何でもあり

画像の説明  幻想の世界に生きている韓国国民

呉善花(おそんふぁ)
拓殖大学教授 1956年、韓国・済州島生まれ。83年来日、大東文化大学(英語学)卒業後、東京外国語大学地域研究科修士課程(北米地域研究)修了。新潟産業大学非常勤講師を経て、現在、拓殖大学国際学部教授。著書に、『韓国併合への道 完全版』(文春新書)ほか多数。

『朝日新聞』は「女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです」と書く。ならば、米軍慰安婦問題も同時に問題提起すべきだ。そうでなければ、日本人の尊厳を踏みにじるのが目的だと思えてしまう。

悲惨な「米軍慰安婦」の実態

今年6月、米軍基地の近くで売春に従事していた「米軍慰安婦」122人が韓国政府に国家賠償を求めて集団訴訟を起こしました。もともと米軍基地に売春婦がいたことは韓国社会では広く知られていました。彼女たちは「ヤンコンジュ(洋公主あるいは洋姫)」と呼ばれ、人びとから後ろ指を差されたりしたものです。主要紙には「容姿が整っていること」などを条件に「米軍接客」の女性を募集する広告が掲載され、報酬はかなり高額だったことを覚えています。

こうした「米軍慰安婦」たちは朝鮮戦争(1950~53年)が終わったあとも50年代から80年代、さらに90年代に至るまで、売春街(基地村)で米兵を相手にしていました。表向きの好条件と違って、その実態はかなり悲惨なものであり、引退後も元売春婦として差別を受けながら、孤独で貧しい生活を強いられてきたのです。

以前からこの問題は韓国の国会でも取り上げられてきましたが、今年になって122人もの女性が集団訴訟に踏み切ったのは、昨年、一人の女性が告発本を出したことがきっかけになっています。今年で64歳になるキム・ジョンジャ氏の証言録『米軍慰安婦基地村の隠された真実』には、韓国政府の厳しい管理下に置かれた基地村の実態が綴られており、私も大きなショックを受けました。

本書によれば、キム氏は1950年生まれ。16歳のときに友人に騙されて基地村に連れていかれ、借金を肩代わりさせられてしまいます。基地村には韓国語でポジュ(抱主)という民間業者たちのハウスがひしめき合い、多くの若い韓国人女性が米兵相手に売春をしていました。1、2カ月我慢すれば、友人の借金は返せると思ったキム氏でしたが、稼ぎはすべて雇い主のポジュに奪われてしまいます。それどころか、部屋代や化粧品代、美容品代などを請求されて借金は増えていく一方。鎮静剤と偽ってポジュから渡された薬はじつは麻薬で、その代金も借金に上乗せされており、いつ終わるとも知れない地獄の日々が続きます。

一度は基地村から逃亡したキム氏でしたが、すぐにチンピラに連れ戻され、さんざん殴られました。ポジュから賄賂をもらっている警察はそうした暴力行為を見て見ないフリです。避妊具をつけることを嫌う米兵のせいで妊娠してしまう女性も多く、堕胎が日常的に行なわれていました。彼女たちの唯一の希望は米兵の恋人になってアメリカに行くことですが、現実にはほとんどないことでした。絶望のあまり、キム氏は何度か自殺を試みますが、果たせません。

問題の焦点は、彼女たちが働いていた基地村が国家の管轄下にあったことです。月に一回開かれる会議には、憲兵やCID(米軍部隊犯罪捜査課)、保健所職員、警察署長、郡庁公務員などが来ていました。彼女たちは「ドルを稼ぐ愛国者」として称えられていた、といいます。性病にかかった疑いのある慰安婦たちは留置場のようなところに強制収容されました。ペニシリンを注射され、ショック反応で死んでしまう女性もいたそうです。あるいは収容所の上から飛び降りて、自ら命を絶つ女性もいました。

昨年11月、「米軍慰安婦」の問題について野党議員が慰安婦施設を管理していた朴正熙元大統領の決裁署名入りの文書記録を基に、国会で政府を追及しました。野党や左派勢力はこれを材料に、娘の朴槿惠大統領を攻撃する構えです。もともと彼らには、この問題を追及すると旧日本軍の慰安婦の問題が霞んでしまい、結果的に日本を利することになるというジレンマがありました。しかし慰安婦たちの高齢化が進んでいることもあって、現在は訴訟を支援しています。今後は戦術を変えて「韓国政府が米軍慰安婦にひどい仕打ちをしたのは、日本の真似をしたからだ」という批判の仕方に変わってくる可能性もあります。

朝鮮戦争は韓国が仕掛けた?

現在の韓国の左派勢力の中核をなすのは、金大中政権(1998~2003年)の親北政策を受け継いだ盧武鉉政権(2003~2008年)の支持勢力の残党だといえます。2000年の金大中・金正日による南北頂上会談以後、韓国では反北朝鮮の主張が「反民主的な言辞」とされる一方、同じ民族への愛を唱える親北が民族主義の象徴とされました。その一方で、異民族に対する反日が愛国の象徴として重んじられるようになります。

金大中政権に続く盧武鉉政権下で、「日帝植民地支配」についての「過去清算」がよりいっそう徹底して進められ、「日帝強占下親日反民族行為真相糾明に関する特別法」(2004年3月22日公布)が制定されます。のちに改正(2005年1月27日)されて法律名から「親日」が除かれていますが、この改正で「親日反民族行為」の対象範囲は大幅に広げられました。

このように親北=反日的な歴史教育政策を進めてきた結果、韓国国民の歴史認識は異常なものになってしまいました。たとえば、「朝鮮戦争は韓国が仕掛けた(=北侵)」と聞けば、「そんなはずはない」と日本人なら一笑に付すでしょう。しかし、韓国ではそうではありません。2013年、韓国紙『ソウル新聞』が高校生506人を対象にしたアンケート調査では、69%が「韓国側が朝鮮戦争を仕掛けた」と回答。この結果を受けて朴槿惠大統領は「驚くべき結果」と発言するとともに、「毎回、誤った認識が高い比率を占めている。このような状況が二度と出現しないようにすべき」と嘆きました。このように、いまの韓国の若者の歴史認識はそうとう歪んでいることがわかります。

国民全体が反日で「調教」状態

『朝日新聞』は8月5日付の紙面でこれまでの慰安婦報道での誤報を一部、認めました。「吉田(清治)氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します」としたのです。この吉田証言は「日本の軍隊・関係者が統治下の朝鮮半島から慰安婦にする目的で若い婦女子を強制的に連行した」という証拠とされてきたもので、それが否定された以上、「河野談話」の見直しをあらためて進めるべきだと日本国民が考えるのも当然でしょう。 

しかし、この『朝日新聞』の誤報(本来は虚報というべきでしょう)問題は韓国のメディアではほとんど取り上げられていません。「やっと朝日が誤報を認めた」「慰安婦問題についての再検証が韓国でも進むだろう」。そう考えた日本人もいたかもしれません。しかし私からすれば、そのように考えるのは韓国の実情がわかっていない、といわざるをえません。

日本軍によって20万人の朝鮮人婦女子が無理やりに従軍慰安婦にさせられたというストーリーを、韓国人は頭から信じ込んでしまっています。いまさら「強制連行はなかった」といったとしても、韓国人が認めるはずはありません。『朝日新聞』の誤報問題にしても、「愚かな日本人が、また愚かな嘘をいっている」というようにしか考えないでしょう。あえて黙殺しているというよりは、相手にしていない感覚です。

つまり、どんなに真実を明らかにしたところで、一度できあがった韓国人の歴史認識はけっして覆ることはない、ということです。

そもそも現在の韓国の反日民族主義は、「日本による植民地統治」という歴史体験を通して形づくられたものではありません。では、どのように形づくられたのか。日本統治時代の歴史を「改竄」「捏造」することによってです。韓国の反日民族主義をひと言でいえば、歴史を通じた幻想の体系です。それはみんなが信じている幻想ゆえに、どんな真実よりも強いといえます。政治家であれ、研究者であれ、それを崩そうとすれば、国民やメディアから「親日=売国奴」という猛烈なバッシングを浴びることになります。

問題なのは、いまのこうした韓国人の歴史観は国家の圧力によって強制されたものではなく(当初はそうであったとしても)、いまや「ソフトな感覚」としてすっかり根付いてしまっていることです。政府の強制によって行なわれる反日姿勢であれば、まだしもコントロールできますが、すでに民衆レベルで子供のころから刷り込まれてしまっているため、社会の隅々にまで反日感情が広がっており、いわば国民全体が「調教」されてしまっている状態なのです。

従軍慰安婦の問題について付言すれば、日本側は軍や官憲による「強制連行」があったかどうかを問題視していますが、韓国国内では(一部の専門家を除いて)普通の人はそうした細かい歴史的な争点には理解というか、関心がありません。若い婦女子が日本軍相手に売春をさせられてきたこと自体が問題だとしているのです。そしてその反感の底には「夷族(日本人)によるわが民族」の凌辱という精神の次元が、意識的にせよ無意識的にせよ、強く関与していることは否定できません。

日韓首脳会談はいますべきでない

いわゆる従軍慰安婦問題をはじめとする歴史問題について、日本はどう韓国に対応すればよいのか。私の答えは「何もしないこと」です。話し合いで解決しようとすると、弱みをみせていると捉えられて、さらなる謝罪や賠償を要求されることになるでしょう。

私は少なくとも「歴史問題については棚上げにしよう」と韓国政府がいってくるまでは、日韓首脳会談はしないほうがいい、と考えています。2013年2月に朴槿惠政権が発足した際、日本のメディアには「日韓関係は改善が期待できる」という好意的な報道が目立ちました。父親の朴正熙元大統領が日韓基本条約を締結して日本との国交を回復した人物だったため「親日的」と考えられており、娘の朴槿惠氏も同じイメージでみられたのです。しかし大統領選に出馬を決めて以来、反日的な発言を繰り返してきた朴槿惠氏をどうして「親日的」と考えてしまうのか、私は不思議でなりませんでした。

現に、大統領就任直後から、朴槿惠大統領は強硬な反日姿勢を打ち出してきました。2013年3月1日の「3・1独立運動」記念式典では、日本統治時代を振り返って「加害者(日本)と被害者(韓国)という立場は千年の時が流れても変わらない」とまで演説。これに対して日本国民は怒るというよりも、呆れてしまいました。韓国が日本と友好関係になることを永遠に避けているように感じられたからです。

もともと保守本流の政治家でありながら、朴槿惠氏が強固な反日姿勢をとり続けているのはなぜか。野党をはじめとする親北勢力が、父親の朴正熙元大統領を「親日派」として朴槿惠大統領の大きな攻撃材料としていることが原因の一つとして挙げられます。現在の朴政権は与野党間の危うい勢力バランスで支えられていますので、国民の支持をつなぎ留めるためには、確固たる反日姿勢を打ち出すしか手がないのです。しかし、朴槿惠大統領が反日姿勢を強めるほど、かえって親北の左派勢力を勢いづかせることになってしまいます。

現在、韓国国内に北朝鮮のスパイが12万人ほどいるといわれますが、彼らは政府機関、マスコミなどに根深く入り込み、国民の反日感情を煽動しているとみられます。反日の隠れ蓑を着た親北勢力が「反日=愛国」を煽り、与党・保守勢力も国民の支持を得るために「反日=愛国」姿勢を強める。これが朴槿惠政権発足と同時に出現した韓国のどうしようもない政治状況の実態です。

前述しましたように「米軍慰安婦問題」は野党や左派勢力が朴政権を攻撃する格好の材料となったわけですが、朴槿惠大統領の反日姿勢が彼らの伸長を促していることを考えれば、じつに皮肉なことだといえます。

韓国で保守勢力が後退し、左派勢力が伸長しているもう一つの理由として、経済格差の進展があります。順調な経済成長を続けているとみられた2002~2011年のあいだに、韓国は一部の大企業と富裕層が国民の利益を独占するすさまじい二極化社会になってしまいました。失業率の上昇や貧困層の拡大により社会秩序が不安定になりつつある韓国では、凶悪犯罪が多発するなど、格差が社会問題化しています。国民のなかには「あんなに儲けている金持ちがいるのに、自分たちはなんでこんなに貧しいのか」といった不満が広がっているのです。

こうしたなか、さまざまな団体や集団から生活保障を求める動きが強く出てきています。政治家もこれは無視できません。「米軍慰安婦」の問題にしても、貧富の格差を背景に「恵まれない人の生活を助けるべきだ」「長年、見捨てられてきた人たちの生活を政府は保障せよ」という社会風潮が後押ししていると考えられます。

韓国ではなく、世界にどう対応するか

いずれにせよ、韓国は反日姿勢を続けてこのまま日本と疎遠になれば、中国への依存を強めるしかありません。ところが中国経済には不動産バブルの崩壊や輸出減速などさまざまな問題があり、けっして好調とはいえません。折からのウォン高で打撃を受けている韓国経済がさらに中国経済への依存を強めれば、共倒れになる心配もあります。にもかかわらず、朴槿惠大統領がこれまで日本との対話を拒否してきたのは、中国に媚びを売るためとしか考えられません。これは外交の選択肢を狭めるだけで、けっして賢い方法だとはいえないでしょう。

今春まで安倍政権は「河野談話」について「検証はするが、見直さない」といっていました。韓国の立場を重んじたギリギリの配慮で、いま振り返れば、このときが日韓首脳会談を行なう最大のチャンスでした。慰安婦問題について『朝日新聞』が誤報を認めた以上、今度は日本国民から「河野談話」の再検証や見直しを要求する声が高まっていくことでしょう。安倍政権はそうした国民の声を簡単には無視できません。そうなれば、日韓ともに対話を切り出しにくい状況になります。しかし先ほどもいったように、歴史問題について韓国から棚上げをいってくるまで、日本側から働きかけを行なう必要はありません。

むしろ日本がいま考えるべきなのは、韓国ではなく、世界にどう対応するかです。日本を貶めるようなプロパガンダを、韓国は欧米を中心に各地で盛んに行なっています。慰安婦などの問題を正しく理解する欧米の政治家、あるいは研究者は稀であり、韓国側の一方的なプロパガンダが世界に浸透してしまう現状があります。

先日、訪韓した私の大学の教え子が「竹島は韓国のものよね」と急にいわれて、戸惑ったと話していました。韓国では子供のころから「竹島はわが領土」というような歌を歌わされて育ちます(これも調教です)。心の底からそう思っているわけで、100パーセント疑いをもっていない。残念なことに、その教え子はうまく言い返すことができなかったそうです。日本では領土問題や歴史問題についてきちんとした教育を行なってきませんでしたから、無理もないことかもしれません。

また、同じくその教え子が驚いたのは、ある大学で韓国語によるスピーチコンテストが行なわれたときのこと。参加資格者は韓国以外のアジア人や欧米人留学生で、テーマはなんと日韓問題なのです。ほとんどの参加者が韓国側の言い分に沿って日本を非難するスピーチをしていたそうです。それだけ韓国の主張が海外で浸透している、ということがいえます。

日本は、韓国の海外での宣伝行為についてもっと危機感をもつべきではないでしょうか。たとえば、日本の小説は翻訳版が世界中で読まれているのに、なぜか近現代史関係の論考や評論は翻訳版が少ない。摩擦を恐れているのか、それとも利益にならないと考えているのか、二の足を踏む出版社が多い。論壇誌に寄稿された論文の英語翻訳も、現状ではほとんど進んでいません。

日本の政府はもちろん、日本のメディアも自国の主張をもっと世界に広げていく方法を探してほしいと思います。日本軍の慰安婦問題について、いくら『朝日新聞』が誤報を認めたところで、韓国が日本への謝罪要求を引っ込めることはありえません。世界で慰安婦像を建てる運動なども、ますます加速していくでしょう。

もちろん、そのきっかけをつくったのは何よりも『朝日新聞』の一連の記事や報道であり、その罪はきわめて重いといえますが、「捏造」や「嘘」など何でもありの幻想の世界に生きている韓国の国民には、いまさらいくら真実を突き付けても通用しないと考えて、日本は自国の正義を世界に向けて発信していく努力をしていくべきです。

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