英米の金融緩和、

画像の説明 岐路 あふれるマネー、バブル呼ぶ

英米の中央銀行が、2008年のリーマン・ショック以降続けていた金融緩和から脱しようとしている。じゃぶじゃぶにあふれた緩和マネーはバブルを起こしかねないが、あわてて金融引き締めに走れば景気の腰折れを招く。英米の金融政策は曲がり角を迎えている。

■住宅価格、年2割上昇 英

ロンドンの中心部に「ゴーストタウン」と呼ばれる一角がある。テムズ川沿いに立ち並ぶ高級マンションは、夜になっても窓の明かりはまばらだ。

「所有者はいるが、住んでいない。中国やロシア、中東の金持ちが、値上がりするロンドンの住宅を『安全な資産』として買っている」。都市計画に詳しいロンドン大のピーター・リーズ教授はそう説明する。

ロンドンには中東やロシアのオイルマネー、中国からの巨額資金が流れ込む。投資先の一つが住宅だ。右肩上がりの住宅価格を背景に、転売も見込んで賃貸に出さず、ただ資産として保有している。香港や上海、シンガポールから「現地を見ずに、郵便番号だけで購入する人も多い」(リーズ教授)という。

ゴーストタウンと呼ばれる一帯では、米国大使館建設などの開発が進む。その中心が、バタシー石炭火力発電所跡地の巨大再開発だ。2025年までに約4千戸のマンションやオフィスビルなどを建設する。開発会社のロブ・ティンクネル最高経営責任者(CEO)は「1万5千人が働き、年間4千万人の集客が見込まれる魅力的な街となる。多くの人が住みたがる」と強調する。日本や欧米、中国など世界でマンション販売を展開。これまでの購入者の4割ほどが外国人だ。

英統計局によると、ロンドンの今年8月の住宅価格は前年同月比19・6%上昇。5月には20%を超える高い伸びを示した。ロンドンの平均住宅価格は51万4千ポンド(約9500万円)と過去最高を記録。平均所得との割合は00年は7・7倍程度だったが、13年は14倍に跳ね上がった。

年間20%超の上昇を遂げているロンドン東部のハックニー。不動産業者キートンズのデビー・ブロウさんは「大きく値上がりしているが、最近は住宅ローンの金利がとても安く簡単に借りられるので、買うことができる」と話す。

住宅ローン金利の低下を支えているのは、英中銀イングランド銀行(BOE)の金融緩和策だ。BOEは09年3月から政策金利を過去最低の0・5%に据え置き、国債などの資産を買って市場に大量のお金を流す量的緩和を続けている。英国は15年5月に総選挙を控え、金融市場では「その前にBOEが利上げに踏み切るのは難しい」と見られている。

金利調節での限界を補うため、BOEは今年6月、所得の4・5倍以上を貸す住宅ローンの総額を、新規ローン全体の15%以内に抑えるよう銀行などに促すことを決めた。BOEでエコノミストを務めたベレンベルク銀行エコノミストのロブ・ウッド氏は「バブルは一度起こると抑えるのは難しい。住宅ローン規制は効果的だ」と指摘する。(ロンドン=星野真三雄)

■サブプライムが復活 米

長期にわたる低金利で、米国では金融危機の引き金となった商品も息を吹き返している。信用力の低い消費者に高めの金利で貸す、サブプライムローンだ。

「自己破産した人でも、自動車を買うお手伝いをします」。米西部ワシントン州の自動車ローンの販売サイトには、笑顔の女性の写真と共にそう書かれている。その下には「我々の信用に問題がありましたが、歓迎してくれました」などの顧客のコメントが並ぶ。

「顧客はお金を使うのをそれほど恐れなくなっている」。米東部バージニア州の自動車販売店の営業マンはそう話す。月300台ほどの売り上げのうち、70台ほどはサブプライムローンで買われる。「うちの金利は年10%ほどだが、20~30%の業者もいる」という。

サブプライムローンとして貸し出した債権は、金融機関などが束ねて「資産担保証券」(ABS)として証券化し、投資家に売る。低金利が続くなか、より高い利回りを求める投資家の人気を集めてきた。

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によると、金融危機後の2009年に11億ドル(約1310億円)に落ち込んだABSの発行額は、13年には176億ドル(約2・1兆円)にまで回復。今年の発行額は200億ドルに達すると予想され、06年のピークの216億ドルに迫る。

中古車向けローン全体に占めるサブプライムの割合は25%で、09年の17%より増えているものの、危機前のピークの29%は下回る。今のところ「バブルは起きていない」(米調査会社エクイファクス)との見方が多いが、S&Pは「サブプライムローン市場は競争激化で貸し出し基準が緩くなっており、警戒が必要だ」と指摘する。

米連邦準備制度理事会(FRB)は先月、金融危機後6年にわたり続けてきた量的緩和を終えた。米国債などを大量に買って市場にお金を流した結果、FRBが持つ資産規模は危機前の5倍、日本の国内総生産(GDP)に匹敵する4・5兆ドル(約536兆円)にまで膨らんだ。これだけの資産規模を従来の水準に戻すには「2010年代末までかかる」(イエレン議長)といわれる。

あふれるお金は、株や不動産に流れ込み、価格を押し上げた。緩和マネーは新興国にも流入。FRBの政策をめぐる観測で市場が乱高下するなど、米国の金融政策自体が世界経済のリスクになりつつある。

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