新資格「相続アドバイザー」

画像の説明相続税納付改正で注目される

2015年1月施行の相続税の改正で、課税対象者の増加が見込まれている。相続はもはや富裕層だけの問題でなく、これまで相続問題は無縁と考えていた人々にとって、相続知識の習得が重要になってくる。そこで登場したのが「相続アドバイザー3級」という資格試験だ。「相続の基礎知識」と「相続開始後の手続き」が学べる新資格として注目を集めている。

相続税の課税対象者は約1.5倍に増える見込み

相続税対策は、いわゆる資産家が行なうもの、自分には関係ない――そんな“常識”が通用しなくなる時代がやってくる。2015年1月から相続税が改正され、首都圏を中心に課税対象者が増加することが予想されるからだ。

相続の案件に詳しいTHE FPコンサルティングの峰尾茂克代表は、次のように説明する。

「今回の相続税改正の大きなポイントは、『相続税の基礎控除の縮小』と『一部税率のアップ』、簡単に言うと、基礎控除額が6割に削減されることです。また一部税率のアップでは2億円超の部分が40%から45%に増えるなど、相続財産が多い方は、基礎控除の縮小と税率のアップのダブルパンチを受ける可能性が大きくなります」

国税庁によれば、2012年分の相続税の課税対象となった被相続人は約5万2000人で、課税割合は4.2%だったが、改正後は6%前後になる見込みだという。約1.5倍である。

「わが家にそれほどの相続財産はないはず」と考えている人でも、意外な落とし穴がある。それは首都圏における地価の上昇だ。日本では財産を不動産のかたちで保有しているケースが多く、地価が上昇すれば、それだけ相続財産が増えてしまうのだ。

国土交通省の2014年地価公示結果によれば、東京圏では住宅地において上昇地点の割合が大幅に増加し、特に東京都では住宅地が1.4%上昇している。
「相続税の評価額である路線価は、おおむね公示地価の80%を目安として定められます。つまり公示地価が上昇すれば、路線価にも影響するわけです。特に東京圏に土地を所有する方は、注意しておく必要があります」

相続税額ゼロから約113万円の税額が発生

では実際に、改定後の相続税額はどのくらいアップしてしまうのだろうか。例えば、父・母・子ども2人の4人家族で父親が死亡した場合、相続財産(課税価格の合計額)が7000万円あれば、現行での相続税額はゼロだが、改定後は相続税約113万円が発生する。また相続財産が3億円あれば、相続税額は現行の2300万円から改定後は2860万円となり、560万円もアップする。

「さらに考慮しなければならないのは、『2次相続』です」と、峰尾代表は指摘する。

法改正でますます増える相続トラブル

2次相続とは、父親が先に死亡し(1次相続)、その後母親が死亡した時点の相続をいう。1次相続では、「配偶者の税額軽減」の制度を使えるため、相続税額が抑えることができたが、2次相続ではこれが使えないため、相続増税の影響をもろに受ける。

特に配偶者なしで子どもが1人というケースは要注意だ。例えば、相続財産が7000万円の場合、相続税額は現行の100万円から480万円にアップ。相続財産が3億円の場合は、現行の7900万円から9180万円へと増え跳ね上がる。

「今回の改定で最も注意が必要なのは、家族構成によっても異なりますが、相続財産が5000万円くらいから3億円くらいの層の方々です。それ以上のいわゆる富裕層と違って、この層の方々は対策が進んでいないのが実感です。2015年以降相続が発生して、想像以上の税金の高さに驚かれる方が多くなるはずです」

ちなみに、「小規模宅地等の評価減」という制度があり、一例として被相続人と同居していた親族が取得した場合等特定居住用宅地等に該当すれば評価額の一定割合を減額することができる。改定後は、対象面積が増える(240㎡での減額割合80%が、330㎡へ拡大する)が、子等の相続人が別に持ち家を所有している場合は、原則として特定居住用宅地等の適用要件から外れるので注意が必要だ。

「こうした場合でも、その建物を賃貸に回せば、土地の評価額が貸家建付地評価となるだけでなく、適用要件を満たせば貸付用不動産の宅地として評価額を減額することができます。そういう知識があるとないでは納税額が大きく変わってきます。納税で得をするかしないかは、事前対策で決まります」

相続に関する代表的なトラブルとは?

相続対策はもとより、最近は相続に関する知識や対策がないために、トラブルになるケースが増えているという。司法統計年報によると、遺産分割事件の新受件数は増加傾向にあり、1992年の9762件から、2012年の1万5286件へと約1.6倍と大幅に増えている。

その代表的なトラブルの例として、峰尾氏は次の3つのケースを挙げる。

1つ目は、不動産を所有しているが、現金が少ない場合だ。遺産相続時は不動産を兄弟が共有することになる場合もあるが、兄弟が死亡してその子どもたちが相続する段階になると、権利関係が錯綜し、不動産の処分をしようにもできなくなるケースが多くなる。

2つ目は、遺言がない場合。このケースでは兄弟間の協議分割となるが、兄弟間の仲がよくても、嫁同士のコミュニケーションがうまく取れていないとトラブルになる。

「例えば、兄弟の子どもが医学部進学などでお金がかかる場合や、生前に親の面倒を見たか見ないかで揉め、遺産相続をめぐってトラブルに発展するケースがあります」

また遺言があっても、遺言自体に納得がいかないと、遺言自体の有効性を巡ってトラブルに発展するケースがある。「1次相続のときは、父親が死亡しても母親が防波堤になるが、2次相続で母も死亡すると、“歯止め”が利かなくなってしまう。比較的、資産家の方は、こうしたトラブルを想定して対策を進めている方が多いのですが、今まで相続に対して無縁だった方は、特に注意すべき点だといえます」と峰尾代表は言う。

3つ目は、借金も相続することを知らないケースだ。「相続はプラスの財産だけを相続するものと誤解されている方が多く、相続開始後3カ月以内に限定承認や放棄の手続きを行なわないと、マイナスの財産も相続することになってしまう。実際に、後で慌てる方も多いのです」

相続に備えて「基本」を習得できる資格

相続に備える「個人」にこそ必要な相続アドバイザー資格試験

こうした相続の知識を、総合的かつニュートラルな立場で勉強できる機会は、意外と少ない。そこで今、「相続アドバイザー(3級)」という資格試験が注目を集めている。

2014年3月に銀行業務検定の1つとしてスタートしたばかりだが、初回の受験者が1万に達するほどの人気を集めている。その理由について、峰尾氏は「残された遺族のことを考える親などにとっても必要な相続対策としての知識だけでなく、財産を引き継ぐ推定相続人の立場としても、今まで学習する機会がなかったような相続後の事務手続きについて相続前後のトータル的な知識を学ぶことができるからです」と言う。

相続に関する民法の規定や、相続税の計算方法などは、各種資格試験や書籍、セミナーなどで学ぶことができるが、銀行口座の解約方法や不動産の相続登記に必要な書類など、“相続開始後”の実際の場面で、何が必要になるかを学べる機会は多くない。

その点、相続アドバイザー試験は銀行業務を想定して出題されるため、民法や相続税法はもちろん、煩雑な手続きについても学習できるのが、他の資格との大きな違いになる。例えば、葬儀代が緊急に必要になり、相続人の1人が銀行の窓口で故人の口座から現金を引き出そうとした場合、銀行はその金額を払い出せるか否か。資格試験では、そのような実務的な問題が出題されるという。

「相続関連業務を扱うFPや士業の方、また銀行、証券、保険、不動産業務勤務の方にも有効な試験ですが、私がいちばんお薦めしたいのは、自身や家族の相続準備が必要な個人の方です。事前対策を練る上でも、銀行や不動産会社からアドバイスを受ける場合でも、相続アドバイザーの資格があれば、ニュートラルな立場で対策を考え、専門家の提案に対しても正しい判断を下すことができます。相続は開始後の手続きが重要ですので、特に相続準備を考えている方にとっては最適な資格試験だと思います」

峰尾代表が言うように、相続対策はもはや“資産家”だけが対象ではない。スムーズな遺産相続のためにも、相続アドバイザーはきわめて実践的な資格試験だといえる。

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