「日本のヤクザマネーが救世主に」

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日本のヤクザマネーが救世主に、中国最大の和食チェーン急成長の秘密

新規出店したいが
銀行はカネを貸してくれない
 
1996年9月、上海でオープンした刺し身居酒屋『海の幸』を皮切りに、その後は鉄板焼き店『大漁』をメーンにさまざまな業態の飲食店を中国全土で展開。創業23年目の現在、300店舗を超える一大飲食チェーンに成長した丁家順が率いる「大漁グループ」だが、その道のりは決して順風満帆なものではなかった。

特に90年代後半の「大漁グループ」草創期は、さまざまな苦難が丁を襲った。丁は語る。

ショッピングモールへの出店を決断

「3店舗目までは順調だったが、4店舗目を出そうというときが大変だった。当時、中国経済はどんどん拡大し、上海のような大都市では地価も物価もどんどん上がっていた。例えば半年前に4万元で借りられた空き店舗の家賃が、あっという間に2倍、3倍になる。だから既存店舗が順調でも、新規出店のための費用捻出がものすごく大変だったの」

99年、丁はある物件に目をつけた。

「上海の中心部にショッピングモールがオープンし、飲食店のテナントを募集していたの。そこの社長は『大漁』の常連客で、俺に声をかけてきた。『ぜひ、うちでやってほしい』と。でも、家賃がめちゃ高かったの。例えば2店舗目の店は、米国領事館からすぐ近くという好立地に、広さ250平方メートルで家賃は2万元。それが、ここは400平方メートルと広かったけど8万元。さすがの俺もちょっと自信がなかった」

当時の中国ではショッピングモール自体が珍しく、また百貨店などで食事をする文化もまだなかった。本当に客は集まるのか。集まらなかったら家賃だけで倒れてしまう。丁は悩みに悩んだ末、決断を下した。

「飲食などの水商売に、銀行がなかなか融資しようとしないのは日本も中国も同じ。かといって、自己資金ではとても新規出店は無理だった。だからモールの社長に半分冗談で言ったんだ。『5万元にしてくれたら出してもいいよ』と。そしたらOKが出ちゃったの。実際5万元でも厳しかったけど、言った以上はやらないと俺のメンツが立たない。慌てて、資金調達に動いたんだ」

投資家からの出資を断り
ヤクザからの借金を選ぶ
 
当時、目新しい日本風の鉄板焼き店をオープンし、繁盛させている丁のもとには頻繁に出資の申し出があったというが、丁はことごとく断っていた。なぜか。

「利益だけが目当ての投資家のカネを入れれば、経営に口を挟まれる。それが嫌だった。自分の理想の形ができるまでは、自分だけの考え、意思で経営したかったの」

カネの集まるところには、必ず暴力団の影

出資の代わりに丁が選んだのは、資金の借り入れだった。しかし、繁盛しているとはいえ、まだ創業からわずか数年、3店舗しかない「大漁グループ」に融資をしてくれる金融機関はなかった。

そこで丁は勝負に出た。以前、常連客から紹介された“金融業”の男に連絡を取ったのだ。男は、初老の日本人。香港に拠点を構える山口組系の経済ヤクザで、大陸でヤミ金を営んでいた。

「サエキさんって日本人。一見、紳士風よ。でも、目つきが一般の人間とは明らかに違う。すぐにピンときたよ。あ、黒社会の人間だなって」

カネの集まるところには、必ず暴力団の影がある。経済が沸騰しはじめた90年代の中国は、経済ヤクザにとってまさに新天地だった。特に山口組の動きは速かった。

90年代の前半から香港を拠点にして、広州、深セン、上海といった大陸沿岸部の大都市に触手を伸ばし、日本企業や駐在員ばかりでなく、丁のような飲食業の中国人相手に金融業や投資を行っていた。結局、丁はサエキから10万米ドルを借りることにした。

「私の店にキャッシュで持ってきたよ。金利は月3パーセント。無担保だよ。彼もアホじゃない。中国で中国人相手に商売するんだから、並の男じゃないよ。融資実行までにうちの既存店舗の状態を調べ上げ、確実に返済可能と見たから貸してくれたんだ。何度も一緒に食事をし、俺の人格も見た上で、『丁社長なら間違いない』と」

とはいえ、相手はヤクザである。不安はなかったのか。

「相手もビジネス。こっちもビジネス。俺は自分の商売に絶対の自信を持っていたから、まったく不安はなかった。それよりも思ったのは、俺、つくづく日本人に助けられるなあと。日本と縁があるなあって」

「受けた恩は必ず返す」のが丁の絶対ルール

「受けた恩は必ず返す」のが
丁の絶対ルール

『大漁グループ』の総帥の丁家順

こうして資金調達に成功した丁は、ショッピングモールに鉄板焼きの『大漁』をオープン。これが連日の大盛況となり、借金はわずか2年で完済することができた。すると、サエキは丁に頭を下げてこう言ったという。

「社長、早すぎるよ。もう1年、借りてくれないか」

丁は二つ返事でこう答えた。

「分かりました。半年だけ延長しましょう」

なぜ、そうしたのか。丁は言う。

「サエキさんのおかげで、俺は4店舗目をオープンさせることができた。相手がヤクザだろうが誰だろうが、受けた恩は返す。これが俺の中のルール。ずっとそうやって生きてきた」

ヤクザマネーに救われ、これが起爆剤となって、以後「大漁グループ」は急速に店舗を全国に拡大していった。

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