中国独禁法

画像の説明 「外資たたき」の猛威は自国保護か、

役所の競争か…自動車、ITなど弱点分野ばかりを“標的”にする不自然さ

中国が外資系企業に対し、独占禁止法の猛威を振るっている。8月20日にはデンソー、三菱電機など日本の自動車部品メーカー12社を摘発し、うち10社に計12億3500万元(約200億円)の制裁金の支払いを命じた。米クライスラーやトヨタなど完成車メーカー、米マイクロソフト、クアルコムなどIT(情報技術)関連企業も標的だ。中国の独禁法施行(2008年)から6年。外資たたきに走ったのはなぜか。

自国保護、党の求心力

中国当局は外資たたきを否定しているが、これまでの摘発は先端技術関連の外資大手企業が目立つ。中国の現状などを踏まえ、いくつかの可能性を指摘できる。

1つは国内産業の保護だ。摘発の対象業種はIT、ベアリング、半導体など高度な産業技術が要求される分野に偏る。これらの分野は中国が育成してきたが、中国市場は外資に席巻されている。独禁法による外資の牽制(けんせい)は、技術水準が海外に追いつくまでの時間稼ぎかもしれない。

もう1つは、外資を閉め出し、車などの価格引き下げにつながるような法の運営が、中国共産党の求心力向上につながることだ。すでにトヨタとホンダの中国合弁会社が一部部品の価格を引き下げると発表したように、値下げの動きが始まっている。これは物価の上昇に不満を抱える中国の消費者が歓迎する事態につながる。習近平体制が独禁法を地盤固めに利用しているとの見方は強い。

また、人件費の高騰などで「世界の工場」の座が東南アジア諸国連合(ASEAN)に移りつつあっても、人口13億人という巨大な中国市場を世界の企業は無視できない。中国は市場を外資に食われ続けることを嫌って市場の門戸を狭くする一方で、撤退に踏み切れない外資をコントロールすることが可能と判断したのかもしれない。

人治国家“法の精神なし”中国3機関で邪魔し合い…問題なのは日本側の「隙」

役所の権力闘争

独禁法を扱う中国当局の構造は複雑だ。日本の当該機関は公正取引委員会だが、中国では管轄が3つの機関に分かれている。

3機関とは、市場の寡占化につながる合併などを監督する商務省▽談合やカルテルなどを扱う国家開発改革委員会(発改委)▽不公正な取引方法などを規律する国家工商行政管理局を指す。

海外法務にくわしいアナリストは「いずれか1機関が摘発を行うと、ほかの2機関も権限低下を嫌って別の摘発に着手する可能性は、独禁法施行時に予想された」と指摘する。それほど中国政府内の権力競争は激しいのだ。

仮に役人の権力闘争であれば、法の精神などないに等しい。もっとも、中国が順法精神に富んでいるとは言い難い。

2012年、中国では反日暴動が起こり、日本の電機メーカーの現地工場や百貨店などが襲撃されたが、中国国家からの謝罪はない。また、中国は通信機器メーカーや太陽光発電パネルメーカーに不当な補助を行い、欧米からダンピング行為の疑いが持たれている。公正とは呼べないだろう。

カルテルはあったのか

一方で、日本企業にも疑惑はある。日本の自動車部品やベアリング業界は、日本や欧米の独禁法当局に摘発されているからだ。

米司法省は昨年9月、日系8社を含む企業9社が価格カルテルによる販売価格操作を認め、総額7億4000万ドル(約730億円)超の罰金を支払うことで合意したと発表。また、欧州委員会は今年3月、自動車向けベアリングで日本の4社と欧州企業2社の計6社がカルテルを実施したとし、うち5社に約9億5300万ユーロ(約1340億円)の制裁金を科した。

日本側メールに『読後は即削除』の注意書き…中国に復元され「ほら違法を確信犯!」

この業界は大手の寡占状態にあり、こうした問題や疑惑が生じやすいようだ。中国の今回の摘発で、中国紙の京華時報が8月21日に掲載した記事によると、発改委の職員は削除されたメールの復元に成功し「価格調整などの情報が書かれたメールの最後に『読後は即削除』との注意書きを発見した。違法行為であることを知っていた証拠」と語ったという。

正当性を主張するためには、日本企業自身も事実を明確にしなければならない。だが一方で、中国当局が摘発事案の詳細な内容を公表しないままで事態が推移しており、独禁法本来の目的とは異なった生臭さも漂う。この摘発が正当か否か、注視しておく必要があるだろう。

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