ドル取引から人民元取引へ

画像の説明 李克強首相と英女王との面会を読み解く

ドル取引から人民元取引へ

中国の李克強首相のイギリスとギリシャ訪問が始まった。そして18日、李克強がウインザー城に現れ、エリザベス女王と握手する姿が大写しされた。背景には世界の金融地図を塗り替えるような「ドル・人民元」戦争が横たわっている。

6月16日から21日の予定で、中国の李克強首相のイギリスとギリシャ訪問が始まった。そして18日、李克強の姿がウインザー城に現れ、優雅なエリザベス女王と握手する姿が大写しされた。

中国側はイギリス訪問に先立って、どうしてもエリザベス女王に会いたいとこだわり、「会わないのなら訪英をやめる」とまで言ったと、イギリスの新聞「タイムズ」がスクープした。威嚇まがいの言葉が本当に発せられたのか否かは定かでないものの、少なくとも、中国側がエリザベス女王との面会にこだわったことは確かだろう。

その背景の一つには少数民族問題があるが、見逃してならないのは、もう一つ、世界の金融地図を塗り替えるような「ドル・人民元」戦争が、そこには横たわっていることである。本稿ではこれらの真相を考察する。

◆ダライ・ラマをめぐる中英間の相克

2012年5月、イギリスのキャメロン首相とダライ・ラマ14世が会談した。まだ胡錦濤政権だった中国政府は、内政干渉だと激しくイギリスを非難して抗議した。そのため中英間の経済交流にも悪影響が及び、キャメロン首相は人権問題と経済の間で苦しめられた。
それでも謝罪を求める中国政府側に対して、イギリスは「誰が誰とどこで会うかは、自分で決める権利がある」として、突っぱねてはみたものの、中国からの投資は急減していった。

そこで2013年12月2日、キャメロン首相はついに折れて中国を訪問。
「イギリスは西側世界における最強の中国支持国になるだろう」「イギリスは中国の主権と領土保全を尊重し、チベットが中国の一部であることを承認しており、チベット独立は認めない」など、キャメロン首相は中国を礼賛し屈服。

そこまで言ってくれるのであれば、「ご褒美」をあげなくてはならない。
本来なら「首相」と「首相」という同格の者同士の会談で済ませるところだが、中国は「首相(国務院総理)」の上の格である「中共中央総書記」までをも宛がってきた。キャメロン首相は李克強首相(党内序列ナンバー2)と会談しただけでなく、その上の習近平総書記(兼国家主席、党内序列ナンバー1)にまで会える「栄誉」を得たわけである。
こうして英中経済交流に関する数々の協定が結ばれた。

このたびの李克強首相の訪英は、キャメロン首相訪中の返礼と中国は位置づけている。だから李克強首相の訪英に際してもまた、イギリスは「首相」より上の者を出すべきであるというのが、中国の論理だ。

イギリスにはエリザベス2世女王という、最も権威の高い存在がいる。
「本当にチベット問題に関して反省しているのなら、その証拠を見せよ」という「踏み絵」の意味もあったと考えていいだろう。これに合格すれば、いずれは習近平の訪英となる。

◆ヨーロッパを「人民元決済」市場に――「ドル取引」の後退

一方、先月、フランスの大手銀行BNPパリバに対して、アメリカが法外な額の罰金を科すことが報道された。BNPパリバが、アメリカが行っているスーダンやイランなどへの経済制裁に違反して取引をしたからというのが理由だ。罰金の司法取引交渉は160億ドル(約1.6兆円)からスタート。ロイター電によれば、この種の金額としては前代未聞と言われている。
イギリスの大手銀行HSBC(香港上海銀行、1865年創業)もまた、2年前にマネーロンダリングなどを含めた同様の理由により、アメリカから19億ドルの罰金を要求された。
英仏の関係者は、罰金があまりに高いことから、「EU市場はアメリカのためにあるのではない」こととともに「いまにドル取引がEU市場から追い出されて、人民元取引に取って替わられるだろう」と言っていると、中国では専ら報道されていた。
この機を見逃す中国ではない。
李克強首相は、6月17日、「人民元の国際化」という言葉を使いながら、ついにイギリスで「人民元決済銀行」を設立することを宣言。
これからは、「中国銀行」と「中国農業銀行」が、ロンドン証券取引所に参入し、「人民元のクロスボーダー業務の戦略的拠点」を担うことになる。
ドル取引を後退させ、人民元決済により、EU市場へと食い込んでいくわけだ。

筆者は本コラムで何度か中国の巨大な「新シルクロード経済ベルト構想」を述べてきたが、中国はその終点をEUにまで伸ばす戦略を、一歩一歩、実現させている。
資金難と就職難で追い込まれていたイギリスは、こうして中国に「屈服」したわけである。
何と言っても李克強は300億米ドル(3兆円強)という大型投資を引っ提げて、金融、エネルギー源、高速鉄道、原子力発電など、40項目にわたるプロジェクトを手土産にイギリスに乗り込んだのだから。

習近平政権が掲げるスローガン「中華民族の偉大なる復興」を逆から読めば、「中華民族の深い屈辱」で、それが始まったのは1840年のアヘン戦争。ヴィクトリア女王時代だ。
中国にとっては、この立場の逆転により、スローガン実現に近づいたというところか。…

しかし、どの国も、「経済優先」によって中国の「人権問題」に対する声を潜め、中国のご機嫌を伺っている。
李克強首相とエリザベス女王との面会には、世界の縮図が凝縮していることに注目したい。

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