2015年、「世界の孤児」プーチンは

画像の説明 どうやって米国に「逆襲」するのか?

3月のロシアによるクリミア併合以来、米国とロシアの対立は、実質的に戦争状態と言っていい状態になっている。欧州と日本からも経済制裁を加えられた上、原油価格下落によってルーブルの価値が半分以下になってしまい、「世界の孤児」とまで呼ばれるようになったプーチンだが、実は中国やインド、トルコなどと原油や天然ガスを手みやげに独自外交を繰り広げている。2015年、米ロの対立によって世界の分裂がさらに進むことは必至だ。

「2015年に何が起こりますか?」――。答えは、誰にもわからない。しかし、「2つの視点」から見ることで、「世界がどっちに向かっているか?」を、ある程度知ることはできる。 

「2つの視点」の1つ目は「世界的に見る」ことだ。日本国内の政局だけではなく、視野を「全世界」まで広げて考える。もう1つの視点は、「歴史的に見る」こと。「過去」に原因があり、その結果「現在」がある。そして、「現在」が原因となり、「未来」が形作られる。歴史を追ってみると、「ある流れ」が存在していることが明らかになる。

今回は、この「2つの視点」を使って、15年の米ロ関係を予測してみよう。

戦争と平和の繰り返しで頂点に立った米国
世界情勢の「主人公」たちの栄枯盛衰

世界の歴史を見ると、「平和」と「戦争」が繰り返されている。そして、「戦争」には、「主人公」といえる国々が必ず存在している。

たとえば、第1次大戦の主人公は、大英帝国とドイツ帝国だった。英国は、大国ロシア帝国と米国の支援を受け戦い、ドイツ帝国に勝利した。

第2次大戦時、欧州戦線の主人公は、またもや大英帝国と(ナチス)ドイツだった。英国は、大国米国とソ連を味方につけ戦い、強敵ドイツに勝利した。戦後の主人公は、いうまでもなく米国と共産ソ連である。

次に世界は「冷戦時代」、別の言葉で「米ソ二極時代」に突入した。その後も世界では多くの紛争、戦争が起こっている。中国内戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争(1978~89年)などなど。これらは、いずれも米ソによる「代理戦争」だった。

米ロの”代理戦争”はずっと続いてきた

「米ソ二極時代」は、91年末のソ連崩壊によって終結。そして、世界に超大国が一国しかいない、「米国一極時代」が到来した。ライバルだったソ連は崩壊。経済のライバル日本は、バブル崩壊により「暗黒の20年」に突入。欧州は、冷戦終結により、豊かな西欧が、貧しい東欧を抱え込むことになり苦しい。中国はまだまだ弱く、米国の地位を脅かす存在ではなかった。ただ一国、米国だけが、「ITバブル」による「空前絶後」と呼ばれる経済的繁栄を謳歌していたのである。

「主人公」が米国とロシアに移り
世界各地で繰り広げられた”代理戦争”

ところが、米国の一極世界は長くつづかなかった。反逆の狼煙をあげたのは、意外にも「欧州」、特にドイツとフランスだった。冷戦時代、ドイツ(当時は西ドイツ)、フランスはソ連を恐れ、米国の言いなりになるしかなかった。

しかし、ソ連崩壊によって、「東の脅威」が消えた。それで、「もはや米国の保護は必要ない」と考えたのだ。ドイツ、フランスは、「EUを東に拡大すること」「ユーロをドルにかわる世界通貨にすること」によって、「欧州に再び覇権を取り戻そう」と画策した。

米欧対立の犠牲者になったのが、イラクのサダム・フセインである。フランスにそそのかされたフセインは2000年9月、「原油の決済通貨をドルからユーロにかえる!」と宣言し、米国の指導者たちを卒倒させた。2003年、米国はイラクを攻撃し、フセイン政権を打倒。イラク原油の決済通貨をユーロからドルに戻すことに成功した。

さて、03年頃から、世界情勢の主人公は米国とロシアに移っている(もちろん、米中という見方もあるだろうが)。有能な独裁者プーチンによって急速に復活してきたロシアは、米国と対立するようになっていく。

米ロは、「イラク戦争」「ユコス問題」「グルジア・バラ革命」(いずれも03年)、「ウクライナ・オレンジ革命」(04年)、「キルギス・チューリップ革命」(05年)などで、米ソ時代と同様に代理戦争を繰り広げた。

米ロの対立は08年8月に起こった「ロシア-グルジア戦争」で一つのピークを迎える。当時グルジアの大統領は、03年の革命で政権についた超親米男・サアカシビリ。つまり、この戦争は、ざっくりいえば「米国傀儡政権」グルジア対ロシアの戦争だったのだ。 

しかし、この戦争後、米ロ関係は改善されていく。理由は、グルジア戦争の翌月(08年9月)、「リーマンショック」から「世界的経済危機」が起こったこと。米国にもロシアにも、戦いを継続する余裕はなく、いわゆる「米ロ再起動」(平たく言えば仲直り)の時代に突入する。

シリア戦争を巡ってオバマに恥をかかせたプーチン

仲直りは長くは続かなかった…
プーチン復帰で、再開された米ロ「新冷戦」

2000~08年まで、4年2期大統領をつとめたプーチンは、その座をメドベージェフに譲った。理由は、憲法の規定で、「大統領は連続2期まで」と決められているからだ。米国大好き男・メドベージェフが大統領だった4年間、(グルジア戦争を除けば)米ロ関係は比較的良好だった。

しかし、12年5月、プーチンは大統領に復帰し、米国との新たな戦いを開始する。

13年8月、オバマはシリア軍が反体制派に「化学兵器を使ったこと」を理由に、「シリアを攻撃する」と発表した。しかし翌9月には、戦争開始の決定を「ドタキャン」して、世界を驚愕させた。

これはいったいなんだったのか?実をいうと、オバマのいう、「シリア軍が化学兵器を使った」という大義名分は「ウソ」だったのだ。

こちらを見てほしい(太字筆者)。

<シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官
AFP=時事5月5日(月)配信
[AFP=時事]シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。

スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証をえる必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。>

要するに、米国は、イラク戦争に続き、「ウソの理由」でシリアを攻撃しようとしていた。それを積極的に暴露したのが、プーチン・ロシアだったのだ。

13年6月、北アイルランド・エニスキレンでG8サミットが開かれた。オバマは、このサミットで「シリア攻撃のお墨つき」を得ようとした。しかし、プーチンが「戦争計画」に反対し、オバマは困ってしまう。しかも、プーチンの挙げた根拠は、誰にも否定できないものだった。

<プーチン大統領はまた、反体制派が化学兵器を使ったことを指し示す証拠があるとし、「われわれは化学兵器を持った反体制派がトルコ領内で拘束されていることを知っている」と述べた。
さらに、「反体制派が化学兵器を製造している施設がイラクで発見されたという同国からの情報もえている。
 これら全ての証拠は最大限真剣に調査される必要がある」と強調した。>(ウォール・ストリート・ジャーナル2013年6月19日、太字筆者)

要するにプーチンは、オバマに面とむかって、「おまえはウソをいっている!」といったのだ。さらにロシアは、「反体制派(=反アサド派)に、『9.11』を起こしたアルカイダが含まれている」ことも暴露し、米国を追いつめていった。結局、オバマは、(ウソを後に暴露された)「イラク戦争」の失敗を繰り返さないために、戦争を中止せざるを得なくなった。

一人で戦争を阻止したプーチンの名声は高まり、オバマ・米国の権威は地に落ちた。ウクライナで、(親ロシア)ヤヌコビッチ大統領を非難する大規模デモが起こったのは、そのわずか2ヵ月後のことである。

これは、偶然だろうか?そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。

米ロが仲直りできない理由

引くに引けないオバマとプーチン
2015年、米ロの和解は期待薄

14年、米ロの対立は、誰の目にも明らかになった。時系列で見てみよう。

2月、ウクライナで革命が起こり、新ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊した。
3月、ロシアは、ウクライナ領「クリミア共和国」と「セヴァストポリ市」を併合。
4月、ロシア系住民が多いウクライナ東部ルガンスク州、ドネツク州が「独立宣言」。親欧米ウクライナ新政府は、もちろんこれを容認せず、軍隊を派遣、内戦が勃発した。

現在も米国は、欧州および日本と共に、「対ロシア制裁」を強化しつづけている。モスクワ在住の筆者にはよくわかるが、ロシア制裁の効果は、かなりあがっている。

ルーブルは、年初の1ドル32ルーブルから、12月半ばにはなんと79ルーブルまで大暴落。ルーブルの価値は、この1年で約2.5分の1になってしまった。ルーブル下落で輸入品の価格は上がり、インフレが庶民を苦しめている。

さらに、原油価格の暴落(WTIは6月のバレル107ドルから、12月には53ドルまで下げた)が、輸出の3分の2を石油、ガスに頼るロシア経済を直撃している。ロシア国内でも、「来年は、09年以来のマイナス成長。しかも相当なマイナス成長になりそうだ」と予想されている(09年、ロシアのGDPは、マイナス7.8%だった)。

しかし、プーチンが「クリミアを返す」ことは「あり得ない」と断言できる。プーチンの高い支持率は、「クリミア併合」によって維持されているのだから(支持率は、年初60%だったが、併合後は80%台を保っている)。

なぜ、ロシア国民は、「クリミア併合」を支持するのか?クリミアは、1783年から1954年までロシアに属していた。要するに、ロシア人は、「クリミアはロシアのもの」と確信しているのだ。プーチンは、これを「無血」でウクライナから取り戻した。いってみれば、日本が無血で、ロシアから北方領土を、韓国から竹島を取り戻した感覚である。

だから、プーチンは、クリミア併合によって「ロシアの歴史的英雄」になった。それをいまさら、「やっぱりウクライナに返す」といえば、国民は激怒し、いくらプーチンでも政権を維持できなくなるだろう。要するにロシアは、変わらない(変われない)。

一方、米国オバマ政権も、「対ロシア制裁」を解除し、ロシアと和解することはできそうもない。オバマは、「シリア攻撃をやめたこと」「クリミア併合を阻止できなかったこと」などで、「決断力のない」「弱腰の」大統領と非難されている。こういう批判をかわすために対ロ制裁を強化しているのだから、これを途中でやめるわけにはいかないのだ。

ロシアと和解するどころか、米国は、ウクライナ政府の軍備増強を積極的に支援している。

<米議会が13日に可決した法案は、ロシアの防衛・エネルギー産業や金融企業などを対象に追加制裁を行うよう大統領に求めている。また、対戦車兵器など致死的兵器を含む3億5000万ドル(約409億円)の軍事支援をウクライナに供与することを2015会計年度に認めている。>(毎日新聞12月17日、太字筆者)

一方で、ロシアは「親ロシア派」への支援を増やしている。ウクライナ政府軍と親ロシア派の内戦は、9月から「休戦状態」にあるが、米ロ共「内戦再開」にむけた準備を急いでいる。つまり15年、「ウクライナ内戦」が再び始まる可能性は高い。そうなると、米国は、ますますロシアへの制裁を強化せざるを得なくなるだろう。

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中国、インド、トルコはロシアの味方!?
「世界二分化」を目指すプーチン

日本から見ると「やられっぱなし」で、「世界の孤児」ともいわれるプーチン。実際、かなり苦しい立場にあることは間違いない。しかし、「世界の孤児」というのは少々大げさだろう。世界2位の経済大国中国は、「ロシア支持」を明確にしている。また、プーチンは12月1日、ロシア-欧州を結ぶ「サウスストリーム」(=ガスパイプライン)の建設中止を発表。かわりのガスパイプラインを、トルコまで建設することを明らかにした。

ここで重要なのは、トルコが欧州を裏切ってロシアについたこと。さらに、プーチンは12月11日、インドを訪問し、モディ首相と会談。「ロシアはインドに、毎年1000万トンの原油を供給する」「ロシアは、インドに20基の原発を新設する」ことなどで合意した。インドも、米国のいうことを聞かず、ロシアとの友好を深めている大国である。

15年、プーチンは、経済制裁に苦しみながらも、「反米の同志づくり」に精を出すことだろう。「同志」「同志候補」は、中国、「上海協力機構」(中ロ+中央アジア4カ国)、「BRICS」(中ロ+ブラジル、インド、南アフリカ)、南米諸国などである。

ロシアに制裁を課している、米国、EU、日本を合わせると、世界GDPの約半分になる。それでロシアは苦しいのだが、プーチンは来年、残り半分の大国を自陣営に引きずり込むために奮闘するだろう。

いずれにしても、米ロは今、「戦争中」といっても過言ではない状態にある。日本政府は、このことをはっきり自覚し、軽薄な「プチ独自外交」に走らないことが大切である。

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