「調査費」がクセモノ、リニア予算…

画像の説明 センセイのごり押し「我田引鉄」にあきれ果てる

過去最大規模となった平成27年度政府予算案。政府は財政再建の必要性を唱えるが、予算案編成過程ではいつも通り利害関係者たちの分捕り合戦が展開された。例えば北陸新幹線延伸とリニア中央新幹線計画をめぐる動き。自分たちのために公費での鉄道整備をごり押しする「我田引鉄」のならいが今も生きているようだ。借金まみれの日本政府が、やってはいけないことのリストの筆頭に「ばらまき」があるのだが…。

たった10分…“速達率”対効果で疑問な、センセイの圧力

「10分や20分早くなったからといって何の意味があるんでしょうか」

JR西日本関係者は、北陸新幹線の延伸区間のうち「金沢-福井の開業を前倒しすべし」との声に疑問を呈する。現在の特急「サンダーバード」と比べて、移動時間は少ししか短くならないという。

金沢-福井前倒し論を勢いづかせたのが今回の予算案だ。同区間を含む金沢-敦賀の開業を当初計画より3年早めて34年度とするための事業費が計上された。

国土交通省幹部は、地元の陳情を受けた「北陸選出のセンセイの圧力があった」と話す。北陸には、自民党政調会長の稲田朋美氏(福井1区)ら有力者がいる。前倒しに必要な財源は見当たらないといわれてきたが、結局ひねり出した。

この成功体験を生かせば、金沢-福井をさらに前倒しし、東京五輪開催の32年に間に合わせることもできそうだ。「福井県は全国最多の商業原発13基を抱えるエネルギー政策上も重要な地域。地元の要望があれば、むげにはできない」(経済産業省関係者)。

たった1000万円…エビで鯛を釣りたい、介入の先兵「調査費」

関西経済界の悲願、リニア中央新幹線の建設でも前進があった。名古屋-大阪開業に関する調査費1千万円が計上されたのだ。

遅れた地域の底上げを御旗…角栄流「列島改造論」が生んだ国鉄の大借金、忘れたか

JR東海の計画では、東京-名古屋開業は39年で、名古屋-大阪開業は18年後。そのブランクの間に東京と名古屋経済圏の一体化が進み、大阪が置き去りにされるとの懸念から、関西財界を中心に名古屋-大阪開業前倒し論は強い。

もっとも調査費が1千万円で何ができるのかは不明だ。財務省幹部でさえ「コンサルティング会社に依頼することになるのでは」という程度。ただ、国費投入を警戒して「前倒しとはまったく関係ない」と強い口調でくぎを刺す。

JR東海も、全線同時開業は費用の面でも技術の面でも非現実的との立場だ。国費を大量に投入すれば可能性も出てくるが、同社は「国の経営への介入を避けたい」と自力での段階的な開業にこだわる。

そうした中での調査費1千万円。国の事業費としては大きくはないが、計上された意味は小さくない。前例踏襲が常の霞が関では、次年度以降も計上が続き「名古屋-大阪開業前倒し」は既成事実へと育っていく可能性がある。さらに、調査で前倒しによる経済効果、必要な補助額が示されれば、国の介入を促す口実になる。

30年前に予言…ニッポン衰退の開始時点

新幹線建設などの公共事業や補助金で経済発展の遅れた地域の底上げ、下支えを図ろうという考えは、田中角栄元首相の「列島改造論」が源流。こうした手法は、インフラ整備が進み市場経済が成熟した今の日本では有効ではない、との見方が多い。

米国の都市研究家、ジェイン・ジェイコブズ氏は、補助金行政の負の側面を強調する。「発展する地域 衰退する地域 地域が自立するための経済学」(ちくま学芸文庫)で、補助金は地方の自発的な経済発展の邪魔をして、補助金の原資である税金の多くを生み出す都市部の衰退も招く、とさまざまな事例を挙げて論証している。

崩壊の始まりは、やがり我田引鉄だった

同書が米国で出版されたのは約30年前。「100年後に、もし歴史家が、日本の衰退の開始時点を知ろうとすれば、1977(昭和52)年が一つの目安となろう」と指摘する。赤字国債発行、財政赤字が慢性化し出したころだ。その流れは今も断ち切れていない。地方活性化を訴え我田引鉄に走る人たちに、ジェイコブズ氏の警句はどう響くのだろうか。

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