「国債急落」の現実度

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膨張する歳出圧力を制御できるか,

9月26日、市場が注目する消費税の再増税では、「景気優先」か「財政再建」かという対立軸に焦点が当たっている。安倍晋三首相は「ハムレット」並みの苦渋の決断を迫られている。

市場が注目する消費税の再増税では、「景気優先」か「財政再建」かという対立軸に焦点が当たっている。安倍晋三首相は「ハムレット」並みの苦渋の決断を迫られているが、多くの市場関係者が忘れがちな点がある。それは社会保障費の膨張と整備新幹線に代表される政治的圧力などを政府がコントロールできるのか、という問題だ。

この歳出膨張圧力に対し安倍政権が無力とわかった時、国債急落という「市場の混乱」が現実味を帯びる。

<消費再増税で浮上する「景気優先」と「財政再建」の対立>

安倍首相は23日、ニューヨークで記者団に対し、10%への消費税引き上げについて、7─9月期の経済指標を注意深く見て「年内に判断したい」と述べている。

8%への消費増税後、住宅や自動車だけでなく、日用品の購買に関しても戻り鈍く、経済界では駆け込みの反動から回復するのは7─9月期ではなく、10─12月期にずれ込むとの予想が大勢を占めつつあるようだ。

このため「景気優先」派からは、消費税を上げて景気がさらに落ち込み、税収が落ち込むようなスパイラルに入ったら、この1年余りのアベノミクスの果実は無に帰すとの懸念の声が上がっている。

これに対し「財政再建」派は、10%増税を先送りすれば、財政再建を推し進めるという政府のコミットメントの弱さが市場に印象付けられ、長期金利が急上昇して、日本経済に冷水を浴びせることになると警鐘を鳴らす。

<財政が内包する社会保障経費という歳出膨張要因>

どちらの意見に説得力があるのか、メリットとデメリットを差し引いたときに、どちらの選択肢が、よりプラスになるのか安倍首相は今、この難問に悩んでいると予想する。

ここで問題となるのが、日本の財政に内包されている強力な歳出膨張圧力だ。高齢化の進展で、社会保障関連コストは毎年1兆円ずつ増加するとされている。

この増加メカニズムにメスを入れる覚悟が安倍政権になければ、アベノミクスの成果で税収が増加したとしても、プライマリーバランスを改善し、いずれ収支トントンにするという目論見は、水泡に帰すだろう。

メスを入れる具体的な手法として、社会保障制度を少子・高齢化に合わせて改革するとともに、どの要素が最も大きな歳出拡大圧力として働いているのか、政府は精緻な分析結果を国民の前に提示するべきだが、いずれも目に見える形の成果は出ていない。

<整備新幹線に集まる政治家の期待>

さらに債務残高が1000兆円になっている現状でも、政治家に危機感がないという深刻な状況がある。

政府・与党は24日に整備新幹線の前倒し開業に向けた検討を始め、新函館北斗─札幌間(開業予定2035年度)を5年、金沢─敦賀間(同25年度)を3年、武生温泉─長崎間を可能な限り前倒しすることを目指すとした。

北海道と北陸の各新幹線の前倒しには5400億円がかかり、2000億円を民間から借り入れるとの構想のようだが、3400億円分は今のところ、宙に浮いたままだ。

世界で最も深刻な財政危機に直面している国の政府・与党が、こうした検討をしていて、果たして「債務を返済する気があるのか」と、市場から思われたらどうするつもりなのだろうか。

仮に10%への増税を実施して、整備新幹線の前倒し開業に代表される政治家の歳出増大圧力を放置したままなら、引き上げ分は社会保障費に充てるという政府・与党の約束は「空文化」するおそれが高まると指摘したい。

また、社会保障制度を今の少子・高齢化社会における支払い能力に見合った制度に変更していく「勇気」が、安倍政権になければ、10%に引き上げても、10年を待たずに日本の財政悪化の深刻さが、内外から指摘されることになるだろう。

<安倍政権の覚悟問われる歳出管理能力>

歳出膨張圧力のコントロールが安倍政権にとって、極めて重要であるとあらためて指摘したい。もし、この点に関し、無力であることを露呈した場合、市場は反乱を起こすだろう。

私は、債務膨張を抑止し、着実にプライマリーバランスを改善する強い意思と着実なプランを示すことができれば、来年10月の消費税10%実施を延期しても、直ちに長期金利急上昇することはないだろうと予想している。

しかし、101兆円を超すような概算要求に対し、大ナタを振るうこともせず、地方創生予算でばらまきまがいの査定が横行するなら、マーケットには安倍政権の政策実行力に対し、疑問が広がることになるのではないか。

肝心なことは、膨張した債務を「返済する意思」があるかどうかだ。いくら口先で「プライマリーバランスを改善させる」と言っても、社会保障制度の改革や合理性のない公共事業の拡大に歯止めをかけないなら、「返済する意思」に疑問が持たれると強調したい。

今のところ、市場は当局に従順にみえるが、「ラスト・ストロー」のたとえのように、ある時点から非連続に長期金利が上がり出す局面が来ることを十分に意識するべきだろう。

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