「預金小切手プラン」のしくみ

画像の説明 特殊詐欺に小切手作戦 現金化手間、身元特定も 宅配使う送付型や手渡し型に有効

振り込め詐欺など「特殊詐欺」の被害が深刻になるなか、静岡県警が考案した水際対策が全国28府県に広がっている。金融機関で高額の引き出しをするお年寄りに、現金化にひと手間かかる預金小切手(預手〈よて〉)を使ってもらう作戦だ。実際に効果も上げている。

静岡市の女性(77)宅の電話が鳴った。男が「おばあちゃん、会社の書類が入ったかばんを落とした。弁償するお金がないと死ぬしかない」と泣きついてきた。孫は高校生のはずだが、「学校をやめて今は働いている」と言われた。女性に疑う余裕はなかった。

近くの信用金庫に駆け込んだ。「150万円の定期預金を解約してください」。職員に「額が大きすぎませんか」と問われ、預手の利用を勧められた。現金50万円と額面100万円の預手を持って帰宅した。

女性は小切手を用意したことを電話で男に伝えると、「現金が良いんだけど」と言われた。女性は再び信金職員に相談した。職員は特殊詐欺の被害を疑い、警察に通報。男が孫ではないことがわかった。

昨年11月6日のことだ。

被害を未然に防いだのは、静岡県警が県内の金融機関、全約1760店の協力を得て一昨年12月に始めた「預金小切手プラン」だった。300万円以上のお金を引き出す75歳以上の客に預手の利用を勧め、断られた場合に警察に連絡する――という取り組みだ。

預手は、現金化できる人や金融機関の窓口をあらかじめ指定したり限定したりできる。だから、万が一、預手をだまし取られても誰が現金化したか確認できる可能性が高い。さらに、現金化には一定の時間と手間が必要だ。

静岡県警防犯対策推進室の鈴木良東(よしはる)管理官(49)は「防犯性の高い預手のしくみに着目した。そもそもリスク覚悟で預手をだまし取ろうとする犯人は少ない」。特殊詐欺のなかでも急増中の宅配便やレターパックで現金を受け渡す「送付型」や、被害者宅を訪れて現金を受け取る「手渡し型」に有効という。

県警によると、静岡県内ではプラン導入後、昨年12月中旬までの1年間で、警察官が現場に駆けつけた事例が140件に上り、前年同期の2倍に急増。警察官や金融機関職員が詐欺に気づき、211件、約6億7500万円分の被害を防いだ。全国33道府県で昨年1~11月の特殊詐欺被害が前年同期より増えるなか、静岡県では約2割減ったという。

■静岡発、28府県警導入

警察庁は昨年4月の特殊詐欺の対策会議で、静岡県警の取り組みを紹介。プランは瞬く間に全国に広がった。警察庁のまとめによると、神奈川や三重、京都、福岡など26府県警が昨年中に、愛知、奈良の両県警が今年に入って導入した。

ただ、静岡のように地元の全ての金融機関の協力を得られているケースは、まだまれだ。特殊詐欺のなかでも、口座振り込みで現金を受け渡しする「振り込み型」には使えないという弱点もあるという。

それでも警察庁が期待するのは、金融機関がためらわずに警察に通報する土壌づくりができるからだ。だまされているのに、職員に声をかけられると「放っておいてくれ」「孫が本当に困っていたら責任を取れるのか」と腹を立てるお年寄りも少なくなく、被害の発覚が遅れがちだった。

全国の警察はこのほかにも、過去に特殊詐欺の現金送付先になった住所宛ての荷物について、宅配業者に配達せず通報してもらったり、日本郵便にX線検査して現金の有無を確かめてもらったりしている。荷物が持ち込まれるコンビニエンスストアには、お年寄りへの声かけを依頼している。

昨年1年間の特殊詐欺の被害額は過去最悪で、500億円を超えるのは確実だ。一方で、昨年1~11月に金融機関など民間企業の協力で防げた被害は約267億7千万円に及ぶ。警察庁の幹部は「厳しい犯罪情勢が続くが、だからこそ、民間の協力なくしては被害を抑えることはできない」と話す。

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