人種差別

画像の説明 アメリカのカナリア

米国がまだ、奴隷州と自由州に分かれていた時代である。ミズーリ州の黒人奴隷だったドレッド・スコットが、自由を求めて訴訟を起こす。所有者に従って、数年前まで奴隷制度のない州に居住していた事実を理由にしていた。

▼しかし、1857年に最高裁判所が下した判決は、スコットの訴えを退けた。黒人奴隷であるスコットはアメリカ市民ではなく、提訴する権利はない、というのである。

▼奴隷制反対勢力から激しい非難を浴びたこの判決は、リンカーン大統領の誕生を招き、南北戦争の勃発にもつながっていく。スコットの墓は、ミズーリ州ファーガソン市にある。その長い眠りを妨げるような、激しい騒乱が続いている。

▼きっかけとなったのは、白人警官による黒人の少年(18)の射殺事件だ。過激化した一部の黒人住民が火炎瓶を投げつけ、重装備の警官隊が催涙ガスなどで応戦している。現地で取材中の小紙の記者は、「戦場さながらの光景」と伝えていた。

▼人口2万人余りのファーガソンの約3分の2が黒人住民である。ところが、地元警察53人のうち黒人はわずか3人で、市職員の大半も白人だという。米国は、戦後の公民権運動をへて、6年前には史上初の黒人大統領を誕生させた。人種差別のない社会の実現に、大きく前進したのではなかったのか。

▼かつて炭鉱労働者は、有毒ガスを感知するためにカナリアを連れていった。そのカナリアのように、「黒人は、アメリカ社会の危機をいち早く伝える役目を果たしてきた」(『アメリカ黒人の歴史』上杉忍著、中公新書)。「アメリカのカナリア」の多くは、格差社会の底辺でうめき声を上げている。その警告に応える余裕が、いまのオバマ大統領にはないのだろうか。

コメント


認証コード4799

コメントは管理者の承認後に表示されます。