アップルの“横暴”の内幕

画像の説明 日本の中小企業が訴えた

アップルの1次サプライヤーとして、知る人ぞ知る日本の中小企業がアップルを訴えた。

サムスン電子のようにビジネスの競合相手としてではなく、パートナーである1次サプライヤーという立場で訴訟の“反旗”を翻したのは、世界でも異例の事件だ。それも、全世界にまで影響が波及するインパクトをはらんでいるのだ。

「リベートを払ってもらう必要がある」「159万ドルを6月第1週までにアップルへ支払ってほしい」

「以下の口座に送金してください。バンク・オブ・アメリカの……」

米アップルの購買担当者が書いたという、生々しいやり取りを記したメールの文面が今、ある訴訟の証拠資料として提出されている。

2014年9月期で売上高1828億ドル(約19.6兆円、1ドル=107円換算)、時価総額約6000億ドル(約64.2兆円)という、世界一の超巨人を相手取って訴訟を起こしたのは、なんと売上高数十億円規模の島野製作所という日本の中小企業だった。それも、パートナーであるサプライヤーが提訴するという極めて異例の事態だった。

島野製作所が製造するピンを使用したアップルのパソコン用電源アダプタの接合部。世界的企業と多数取引をするが、近年はアップルの調達姿勢に強い疑問を感じてきた

訴えを起こした島野とは、電源アダプタのコネクタ部分などに使われる「ポゴピン」というピンの専業メーカーだ。規模は小粒の非上場企業だが、技術力の高さは折り紙つき。米半導体大手インテルや韓国サムスン電子などを取引先に持ち、知る人ぞ知るアップルの1次サプライヤーでもあった。

その島野が今年8月、アップルを相手に独占禁止法違反と特許権侵害で訴えた。訴状から島野の言い分を要約すると、以下の通りだ。

島野の主張の概要

アップルから依頼を受けて新製品用のピンを開発。そのピンの増産を何度も求められ、量産体制を構築した。ところが、それから約半年後に突如、ピンの発注量が激減。実はこのとき、アップルは島野との“合意”を無視するかたちで、別のサプライヤーに代替ピンを製造させていた。しかも、これが島野の特許権を侵害していた。

取引再開を求めたが、アップルは値下げを要求。やむなくその条件をのむと、さらにリベートの支払いも必要だと言ってきた。アップルが持つ在庫ピンの購入時価格と、島野が値下げしたピン価格の差額分に、在庫ピンの数量をかけて算出した約159万ドル(当時、約1億6000万円)を払えという。これは実質的に、決済が終わった売却済み製品の値下げの強要で、不当なリベート要求である。

これらに伴う開発費や設備投資、アップル向け製造ラインの休止、不当なリベートなどの損害賠償を求める。また、特許権侵害の対象であるアップル製品の電源アダプタと、それが同梱されているノートパソコン、MacBook ProとMacBook Airの日本での販売差し止めも請求する。以上が島野の主張の概要だ。

「長年のパートナーを訴えるのは心苦しいが、アンフェアは正すべき」と、島野の島野守弘会長は提訴に至った思いを吐露する。島野側の溝田宗司弁護士は「この訴訟が、優れた技術を持つ日本の部品メーカーが正当な利益を受ける端緒となることを期待する」と語る。

一方、この訴訟についてアップルに問い合わせたが、本稿執筆の10月22日時点で返答はない。

会長・社長の進退も懸けた
島野の覚悟

実は、島野の訴状で詳らかにされたアップルの“手口”については、かねてサプライヤーから懸念の声が上がっていたことだった。

「恐れていたことが、確信に変わった」

以前、ある日系サプライヤーの幹部の手元に、アップルが別の企業に送ろうとして、誤送信した資料が届いた。あろうことか、そこには自社技術に関するデリケートな情報が書かれていたという。

アップルのサプライチェーンに新たなメスが入るか

アップルは自社工場を持たないが、取引先工場に融資や投資をして、そこで培った知的財産を両社共有にすることで独自技術を掌握してきた。一方で、電子部品に強い日本企業の一部は、モノづくりの技術的ハードルの“解決策”を、率先してアップルへ提供してきた。

しかし、その技術やノウハウが、アップルを通じてアジアなどの他サプライヤーに流出し、肝心の受注段階で彼らとのコスト勝負に引きずり込まれたとみられる事態が起きていた。水面下では、そんなことの繰り返しに嫌気がさしている企業も出ていたわけだ。

「アップルとの取引がなくても大丈夫な基盤は確立しているが、今回の訴訟が原因で不測の事態が起きた場合は、島野会長と共に辞任する」と、島野の船木幸城社長は自らの進退を懸けた覚悟を明かす。

アップルからの発注次第で、業績や株価が乱高下するサプライヤーが多い中、島野が訴えた境遇と似た企業がいたとしても、“一斉蜂起”にはならないだろう。

ただ、アップルがサプライヤーの情報公開を進める契機となった事例がある。アップル製品の製造工場で工員による自殺など不祥事が多発し、問題視する声が高まったことだ。

今回の訴訟も行方次第では、アップルのサプライチェーンに新たなメスが入る、大きな転換点になるインパクトを持っている。今回、日本の一中小企業が上げた声はアップル経営陣に届くか。

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