売れ残ってしまった宝くじ券はどうなる?

そうして全国で販売された結果、売れ残ってしまった宝くじ券は、販売終了から2営業日後までにみずほ銀の支店に運び込まれ、そこから都内の業務センターに全て回収される。

もし、大量の売れ残り宝くじ券を当せん発表後まで販売業者が持っていると、当せんくじだけを誰かが購入したことにして抜き取るような不正が、簡単にできてしまうからだ。

さらに、回収された宝くじ券は、その番号を専用の機器で全て読み取る。どの番号が売れ残り、消費者の手に渡ったのは何番なのか、抽選の結果何枚の当せんくじが実際に出たのかを、この作業によって判別できるようにしている。

回収された宝くじ券を段ボール箱から取り出し、機械に詰め込むという人海戦術的な証票整理(残券整理)を担当しているのが、みずほ銀の関連会社、みずほドリームパートナーだ。

みずほ銀の支店のすぐ横にある店舗で、宝くじを売っている人たちも基本的に同社のスタッフで、みずほ銀のOGが数多く在籍しているという。

当せんした宝くじの真贋判定をして、保管しているのも先に登場した業務センターだ。

宝くじ券には紙幣さながらに多くの偽造防止技術が施されており、それを担当者が細かくチェックしている。100万円を超えるような高額の当せん金の支払いに1週間程度の期間がかかるのは、実はそのチェック作業のためだ。

年に3回ある協議会の定期検査でも、各業者に発注した経費の適正さに加えて、当せんくじの保管状況なども調べられるという。

そうした監視の下で、宝くじの業務は日々回っているが、問題となってくるのは、「社会貢献広報事業」という名目で、みずほ銀行の再委託先として登場する日本宝くじ協会と、自治総合センターという二つの公益法人だ。

2法人には、毎年100億円を超えるお金が宝くじの売り上げから配分されているが、その使途には疑問の余地が多分にある。

自治体の財源となるはずの宝くじだが、官僚の天下り法人を優遇するかのように、売上金の一部が流れる構図はいまだ健在だ。

あなたはそれでも宝くじを買いますか?

コメント


認証コード5722

コメントは管理者の承認後に表示されます。