「トンデモ議員」

103 (3) あなたのまちの「トンデモ議員」を炙り出せ!

地方議会の9月定例会を、楽しく有意義に傍聴する方法

この夏、日本中を騒がせた話題の1つが地方議員の不祥事だ。議員としてのみならず、社会人としても許されぬ先生方の情けない言動が全国各地で表面化した。その勢いは一向に衰えず、今もなお日本列島を覆いつくしている。

まるで日替わり定食のように登場する破廉恥議員に多くの人が驚き呆れ、そして、嘆き悲しんだ。なかには「一体、誰がこんな人間を議員に選んだんだ!」と、怒りを抑えきれない人もいる。

そんな方々にぜひともお勧めしたいイベントが近々、全国各地で一斉に始まる。地方議会の9月定例会である。地方自治体の多くが年に4回、定例議会を開く(以前は法律で年4回開会と規定されていたが、現在は法改正されて回数制限なしに)。

一般的に3月と6月、そして9月と12月である。このうち3月定例会は翌年度予算案の審議を行い、前年度の決算審議を9月定例会でやる。絶好のタイミングではないか。この好機を逃さずに、議会に足を運んでみることをお勧めしたい。

自分の目で「我がまちの先生方」の仕事ぶりをじっくり観察してみたらどうだろうか。テレビで何度も取り上げられた仰天議員さんらに負けず劣らずの「逸材」が、地元の議会にこっそり潜んでいるかもしれない。

地方議会の傍聴は無料で、議員の紹介なども不要。予約などのややこしい手続きを取る必要もなく、満席で中に入れないなどということもめったにない。行列せずに簡単に自分の席を確保でき、しかもタダ。普段着のままぶらりと立ち寄っても何ら問題なく、途中退席も可能だ。

当然のことながら、傍聴席での飲食は厳禁。ヤジもダメ(議場内はOK)。大きないびきをかかない限り、居眠りを注意されることもない。議会傍聴のハードルは住民が思っているほど高くない。

考えてみれば、それも当然のことなのだ。1人ひとりの住民が主権者であり、住民に選ばれた議員や首長は住民の代理人、ないしは代弁者にすぎない。つまり、選んだ側の住民こそが主役であるはずなのだ。ただしそんな住民にとって、議会には難点が2つある。

議会は平日開会だが、大変でも実際に傍聴するのが一番

平日開会と難解な議場内のやり取り
大変でも実際に傍聴するのが一番

1つは、議会の開会が平日の昼間である点だ。仕事に追われる勤め人には時間のやり繰りがつきにくい。そうした住民のために、インターネットでのライブ中継や録画放送を実施する自治体が増えている。そちらを利用する手もあるが、やはり現場で生のやり取りに接するのが一番だ。

2つめの難点は、議場内のやり取りがわかりにくくてつまらない点だ。だが、議場でのやり取りの内容が理解できなくても、我がまちの議会の実像に触れる意味は大きい。退屈さにじっと堪えながら傍聴しているからこそ、色々なものが見えてくるからだ。例えば、議員個々の仕事ぶりや能力、人間性である。

ニュースで連日、お粗末な議員ばかりが取り上げられるので誤解してしまうのも無理からぬことだが、地方議員の中には真面目に活動し、しかも高い能力を持っている方たちも存在する。議員個々の力量や人間性は実に様々で、ピンからキリまで揃っている。議員個々の能力に大きなバラつきがあるのは、どの議会にも共通する現象だ。もちろん、議会によって有能な議員が多い、少ないといったレベルの違いは生じている。

そうした議員個々の力量は、本会議や委員会での弁論に耳を傾けることで見えてくる。玉石混交状態の議場の中から、議員本来の役割を果たそうと努力する人物を探し出すことをお勧めしたい。「宝探し」でもするつもりで傍聴しても良いと思う。どんな地方議会にも1人くらいはいるはずだ。ライブなので、ワクワク感が高まるに違いない。

議会を傍聴していると、議会や執行部側の姿勢といったものも見えてくる。それは住民に対する姿勢で、きちんと住民側に顔を向けて議論をしているか否かという意味である。

議会では行政用語を飛び交わせる議論となりがちで、そうした言葉に馴染みのない住民にとってはわかりにくいこと極まりない。そうした点を斟酌せず、住民にわかりやすく伝えようとする意欲と努力、能力を欠いたまま議事を進行してしまうケースも多い。住民を置き去りにしたまま、議会・行政ムラの仲間内でのやり取りに終始してしまうのである。

傍聴する住民に資料を配布せず、「黙って見ていろ」と言わんばかりの議会もある。もっとも、傍聴者が誰もいないといったケースも珍しくないが。

質問議員の日時と質問事項を掲載、住民に親切な亀岡市議会

全国各地の地方議会を傍聴してきて良い意味で驚いたことがある。昨年9月に京都府亀岡市議会を取材した時のことだ。市役所ロビーの情報コーナーに市議会の資料が用意されていた。

持ち帰り自由だったので、何気なく一部を手にとってみて驚いた。それは近々始まる9月定例会の一般質問の予定表だった。質問議員の日時と質問事項、さらには質問要旨などが事細かに掲載されていた。一般質問する議員は23人に上り、資料は35頁もの小冊子となっていた。各議員が事前に提出した一般質問通告書を取りまとめたものだった。

一読すると、各議員が何を考え、どこに関心を持って質問するかがよくわかる。住民への情報提供として、これほど親切で的確なものはないだろう。

亀岡市議会では会派ごとの代表質問はなく、一般質問のみとなっている。それもほとんどが一問一答方式だ。議員は26人なので、このときの定例議会では正副議長と監査委員を除く全ての議員が一般質問に立ったことになる。議員同士の切磋琢磨により、活性化した議会となっているように思われた。

「相模原市議会をよくする会」の赤倉昭男代表。本質的な議論が議会で充分になされていないと指摘する

「目的なしで行くから議会傍聴がつまらないんです。明確な目的を持って傍聴すると面白いですよ。たとえば、自分が票を入れた議員の議会での姿をチェックしに行くとか……」

こう語るのは、神奈川県相模原市で市議会の傍聴を続けている赤倉昭男さん。
15年に及ぶ議会傍聴歴を誇る赤倉さんは、「相模原市議会をよくする会」(以下、よくする会)という住民団体の代表。議会傍聴などで市議1人ひとりの議員活動ぶりを継続的にチェックし、住民から見た評価を4年ごとに「議員通信簿」としてまとめ、公表している。通信簿の作成・公表はすでに3回を数えており、来年春が4回目となる。

よくする会の活動により相模原市議会の議場内の雰囲気は激変した。私語や居眠り、ヤジや離席といっただらしない行動は姿を消した。傍聴席で目を光らせる会員たちの存在が抑止力となったのは間違いない。

議員たちにとってよくする会は「煙たい存在」となったが、無視するわけにもいかなくなった。むしろ、その存在を強く意識せざるを得なくなったのである。それを象徴するのが、8月9日に開かれた「市民と議員の意見交換会」だ。よくする会が主催したもので、議員9人が参加した。極めて珍しいことに、全会派の議員が勢ぞろいしたのである。

各議員の仕事ぶりを徹底評価する「相模原市議会をよくする会」

議員通信簿は、「議会に緊張感を持たせ、議員によい仕事をしてもらう一助とする」ために始められた。つまり、議員の資質の向上に寄与したいとの思いである。各議員の任期4年間の仕事ぶりの評価であり、政策や理念、考え方の評価ではない。あくまでも議員活動の実態や姿勢、能力などを傍聴者の住民の視点で評価するものだ。不偏不党・中立、採点者のイデオロギーに囚われず、傍聴経験豊富な会員による協議を経て、点数化している。

採点法はこうだ。25の評価項目ごとに議員個々の仕事ぶりに0点から4点の点数をつけ、100点満点とする。議員ごとの合計点を算出し、得点順にランキングする。さらに議員個々についての総括コメントを添付する。いわゆる寸評である。これが実に面白い。

各議員の4年間の仕事ぶりを徹底評価
「相模原市議会をよくする会」の取り組み

2011年版に掲載されたものをいくつか紹介すると、総合得点37点の議員は「保守会派の野次担当で存在をアピール、勉強不足・質疑下手の穴埋めか」とバッサリ切られ、最高点の88点を獲得した議員には「ときに勇み足で災いを招いたが、手短かで鋭い質問は傍聴者を喜ばせる」とのおほめの言葉が寄せられている。

また、「市長とのツーショット・ポスターで二元代表制への無知を露呈」と書かれた議員や「議員の資質に欠かせない財政に強い本格議員。希少価値的存在」と絶賛される議員も。なかには「会派に埋もれ、鳴かず飛ばずの議員で存在感薄まる一方。期待裏切る若手」と叱咤激励するようなコメントもある。

こうした得点と総括コメントともに議員の実名で公表されているので、読む側としては面白くてたまらない。顔写真も添付されていることから、議員1人ひとりがぐっと身近な存在に見えてくるのである。少なくとも「議員先生」という、偉い人たちというイメージはなくなる。

議員通信簿は4年に1回、4000部ほど作成され、相模原市民などに無料配布されている。また、「The Gallery」という会報が年4回、1000部ほど作成され、こちらも無料配布されている。

こうした地道な活動を続ける「相模原市議会をよくする会」の年間活動費は、わずか16万円ほど。会員らの手弁当によって成り立っているのである。ちなみに相模原市議の年収は約1100万円で、さらに今話題の政務活動費が年間120万円支給される。

議員を継続して傍聴し、議員通信簿で25の項目を評価する

議会を継続して傍聴するのが大事
議員通信簿で注目すべき25の評価項目

議員通信簿で注目すべきは、25の評価項目だ。これらは9つの観点に分けられており、まずは「基礎的能力」だ。調査・情報収集能力や議案に対する分析・評価能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、基礎知識など評価項目は6つ。

2つめの観点は「質問の頻度・内容」(3項目)だ。さらに、「公約言及度」(2項目)や「議場内の態度」(4項目)、「改革意欲・問題意識」(3項目)、「議会報告」(3項目)、「政務活動費」(1項目)、「人格」(2項目)と続き、最後は「好感度」(1項目)である。

赤倉さんたちはこれらの評価シートを広げて議員ごとに採点し、さらに会員同士で侃侃諤諤の議論を重ねて最終的に会としての評価を下すのである。

赤倉さんは、「議会を継続して傍聴することが大事です。少なくとも1つの定例会を通して見ることをお勧めします。それから今は本会議よりも委員会が主流となっています。委員会の方が議員の資質がよくわかります」と語る。

議員通信簿の作成に活用する議員評価シートのようなものを各地の住民が独自に作成し、それを持参した上でそれぞれの議会を傍聴するというのはいかがだろうか。色々な発見に結び付くことになるのではないだろうか。

また、各自治体の議会事務局ももっと工夫を重ねるべきではないか。資料配布はもちろんのこと、開会前に傍聴者に対して当日の議会の見所や質問議員のプロフィールなどを解説するサービスを、行ったらどうだろうか。主権者である住民にそのくらいのサービスをしてもよいと思うのだが。

それとも議員と執行部は、ともに本音では「議会傍聴する住民がいない方が良い」とでも思っているのだろうか。

ぬるま湯に浸かって楽チンする地方議員をそのまま放置しておく余裕など、どこの自治体にもないはずだ。個々の議員の資質と働きぶりをきちんとチェックし、問題ありとなったら退場(落選)させなければならない。それが主権者の権利であり、義務でもある。

まずは、議員の仕事場である議会を傍聴し、議員個々の実像をしっかりと観察することをお勧めしたい。議会改革は、議員だけで行うものではない。主権者である住民が当事者として加わらない限り、真の議会改革も真の行財政改革もあり得ない。

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