「中国はなぜ理不尽な死刑判決を外国人に言い渡すのか」

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中国はなぜ理不尽な死刑判決を外国人に言い渡すのか

中国がファーウェイ事件の報復でカナダ人に死刑判決を言い渡す理由

中国の大連市中級人民法院は、覚醒剤密輸の容疑でカナダ人男性に死刑判決を言い渡した。このような理不尽な出来事は、今後中国だけでなく、世界中で起きる可能性がある 

中国でのカナダ人死刑判決
単なる司法制度の問題ではない

1月14日、中国の地裁に相当する大連市の中級人民法院は、覚醒剤222キロを大連からオーストラリアに密輸しようとした容疑で、カナダ人男性に死刑判決を言い渡しました。

中国では違法薬物の取引は重罪で、覚醒剤の場合50グラムの密輸でも死刑になる可能性があるそうですが、とはいえ今回の判決は異例だったようです。というのも、もともとこの被告は従属犯(正犯に従属して成立する犯罪)として懲役15年の判決を受け、それを不服として控訴していたからです。

ところが、上級審の裁判中にカナダでファーウェイ(華為)の幹部が逮捕された後、突然「従属犯ではなく主犯である証拠が見つかった」とされ、昨年12月末に裁判のやり直しが命じられました。そして、わずか16日後に死刑判決が下されたのです。

このことからカナダでは、今回の判決はファーウェイ幹部逮捕に関わる報復の一環ではないかと言われているのです。中国ではファーウェイ幹部逮捕後に13人のカナダ人が拘束されたということで、カナダ政府は国民に対して中国渡航について異例の注意を呼び掛けています。

一方で中国国営紙は、カナダのトルドー首相がこの死刑判決を批判したことに対して、逆に「これは中国の法制度に対する侮辱だ」という抗議の意見を表明しました。あくまで本件は中国の国内法の話であり、かつ麻薬撲滅は中国の国内の重要政策の1つだから、というわけです。

さて、そもそもなぜこのような事件が起きているのでしょうか。私は今回の事案に関して「中国の司法制度が独特だから」という捉え方をするのは表面的なものに過ぎないと考えています。実は、読者の方々もお気づきだと思いますが、これと似た事件が今、世界中で起きています。そして、そのことこそが時代の本質を突いていると、私は思うのです。

世界中で不穏な動きが活発化し始めたのは、トランプ大統領が登場した頃からです。アメリカはメキシコとの国境に壁をつくり、その壁を乗り越えようとしてきた難民が拘束される事態になっています。一方で、アメリカは中国と関税戦争を始め、保護貿易の台頭による経済成長の鈍化が、世界的な問題になり始めています。

ゴーン氏も竹田会長も根は同じ、世界は「外交戦争」へ

今回の事件の発端となったファーウェイの幹部拘束事件は、アメリカと中国の間のサイバー戦争から発展したものです。中国製の通信機器は安保上問題があるということで、ファーウェイとZTEの通信機器がアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5ヵ国の次世代ネットワークから外される事態が起き、それに幹部の逮捕が続いています。

 そのような国際緊張の中で起きた今回の死刑判決ですが、本質は国際緊張のほうにあり、今回の死刑判決はその結果起きる、おびただしい混乱事案の一角に過ぎないのです。言い換えれば、似たような事件がこれからいくつも起きることになるのです。

 日本について言えば、韓国で徴用工に関して日本企業に高額の賠償金を求める判決が出て、国際問題に発展しています。同時に、日本の自衛隊機に対するレーダー照射問題も起きています。どちらも、日本の立場から見れば「相手が悪い」という問題なのですが、韓国からは見方が違うようで、結果として国際的な外交問題に発展しています。

ゴーン氏も竹田会長も根は同じ
世界は「外交戦争」の時代へ
 
まったく別の話ですが、ルノーのゴーン会長を日本の検察が拘束している問題も、日本からすれば国内問題です。しかし同じことを言えば、JOC会長の竹田恒和氏をフランスの捜査機関が捜査をするのは、フランスの国内問題だということになります。

1つひとつの問題は全く別の原因で起きた、全く別の社会問題です。しかし、私が重要だと思うのは「なぜ、今、世界中でこのような外交紛争が同時多発的に起きているのか」という点にあるのです。

先に結論を申し上げましょう。今、世界は「外交戦争の時代」に突入したのです。

どういうことかと言うと、世界中が「国内が成長するよりも外国から何かをぶん取るほうが成長できる状態」に陥りつつあるのです。

これとよく似た状況が、1930年代の世界で起きました。1929年にアメリカで大恐慌が起きましたが、欧州でも同様に経済停滞が起きます。それで主要国は他国から利益をぶん取る覇権主義ないしは保護主義的な政策へと舵を切るようになります。

国内の成長よりも外国からぶん取るという「いつか来た道」

その中で、ドイツではナチスが政権を握り、ソ連ではスターリンが権力基盤を固めるのですが、少なくともドイツに関して言えば、独裁者が誕生した背景はポピュリズムの台頭にありました。つまり、国民が「悪いのは外国だ」と唱えるヒトラーを選挙で指導者に選んだのです。

そうして、世界が紛争の種を抱えて不安定になった結果、1930年代は歴史的な外交政策の時代に突入します。いたるところで国際問題が起き、それを解決するための国際会議や首脳会談が、どの国にとっても最大の政治課題になったのです。

今世界で起きていることは、1930年代と同じ外交問題の同時多発現象です。その観点で捉えれば、現在進行形の日ロ交渉も、イギリス議会のEU離脱否決も、全てはまったく別の事象でありながら、同じ文脈で起きている社会問題です。

国内の成長よりも外国から
ぶん取るという「いつか来た道」
 
繰り返しになりますが、その根底にあるのは「国内が成長するよりも、外国から何かをぶん取ったほうがいい」というアイデアです。ロシアも韓国も中国もアメリカも、日本を揺さぶれば何かしらの利益が得られると考えて、同じ文脈で全く別の外交問題を次々と仕掛けているのです。

そして、それは日本だけではなく、中国とアメリカ、中国とカナダ、イギリスとEU、トルコとサウジアラビアといった具合に、世界中で同時に違う形で同じような外交問題が勃発している。それが、現在起きていることの本質です。

結果として、死刑判決を受けてしまったカナダ人から見れば、これほど理不尽な状況はないでしょう。しかし、そのことが単体の問題ではないということが、今回の問題なのです。

1930年代の外交政策の時代は、その後に世界大戦を引き起こしました。一市民としては、今回の状況がそこまで悪化しないことを願う一方で、特に日本の政治家には同じ悲劇を二度と繰り返さないように、国の舵取りをお願いしたいと思う限りです。

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