「中国ネット」

画像の説明 「ゴミ国家」「金家の3番目の…」 

中国ネットユーザーが“血盟”北朝鮮を罵る心理

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党第1書記が公の場から姿を消して1カ月が経過し周辺国で様々な情報が錯綜する中、中国のネット空間では「毎日酒色の限りを尽くして、病気にならないわけがない」などと正恩氏をあからさまに風刺する声が相次いでいる。“血盟関係”にあるはずの北朝鮮を「ゴミ国家」と罵る中国ネットユーザーたちの心理とは…。

便乗して自国批判も

正恩氏は 9月3日に平壌で音楽グループの公演を鑑賞したのを最後に1カ月以上姿をみせず、25日には朝鮮中央テレビが「「不自由な体なのに人民の指導の道を炎のように歩み続けるわが元帥」と異例の報道。韓国メディアからは、正恩氏が「高尿酸血症、高脂血症、肥満、糖尿、高血圧などを伴う痛風」を患っているとする情報や、「シークレットブーツの履きすぎで両足首の骨にひびが入った」などとする説が伝えられた。

中国のネット上では、こうした報道を受けて同盟国の指導者を気遣う声は聞かれない。

「食い放題、寝放題のやつが、病気にならないほうが不思議だ」

「きっと糖尿病だろ」

「金家の3番目のデブが死ぬのはそう遠くない」

北朝鮮の独裁的な政治体制への批判も多い。

「周囲の人間はみな痩せいているのに、やつ1人が太っている。朝鮮の人民は可哀想だ」

「われわれの将軍は早逝してしまうのか?天は英才を妬むのか」。「心配するな。彼は人ではない、神だ!神は死なないのだ」。北朝鮮の指導者の神格化をおちょくるやりとりもある。

韓国・仁川のアジア大会に出場している北朝鮮の選手や関係者が、現地で「敬愛する金正恩元帥を思う夕べ」を開催したとの報道にも、ユーザーたちは反応した。

「朝鮮(中国での北朝鮮の名称)の政治ニュースは、中国国内ではギャグになる」

「世界上で最もゴミの国家」

「洗脳というのはおそろしい」

北朝鮮批判に便乗して、自国の政治体制への巧妙な批判がネット検閲をすり抜けて発信されることもある。「われわれが通った道をまだ歩いているのか」

「米空軍よ、ありがとう、彭徳懐元帥よ、ありがとう。さもなければ中国も…」。新中国建国の立役者である毛沢東は当初、世襲制を想定し、長男の毛岸英を後継に考えていたとされる。しかし、毛岸英は1950年、朝鮮戦争で彭徳懐元帥のロシア語通訳として従軍中に米軍の空爆で死亡してしまった。この書き込みは、中国における世襲制は米軍のおかげで回避されたという皮肉だ。

「猫(マオ、毛と同音で毛沢東を指す)の時代の中国と(五十歩百歩ならぬ)99歩100歩だ」

「私は中国人であり、中国を愛している。だが決して政府に満足はしていない」

「愛国反党」

正恩氏のコラージュ動画が拡散

今年7月には、正恩氏の顔を既存の動画にコラージュしたパロディー動画が中国で拡散した。BGMには中国のポップスが使われ、正恩氏を主役にオバマ米大統領やプーチン露大統領、安倍晋三首相といった世界の指導者たちが、ダンスや喧嘩、いたずらに興じるミスマッチ動画が笑いを誘ったのだ。

正恩氏と国際テロ組織の指導者、ビンラーディン容疑者が仲良く手をつないで歩くなど、シュールな場面もある。芸の細かい「力作」は人気を集め、中国の動画サイトからユーチューブに転載され、世界中に広まった。

この動画は英BBC放送も取り上げ、「動画に政治的な意図はなく、娯楽としてつくった」との制作者のコメントを紹介した。ただ韓国メディアによると、北朝鮮側は動画に不快感を示し、削除するよう中国に要請したという。

自国の暗部を映し出す鏡?

北朝鮮と正恩氏への最も激しい罵倒が、日本でも韓国でもなく中国のネット空間で起きているのはなぜか。

さきのBBCの報道によると、英ノッティンガム大学で現代中国を研究するスティーブ・ツァン教授は「中国人は、正恩氏のことを愚かでこっけいな人物だとみている」と指摘。さらに「中国政府はいざというときはいつも北朝鮮を支援してきたが、もはや愛想をつかしつつある」とも言及した。

中国と北朝鮮に生じたすきま風の大きなきっかけは、昨年2月に北朝鮮が中国の反対を押し切って強行した3回目の核実験だ。中国共産党のエリートを養成する共産党中央党学校の機関紙の編集幹部は同月、英紙フィナンシャル・タイムズに「中国は北朝鮮を切り捨て、朝鮮半島の南北統一に向けて動くべきだ」と寄稿し、波紋を呼んだ。

さらに同年12月には、金正恩体制の実質ナンバー2だった親中派の張成沢氏が粛正された。中国当局が“血盟関係”であるはずの北朝鮮とその指導者への罵詈雑言を放置し続けているのは、こうした両国関係の悪化を反映しているといえそうだ。

また一方で、言論統制がしかれ自国指導者への批判が許されない中国のネットユーザーにとって、北朝鮮への言いたい放題は格好のガス抜きとなっている。

ユング心理学に「投影」という概念がある。自分自身の暗部であり無意識に抑圧された「影」を、他者の中に見いだし非難、攻撃したりする心理作用を指す。言論の不自由、抑圧的な政治、高官たちの特権。こうした自国の「影」を、ユーザーたちは北朝鮮という鏡の中に見ているのではないか。

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