「国民はトラだ」

画像の説明 英国国民は1945年、ナチス・ドイツが降伏してから2カ月後に行われた総選挙で、戦争を勝利に導いたチャーチル首相を敗北させた。

「すでに終わった戦争の指導者」を追い落とし、福祉の充実など将来を直視するビジョンを掲げた野党を選んだのだ。チャーチルの側近たちは「国民は恩知らずだ」と不満をあらわにした。だがチャーチルは退任に当たってこう述べた。「在任中、国民のしもべである私たちに対して与えてくれた温かい親切に感謝するだけだ」

「246種類ものチーズがある国をどう治めていけばよいのか」。フランスのシャルル・ド・ゴール元大統領は、国民がどれだけ気まぐれで、考えが多様なのかということを、このような言葉で表現した。フランスの「国父」としてあがめられるド・ゴールは1968年の「五月革命」の結果、任期途中での退陣を余儀なくされた。ド・ゴールの下で文化・通信相を務めたアンドレ・マルローは帰郷するド・ゴールを追い「国民に対して申し訳ないと思わないのか」と問いただした。するとド・ゴールは「歴史の審判に委ねればよい」と答えた。

米国のトルーマン元大統領は、2009年にブッシュ前大統領が記録を更新するまで、退任時の支持率(33%)が最も低い大統領だった。トルーマンが広島と長崎に原子爆弾を投下し、北大西洋条約機構(NATO)を設立、マーシャル・プランを策定したとき、そして6・25戦争(朝鮮戦争)への参戦を決断したときも、国民は拍手を送った。ところが任期終盤になり、北朝鮮に抑留された米軍捕虜の送還が遅れたことで、国民の冷たい視線を浴びることになった。「大統領になるということは、トラの背中に乗るようなものだ。走り続けなければ捕まってしまう」。これはトルーマンが回顧録で後進の政治家たちに残した忠告だ。

韓国の金鍾泌(キム・ジョンピル)元首相が数日前、本紙とのインタビューで、1960年代にトルーマンと面会したときに聞いた話として「国民は統治者がどれだけうまく統治しても、自分の足を踏まれたり、気に食わないことをしたりすれば、トラのような存在になる」と話した。その上で「大統領が、自分が何かよいことをしたからといって、国民に感謝されると考えているのであれば、それはばかとしか言えない」と語った。

朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は最近、年頭記者会見で「就任以来、国家の経済を立て直し、国民の生活をよりよくするため、一瞬たりとも心おきなく休んだことがなかった」と述べた。だが、昨年初めに60%を超えていた朴大統領の支持率は、今では30%(韓国ギャラップの調査)にまで低下した。

政権は国民が「統治者を追うトラ」だと考えているのかもしれない。だが、国民の目線で見れば、支持率低下は依然として続く経済難や権力者周辺の人物の暗闘などによってもたらされた当然の結果だ。金鍾泌元首相は「政治に携わる人は多いが、国民をトラのように恐れている人はいない。政治家はもっと謙虚な姿勢で努力を重ねていくべきだ」とも述べた。これは金元首相が政界の先輩として、また自らの身内として、朴大統領に苦言を呈したものと思えてならない。

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