デフレ、沈むギリシャ 緊縮政策「経済を壊した」

画像の説明 欧州連合(EU)などの支援を受けて財政再建中のギリシャが、長引く景気後退と、モノやサービスの価格が下がり続けるデフレに悩んでいる。

財政緊縮策が消費低迷とデフレにつながる悪循環だ。総選挙では「反緊縮」を掲げる野党が大勝。EUなどの支援がなければ立ちゆかず、支援の条件の緊縮策に苦しむという袋小路にはまっている。

アテネ北部の住宅街にあるディスカウントスーパー「リドル」は、多くの買い物客でにぎわっていた。

店内には、段ボール箱に入ったままのペットボトルや雑貨が所狭しと積まれている。1・5リットルのミネラルウォーターが6本0・99ユーロ(約132円)、缶ジュース0・28ユーロ、ワイン1本2・99ユーロ……とセールの値札が貼られている。

客のボロバ・ルーリさん(52)は「安いのでよく使っている。パン屋で働いているが、危機の後から給料がどんどん減っているから」。道路の向かい側にある地元スーパー「スクラベニティス」の半額で売っている商品も多いという。

ドイツ生まれのリドルは「安売り」を前面に出し欧州各国に出店している。同じドイツのディスカウントスーパー「アルディ」と並んで「欧州デフレの象徴」とされ、ドイツがギリシャなど南欧諸国に緊縮財政を求めるのと合わせ、「デフレを輸出するドイツ」と言われるゆえんだ。

病院職員のコスタス・カチアニスさん(42)は「以前は商品の質が良いスクラベニティスで買い物していたが、最近はリドルだ。5年前から給料は3割減り、税金は増えた。本当はギリシャの店で買いたいが、仕方ない」と話した。

ギリシャは2008年から6年連続のマイナス成長で、失業率は約25%で高止まりしたままだ。特に若い世代の失業率は約50%にのぼる。消費者物価の上昇率(インフレ率)は、13年3月から2年近くマイナスが続く。財政再建のため増税や歳出カットが相次ぎ、労働者の最低賃金は2割超も引き下げられた。

ギリシャ全国商業連合会のバシリス・コルキディス会長は、緊縮政策の影響をこう指摘する。「個人消費は激減し、約23万の中小企業が閉鎖に追い込まれた。企業は銀行から融資を受けられず、デフレで借金の実質負担は増える。デフレがギリシャ経済を壊した」

■新政権、EUと支援交渉へ 「進むも退くも地獄」

そうした経済の苦境に国民の不満は高まり、25日の総選挙では「反緊縮」を掲げる急進左翼進歩連合の大勝につながった。急進左翼は政権につき、EUなどとの交渉で支援条件の変更を求める方針だ。

ドイツなど支援する側からすれば、税金を使って救済しているだけに、簡単には受け入れられない。ギリシャを特別扱いすれば、他の支援を受けた国にも影響が及ぶ。交渉が決裂すれば、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱に追い込まれるおそれもある。

公務員の労働組合「ADEDY」のスタブロス・コウチュベリス理事は「緊縮財政をやめ、EUなどからの借金の削減と返済期間の延期をすべきだ。ただ、国民の75%はユーロ圏残留を望んでいる。ギリシャは進むも地獄、退くも地獄という状況だ」と語る。

危機が続いているのはギリシャだけではない。ユーロ圏全体の昨年12月のインフレ率は09年10月以来のマイナスだった。デフレを防ごうと欧州中央銀行(ECB)は今月22日、国債などの資産を買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和の導入を決めた。ユーロ圏各国の国債を買い始めるのは3月からだが、支援を受けている国には、財政再建の条件をつける方針だ。

ギリシャの銀行はECBからの資金供給で成り立っているだけに、「交渉で緊縮策を守るようギリシャに圧力をかけた」と市場では見られている。このままではギリシャ経済はじり貧だが、EUなどの支援がなければ破綻(はたん)しかねない。

アテネ商工会議所のコンスタンティン・ミハロス会頭は「ユーロ圏離脱に追い込まれれば、エネルギーや食料を輸入に頼るギリシャは大混乱に陥る。EUとの約束を守るしかない。これは、政党にとってではなく国全体の危機だ」と語る。

とはいえ、反緊縮で選挙に勝った急進左翼も、引けば国民の失望を買う。交渉は、両者とも譲れない「チキンレース」の様相だ。

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