CO2を地層に閉じ込める

画像の説明 苫小牧沖の海底下に貯留 温暖化抑止の切り札へ

工場や発電所の排出ガスから、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を抽出し、地下数千メートルの地層に閉じ込め大気中への排出を減らす「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」。温暖化抑止の切り札として、世界中が注目する技術だ。日本も2020年ごろの実用化を目指し、北海道苫小牧市で実証施設の建設が本格化している。

泥岩の層で蓋

地球の表層は多様な地層が積み重なっており、CO2を通さないきめ細かい泥岩などの層や、逆にため込みやすい粒の粗い砂岩などの層がある。CCSはこれらの地層をCO2の遮蔽や貯留に利用する。

実証事業は、電力などエネルギー関連企業が共同出資する日本CCS調査(東京)が国の委託で2012年に開始した。

苫小牧市の施設では、隣接する苫小牧港の製油所から、パイプラインで排出ガスを輸送。分離・回収基地で濃度約99%のCO2ガスを抽出した後、海底下1100~1200メートルの「萌別(もえべつ)層」と、同2400~3千メートルの「滝ノ上層」に、圧入井と呼ばれる2本のパイプで送り込み貯留する。圧入井は来月、掘削をスタート。長さはそれぞれ3600メートル、5600メートルに及ぶ。

同社の田中豊技術企画部長は「貯留層の真上には、蓋の役割を果たす遮蔽層があるため、CO2は地上に漏れてこない」と説明する。

地下数千メートルは高温・高圧環境のため、CO2は気体と液体の特徴を持つ「超臨界」状態に変化。貯留層を形成する砂岩などの微細な隙間に入り込み、移動しなくなる。数十~数百年かけて岩石の成分と反応し、炭酸塩鉱物となり完全に固定されるという。16年度から年間10万トンのCO2を閉じ込め、漏れや環境への影響がないか確認していく計画だ。

減圧でコスト削減

最大の課題はコストだ。CO2の処理費用は1トン当たり7300円と試算されているが、この約6割を占める分離・回収費の削減を進める必要がある。

分離・回収には窒素を含む有機化合物のアミンがCO2を吸着する性質を利用した「化学吸収法」という方式が使われる。排出ガスがアミンの液体に触れると、CO2だけが吸着される。従来は、この液体を加熱してCO2ガスを分離させ回収していたが、加熱に要するエネルギーが高コストの一因となっていた。

そこで、CO2が溶け込んだアミン液を入れたタンク内の圧力を下げる仕組みを追加。減圧効果で気化しやすくなって加熱の量が減り、効率が向上。分離・回収に必要なエネルギーを半減できるという。

実用化にはコスト削減がさらに必要とみられるが、田中部長は「実証実験を通じて、どこまでコストを下げられるか確かめたい」と話す。

20年に実用化

国際エネルギー機関は、2050年の世界のCO2排出量は現状のままだと570億トンに達するが、さまざまな対策を講じれば約75%に当たる430億トンの削減が可能と試算。その14%をCCSが担うとみている。

海外では以前から、天然ガス田や油田で地層内の圧力を上げて生産性を高める技術として使われており、ノルウェーやカナダでは年間100万トンの圧入施設も実現。近年は温暖化抑止の切り札として改めて脚光を浴び、CO2排出量が世界一の中国や2位の米国も研究を急いでいる。

一方、日本ではCO2の地下圧入について、海域は海洋汚染防止法でルールを定めているが、陸域は法律が未整備のため実施できない。国内のガス田や油田は大半が陸域にあり、CCSのコストをガスや原油の利益で埋められず、研究が進んでいなかった。

このため政府は4月に閣議決定したエネルギー基本計画に20年ごろの実用化を目指す方針を盛り込み、研究開発に本腰を入れる。今後は経済産業省と環境省が共同で、年間100万トンでの実用化を視野にCCS施設の適地調査に乗り出す。

適地調査は今月、日本CCS調査が受託。17年度ごろまでに日本近海10カ所程度で海底下の構造を探る。その後は有望地を3カ所程度に絞り込み、実際に海底を掘削して地層を詳しく調べる計画だ。

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