「蚊」

画像の説明 デング熱猛威で気になる 「蚊」、絶滅したら困ることって?

蚊が絶滅したらどんなことが起きるのでしょうか?
今年の夏はやけに蚊に刺された気がする。

ちょっと公園でぼーっとしようものならあっという間に10か所近く刺される。また足首だの手の指だの、やたら痒いところばかり狙ってくる。先日は代々木公園の蚊によって媒介されたと思われる「デング熱」が大きな話題になって日本中を不安にさせたし、蚊って何なの! 腹立つ! という気持ちで私の心はいっぱいです。

「蚊なんていなくなってしまえばいいのに……」という筆者の妄想はそれほど非現実的なものではないようで、2014年6月にロンドン大学の生物学研究チームが発表した論文では、蚊の遺伝子を組み換え、メスの発生率を低下させることで、ある種の蚊を全滅させることが可能だと証明されたという。

こちらの研究、世界中で毎年60万人もの死者が出ている「マラリア」に対する対策としてのものなのだが、反論の声も多く上がっている。そんなことをすれば生態系のバランスが崩れ、新たな危機が生まれるというのだ。確かに「全滅」というのはなんだか怖い気がする。人間の都合でそんなことをしていいものだろうか、と思う。大きなしっぺ返しが待っているような……。

とはいえ、マラリアやデング熱は恐ろしいし、その前に痒いし。一体どうすればいいんだ! と思い、蚊についての素朴な疑問を、詳しい方にぶつけてみることにした。

福島県須賀川市にある、昆虫の生態を楽しく学ぶことができる自然と科学のミュージアム「ムシテックワールド」の紹介により、農学博士であり「福島虫の会」に所属されている専門家・三田村敏正さんにお話を伺うことができた。

――すばり、蚊が絶滅したらどんなことが起きるのでしょうか?

三田村さん「蚊の仲間は、生態系の比較的下位に属しますが、他の生き物の重要なエサとなっています。蚊の幼虫、ボウフラの時はヤゴやゲンゴロウなどの水生昆虫、フナなどの魚類のエサとして重要です。成虫では、トンボやクモなどのエサとなっている他、コウモリも極めて多数の蚊をエサとすることで知られています。

したがって蚊がいなくなることでこれらをエサとする生き物たちがいなくなったり、数が減ったりすることが予想されます」

当然だが、やはり「蚊」も自然界の大きなサイクルの一部なのである。それがなくなってしまえば、次々に影響が広がっていくことになる。

三田村さん「これらの生き物たちは水田や畑において害虫たちを食べてくれる有益な生き物たちでもあることから、これらの生き物がいなくなれば、害虫がどんどん増えて農作物に大きな影響を与えると思われます。さらにはその上位に位置する生き物にも影響を及ぼし、生態系が崩れて我々にも影響を及ぼすことになるかもしれません」

――そうですよね。病気を媒介したり厄介な面もある「蚊」と、人間はどのようにつきあっていけばいいのでしょうか?

三田村さん「まず、一口に"蚊"と言っても極めて多くの種があり、その中で動物の血を吸う種はごく一部だということです。例えば、蚊柱を作る"ユスリカ"は血を吸いません。さらに、血を吸う種の蚊の中でも、血を吸うのはメスだけで、オスは花の蜜や樹液などを吸っているのです。メスは卵の栄養のために血を吸うのです」

三田村さん「さて、血を吸う蚊をどうするかということですが、まずは蚊に刺されないようにすること。そのために私たちの身近な場所から蚊の生息場所を減らすことが一番ではないでしょうか?家の周り、庭などの水溜りを無くすこと。植木鉢やバケツなどに水が溜まっていればそれを無くし、ドブを掃除するなどの対策があります。あとは、虫よけスプレーなどで防御する、ということでしょうか。

デング熱のことで今とても敏感になっていますが、だからといって蚊を滅ぼすだとか、刺されたら大変だ、と騒ぐのではなく、まずは蚊が伝播させるウイルスなどを撲滅することです。これは研究機関などの仕事ですが。そして、少しでも蚊に刺されないように注意すること、だと思います」

――いわゆる殺虫剤、蚊に対して効果のある薬剤は日々進化していると思うのですが、それによって蚊が滅ぶというようなことはないのでしょうか。

三田村さん「殺虫剤に対して、昆虫たちは"抵抗性"をつけることで防御しています。すべての薬剤に対して抵抗性が出るわけではありませんが、効くからといって同じ薬剤を使い続けているとそのうちその薬剤に抵抗性を持った個体が出てきて、次第に薬剤が効かない虫が増えて効果がなくなってきます。その場合は、違う系統の薬剤を使えば良いわけですが、その薬剤にも抵抗性が出てきて…といういたちごっこが続くわけです。

また、最近は薬剤が環境に及ぼす影響を考慮しなければならず、昔でいう"DDT"のような強い薬剤は使えなくなっています」

なるほど。広い視野では、蚊が運ぶウイルスなどについての対策を研究機関で進めつつ、私たちひとりひとりは、蚊に刺されないための身近な対策をきちんと取って生活していくという、二つの方向で蚊と向き合っていくということが最善なのかもしれない。絶滅しないかな、なんて浅はかなことを考えてすみませんでした。

ちなみに、知人がよく口にする説で「最近の蚊は羽音がしない」というものがある。言われてみれば確かに昔はプーンと言う嫌な羽音で飛び起きたりしていたものだが、ここ最近そんな記憶はないような……。蚊の進化だろうか? 三田村さんに聞いてみた。

――「今どきの蚊は羽音がしない」と語る知り合いがいるのですが本当でしょうか?

三田村さん「そのような話は聞いたことがありません。人が聞き取れる周波数は加齢によってその範囲が狭くなることから、特に高い周波数の音は聞こえなくなったり聞こえにくくなったりします。私の亡くなった父は80歳の時、目の前で鳴いているニイニイゼミの声がまったく聞こえませんでした。通常の会話では耳が遠いということもまったくなかったので驚きました」

なるほど…―。勇気を出して知人に伝えようと思う。「それ、どうも老化らしいよ」、と。

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