「疲れるくらいの捏造」

画像の説明 安全神話も“捏造中”…中国新幹線、死亡事故「いまだなし」と報じるメディアの屁理屈

中国初の高速鉄道の死傷事故となった中国温州市の現場=

50年以上にわたり、乗客の死亡事故を1人も出していない「安全神話」を打ち立てている日本の新幹線。この日本の新幹線に対抗しようとしているのか、中国メディアが中国の高速鉄道も「いまだかつて高速鉄道の死亡事故は起こしていない」という“仰天ニュース”を報じている。

中国の高速鉄道事故といえば、死者40人、負傷者約200人を出した2011年の中国浙江省温州市の追突脱線事故の記憶が新しい。救出作業よりも車両撤去と運行再開が優先されたあの事故だ。だが、記事は今になってこのときの車両は「高速鉄道ではなく、特別快速列車だった」と主張、あくまで死亡事故は1件もなかったと強弁している。

中国は国を挙げて高速鉄道の輸出に力を入れているが、タイの高速鉄道受注を事実上日本に獲られるなど苦戦している。こうした焦りが「死亡事故はなかった」に結びついているとの見方も出ている。

時速250キロ以上が高速鉄道!?

問題の記事は、ニュースウェブサイトのサーチナが、中国メディアの環球網の報道として伝えた。

それによると、中国における「高速鉄道」の定義は、「時速250キロメートル以上で走行する鉄道」だと主張。温州市で11年に起きた事故は、高速鉄道の定義を満たしていない「特別快速列車」による事故だったと論じている。

同時に日本では「新幹線はいまだ死亡事故が起きていない」という「安全神話」なるものも存在すると紹介。さらに、新幹線の安全神話を裏返して読み取れば、「フランスやドイツ、中国では高速鉄道の死亡事故が起きている」という意味だとし、「中国高速鉄道の死亡事故は起きていないため、これは誤った主張だ」と論じた。

その上で、中国は国際社会に向けて「高速鉄道の開通以来、死亡事故は一度も発生していないことを胸を張って宣言すべき」とし、中国は今後も高速鉄道の死亡事故が起きないよう努力し続けるべきとしている。

温州市で起きた高速鉄道事故を念のため、おさらいをしておこう。

2011年7月23日午後8時半(日本時間同9時半)すぎ、高速鉄道列車が別の列車に追突、車両4両が脱線後に高さ約20メートルの高架から落下。40人が死亡、約200人が負傷した。

信頼失墜した温州市の高速鉄道事故

2007年に運行を開始した中国高速鉄道で初めての大事故となり、中国政府は「列車制御システムの設計不備に加え、落雷後の緊急措置が不適切だった」とする原因調査結果を発表。高速鉄道の安全性への信頼を失墜させる事故になった。

事故の記憶が残っているのは、無残な事故映像もさることながら、事故後の不適切な処理も大きい。中国当局は事故翌日には事故車両を地面に埋めるなどして撤去し、すぐさま営業運転を再開した。

このため、救助活動は短い時間で打ち切られたが、打ち切り後に生存者が発見され、運転再開を優先した当局の姿勢に「人命軽視」「証拠隠滅」などと国際的に非難が集中したのだ。

このとき追突した車両は、日本の川崎重工業が技術供与したCRH2型と呼ばれ、東北新幹線の「はやて」をベースにしている。CRH2は、安全性を確保できる最高速度を時速200~275キロに定めているが、中国側は一部区間で同350キロで運航していたとされる。

当時の新華社通信は、乗客の話として、列車は時速約100キロで前方の列車に突っ込んだと伝えている。業界関係者は「『はやて』をベースにした車両での事故は、やはり高速鉄道の事故といっていい。今さら特別快速列車というのは言い逃れに聞こえる」と中国メディアの主張をバッサリ切る。

つまずき目立つ中国の高速鉄道ビジネス

中国メディアが「死亡事故はなかった」と強弁するのは、世界で激化する高速鉄道受注競争を有利に進めたいとの思惑がにじむ。

昨年11月にメキシコから受注した高速鉄道が“白紙撤退”の憂き目にあっている。中国初の高速鉄道輸出として喜びに沸き返っただけに落胆も大きく、メキシコが中国に賠償金を支払う事態に陥っている。

そして最近中国が衝撃を受けたのは、日本に狙っていたタイ初の高速鉄道を日本に事実上奪われたことだろう。

先月27日、来日したタイのプラジン運輸相は太田昭宏国土交通相と会談し、バンコク-チェンマイ間の高速鉄道について、日本の新幹線方式導入を前提に調査を始める覚書を締結した。新幹線導入で事実上合意した形とみられている。実現すれば、日本にとって台湾新幹線に続く新幹線輸出となる。

バンコク-チェンマイ間の高速鉄道は、日本の新幹線と同じく専用軌道を建設。総延長670キロ、時速250キロで総工費は2730億バーツ(約1兆円)規模になる。

日本の新幹線を見くびるな

中国網日本語版は、タイ受注を日本に事実上奪われた後に「日本新幹線の競争力を見くびってはならない」との記事を掲載。この中で「なぜわれわれが確実視していたプロジェクトが空振りに終わったのだろうか?」とした上で「日本の新幹線は中国高速鉄道の最も主要なライバルになる。

(日本の)新幹線の最大の特長は質と安全だ」と“敗因”を分析している。中国が得意とする低コストだけでは受注を勝ち取れないと気づき始めたといっていいだろう。

つまずきが目立つ中国の海外鉄道事業だが、国有大手の中国北車と中国南車が経営統合し、「中国中車」が6月に誕生。世界最大の車両製造会社になり、虎視眈々(こしたんたん)と新興国市場開拓などを狙っている。

政府を挙げてのインフラ輸出に一層力を入れてくるとみられ、低コストに加え、今後は質と安全にも十分気を配ってくることが予想される。日本も引き続き負けない努力が求められることになりそうだ。

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