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「ホンネ」

画像の説明 スプラトリー諸島(南沙諸島)に駐在するベトナムとフィリピンの軍部隊が8日、親善スポーツ大会を行った。

中国政府・外交部の華春瑩は9日の記者会見で、反発をあらわにしたが、両国を非難する際に「南シナ海行動宣言」を厳格に守るべきだ」との文言を盛り込んだ。

同宣言の最大の目的は、南シナ海における領有権主張の対立を平和的に解消するための信用関係の構築であり、対立する国の軍部隊が信頼関係の構築のためにスポーツ大会を開催することが、「違反行為」とは思えない。華報道官の発言には、中国の「ルール感覚」についての本音がつい出たとも解釈できる。

大会は、双方の軍部隊の信頼の醸成などを目的に、ベトナムが実効支配するサウスウエスト島で行われた。約3.2キロメートル離れた地点にあるノースウエスト島に駐留するフィリピン軍部隊の軍人が、サウスウエスト島に赴いた。

中国政府は同動きに反発。華報道官は「小細工」、「稚拙なドタバタ劇」など刺激的な言葉を盛り込んで非難した。さらに、ベトナムとフィリピンに対して「南シナ海行動宣言を厳格に守るべきだ。争議を複雑化、拡大化するいかなる行為もするべきでない」と要求した。

「南シナ海行動宣言」は中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国が2002年に締結した、同海域における領有権を巡る対立を激化させないための共同宣言だ。拘束力はないが、中国は南シナ海の問題で対立する相手を非難する際に、同宣言に言及することが多い。

同宣言は、南シナ海における問題について「平等と相互尊重を起訴として、信頼関係構築の道を探る」と明記。さらに、南シナ海における航行と飛行の自由を尊重することや、「友好関係と透明度を向上させ、調和を築き、相互理解と協力、平和的な方法で相手との争議を解決すること」を求めると表明。争議解決の具体策については「それぞれが同意する方式で」としている。

同宣言には、南シナ海での軍事的な衝突という最悪の事態を避けるという大きな目的がある。ベトナムとフィリピンの軍部隊による親善スポーツ大会は、むしろ、「同宣言の内容と精神に合致する」と評価できるものだ。

もちろん、実際問題として、ベトナムとフィリピンの動きには中国を牽制(けんせい)する目的があると解釈するのが妥当で、中国が両国による“奇襲”を受けて驚き、怒ること自体は、理解できなくもない。

華報道官の発言は、記者からの質問を受けてのものだが、仮に「中国には関係ないこと」と述べたのなら、問題はまったくない。中国は、自国こそが南沙諸島すべての領有権を持つと主張しつづけているのだから、政府の報道官として改めて「自国領。ベトナムとフィリピンは不法に占拠を続けている」と非難しても、おかしくはない。

しかし、国際的に締結された条約やルール、あるいはそれに準じる「宣言」を用いて他者を非難するならば、まず「公明正大な立場から見て、該当するルールなどを用いて相手を非難することが妥当かどうか」と、条約やルールの内容を吟味することが前提になるはずだ。

今回の事例は、中国にとってみれば「緊張が高まった」ことになるかもしれない。しかし、南シナ海の「緊張緩和」全体にとってはどうだったろう。大会開催について、ベトナムにもフィリピンにも「リスク」はあったはずだ。

ベトナムが実効支配する島にフィリピン側が赴いたわけだが、ベトナムにとってみれば「スポーツ大会に参加と言いながら、フィリピンが重装備の部隊を送り込み島を奪取」との事態もありえたはずだ。逆に同島に到着した軍人が拘束されるというリスクが、フィリピン側にはあったはずだ。国と国の対峙が、きれいごとだけで事態が進行しているわけではない。

親善大会がつつがなく終了したことで、ベトナム側にもフィリピン側にも「相手は約束を守った」と「敵に対する評価」が生まれたはずだ。これは「宣言」が目指す信頼の向上そのものだ。

ベトナムとフィリピンを非難した中国が、同宣言を「信義にもとづいて適用しよう」と考えたとは思えない。むしろ、「存在するルールは自らを有利にするために、使えるだけ使う。それだけのことだ」という発想が見え隠れする。

国内問題に目を転じると、どの国においても権力者が法律などの各種ルールを「自らの利益のために最大限に利用する」という現実はある。しかし中国では、この傾向がとりわけ強いと考えてよい。原因はさまざまあるが、社会の仕組みの面から言えば、三権分立が存在しないため、司法の場を含めて権力者が思いのままにルールを“利用”しやすいことを挙げられる。

「南シナ海行動宣言」についての華報道官の奇妙な言及は、ルールが持つ「公明正大さを担保するための道具」としての機能を軽視し、「とにかく使える時に使えるだけ利用」と見なしがちな、中国人の本音が“ぽろり”と出てしまったとも解釈できる。

中国は他国との関係構築に際して「互恵互利」という言葉を盛んに使う。

しかし、自国一国の利益のために「大義名分」を強引に振りかざして利用することをいとわない場合もある。そんな事例が、またひとつ増えた。

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