異常接近の裏に「原潜隠し」あり

画像の説明 又もや中国軍機による「異常接近」である。 

この8月19日、中国・海南島東方約210キロメートルの南シナ海=中国の排他的経済水域(EEZ)内=で監視活動に当たっていた米海軍P8対潜哨戒機に対し、中国空軍のJ(殲)11戦闘機が異常接近してきて、米国防総省が中国政府に厳重抗議する事態が起きた。

≪習指導部が関わらぬはずなし≫

中国軍機は米機から約6メートルの至近距離にまで接近し、その後、機体下部のミサイルを見せつけるような姿勢で旋回通過したという。米国の抗議の趣旨は当然ながら、この中国機の行動が危険かつ挑発的な威嚇であり、国際的な慣例に合致しないというものだ。

中国政府は「中国軍機は米軍機と安全な距離を保っていた」と強弁し、米軍が中国に対して行っている大規模で頻繁な偵察活動こそが、不測の事態につながる根本原因であると反論している。

このような無謀というほかない異常接近事案が、中国の第一線部隊、軍当局、党中央の、どのレベルに最も強い意図があってのことなのかは、諸説あって確言できない。何事も「愛国無罪」だと許された時代に育ったパイロットたちが、国際法や国際的慣習に未熟なまま操縦桿(かん)を握っているものか。それとも、党中央に対する政治的発言力を大きくするため、軍の上層部があえて国際的緊張を高めているものか。

人民解放軍(陸軍)は、共産党の軍として革命とその後の国内政治に強く関与してきた。それに比べて、海、空軍は高度経済成長を経て急に近代化してきており、各戦闘機部隊や各艦艇にまで、政治的統制が行き届いていないといった事情もむろんあり得る。

だが、一歩間違えば、米中2国間の軍事衝突に発展しかねない軍用機の異常接近という事態が頻繁に発生しているわけだから、習近平指導部が関与していないとは考えにくい。

中国は2020年ごろまでに地域の強国となり、50年ごろまでにはグローバルパワーになる、という「夢」を公言している。そのために欠かせないのは、西太平洋および南シナ海を支配できる海軍力を保有することである。

≪米空母打撃力と対米核抑止力≫

だが、現時点では、空母戦力でも潜水艦戦力でも米海軍のそれらには及びもつかない。中国海軍が早期に戦力的に米軍と拮抗(きっこう)できるようになるには、少なくとも2つのことが必要だ。

1つは、米国の空母戦力に対する打撃力を持つことである。米海軍と同じ数の空母を持つというわけではない。米空母を無力化し得る通常弾頭の対艦攻撃弾道ミサイル(ASBM)戦力を備えようとしているのである。アジア太平洋地域を射程に収める固体燃料の移動式中距離弾道ミサイルDF21をベースにして、それを開発・配備していくことになろう。

より重要なのが、米核戦力に対する最小限核抑止力を保持することだ。中国はすでに、固体燃料の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)では、東風(DF)31を配備し、さらに強化している。

ただし、地上配備のICBMは移動式であっても宇宙からは丸見えになるから、核抑止力を生き残らせるためには、どうしても潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と、それを、探知されにくい海中深くから発射できる原子力潜水艦(SSBN)が不可欠だ。

今、中国は通常型潜水艦の配備(約60隻)を終わり、ジン級SSBNを建造・配備し、これに搭載するSLBM巨浪二型(JL2)の戦力化を進めている。

≪日中にもホットライン構築を≫

その中国原潜の最重要基地が前述の海南島にあり、中国は目下、この基地を増強している最中である。中国にとってはかけがえのない基地と原潜の動向を、頻繁に監視している米国のP8対潜哨戒機の動きを、何とかして少しでも阻みたいという動機が、今回の異常接近事案の背景にはあったとみてよいだろう。

その直後の8月26、27の両日、米中国防当局は、航空機や艦艇の「行動規範(COC)」について話し合う作業部会を開いている。前々から予定されていた協議だとはいえ、今年に入って少なくとも4回に上っている中国軍機の異常接近事案のうち、最も際どかった今回のケースが、中心議題になったことは間違いない。

この11月には、北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催され、それに合わせて米中首脳会談も行われる見通しだ。一連の日程を控え、中国は対話路線を取るふりをして時間稼ぎに出るのではないか。

一方、航空自衛隊機の緊急発進回数は、昨年度で810回、このうち中国機に対する発進は415回に達している。今年の5、6月には中国機が自衛隊機に異常接近する事案も起きている。中国に対しては、日米間、日韓間、日露間にあるような偶発的危機回避ホットラインを日中間にも構築するよう強く促したい。日本側のドアは常に開いている。

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