[ダイヤ]

画像の説明 極寒の地に輝け 冬は零下60度、

ロシア極東・サハ

美しい輝きで人々を魅了するダイヤモンド。世界有数の産地であるロシア極東のサハ共和国が、毎年夏の終わりに国内外の観光客や宝飾業者らを集めた「ダイヤモンド週間」を開いている。工夫をこらして世界有数のイベントを目指す背景には、極寒の土地で経済を発展させる難しさがある。

青や赤のレーザー光線が飛び交う中、白いドレスの女性がずらりとステージに並んだ。胸元や耳には大きなダイヤが輝く。ファッションショーのように一人ずつ中央の通路を歩いて客席の間に立ち、ポーズを決めてダイヤを強調した。

サハ共和国の首都ヤクーツクで9月初めに開かれたショーでの一コマだ。地元の宝飾会社が提供した総額5億円のダイヤが、地元政財界の有力者や国内外のセレブらを魅了した。参加者はこの後、コンサートや舞踏会を楽しんだ。

ショーは、2年前に始まった「ダイヤモンド週間」のイベントの一つ。サハ産ダイヤモンドはここ数年、世界の採掘量の3割近くを占めるが、サハの名は世界に浸透しているとは言い難い。サハのコルミリッツィナ企業・観光発展相は「カンヌ映画祭のようなイベントに育て、サハの知名度を高めたい」と語り、期間中に商談が活発に行われるカンヌを引き合いに出す。

他の見本市や展示会ではまねできないサハの魅力は、採掘から研磨、販売までダイヤに関する全工程を見られることだ。ヤクーツクから西に約800キロ離れたミールヌイのダイヤモンド鉱山にある、直径1200メートルの巨大な露天掘り跡の穴をはじめ、地下の採掘現場など様々な場所へのツアーが用意される。30カ国以上の富豪を集めたダイヤのオークションや、販売業者らの国際会議も開かれた。

自然や文化を楽しむ仕掛けも整備が進んでいる。ヤクーツクから世界有数の大河レナ川を船で上ると、河岸に巨大な石柱が連なる「レナ石柱自然公園」がある。夏は30度以上、冬はマイナス60度にもなる激しい寒暖の差によって、石灰岩が浸食されてできたという。2012年に世界自然遺産に登録された。

自然公園とヤクーツクとの間には今年春、約4億円をかけて、宗教施設や昔の家を再現した体験型施設「オルト・ドイド」ができた。名前の由来は、サハの正月にあたる夏至の祭りの儀式を行う場所。「神の世界と死者の世界の間にある世界という意味です」と、地元のアファナス副村長。丘の中腹に円形の祭場が設けられ、実際に儀式も行われているという。

ヤクーツク市内の宝飾店店員のマトリョーナさん(25)はダイヤモンド週間の最中、「今週の売上高は、いつもの2倍はある」と喜んでいた。期間中の1週間のイベント全体で、約100億円の売り上げがあったという。

■観光で産業底上げ 中国との協力も

サハ共和国は世界最大の自治体だ。面積は約310万平方キロと、インドよりわずかに狭く、日本の約8倍の大きさを誇る。この広大な土地で生産されるダイヤはロシア産の99%、金は同15%以上を占める。さらに、石炭や天然ガス、石油も採れる「資源大国」だ。

だが、ミールヌイのニコラエフ副市長は「サハの都市を結ぶ道路や鉄道の整備が足りず、飛行機の料金も高い」と課題を挙げる。

永久凍土に覆われた大地は、冬にはマイナス60度まで下がり世界で最も寒い地域として知られる。広大なサハ共和国の人口は約95万人。資源以外目立った産業はない。ヤクーツクでも、古い建物が立ち並び、旧型のバスやトラックも目立つ。

そこで、豊富な資源を売るだけでなく、産業の発展につなげようというのがサハの戦略だ。ダイヤモンド週間は、その柱の一つ。知名度が上がって観光客が増え、ダイヤ加工業者なども進出すれば、インフラ整備の促進や住民の所得増が期待できるというわけだ。

プーチン政権が近年、極東を重視していることも追い風だ。サハ産業省のブリシイ副大臣は「ロシアがアジア太平洋地域に着目するという新しい状況が生まれている」と期待する。

サハは経済発展が著しい中国に近い。モスクワまで飛行機で約6時間だが、中国東北部・黒竜江省の大都市ハルビンなら約3時間。国際会議に参加した省幹部は「中国には優れた加工技術がある。サハとの協力関係を進めたい」。

今年5月、ロシアは中国と30年間、約40兆円という巨額の天然ガス供給契約を結んだ。主な供給源はサハで開発中のガス田となる見通しだ。中国へのパイプラインの起工式は9月にサハで開かれ、プーチン大統領も出席した。プーチン氏は、「パイプラインがつながれば世界の状況に応じて輸出先を変えられる」と話した。

ウクライナ危機をめぐり、天然ガス販売の主要顧客である欧州との対立が深まる中、プーチン政権のエネルギー戦略において、サハの重要性が増している。

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