「中共が恐れる北崩壊後の世界」

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哀れ金正恩“命乞い演説”

宣戦布告に対する報復は「慎重に検討」。金正恩一世一代の声明は命乞いだった。中共で公然と論じられ始めた北崩壊後の次善策。習近平が恐れる悪夢の戦後シナリオとは何か。

要注意日と一部で囁かれた10月10日は何事もなく過ぎようとしていた。朝鮮労働党創建記念日、金正恩は対外的なアクションを起こさなかった。しかし、夜が更けた頃、報告に震え上がることになる。

夕闇に包まれ始めたグアム島アンダーセン空軍基地から米戦略爆撃機B1-Bランサー2機が離陸。まもなく、空自のF-15戦闘機2機と合流し、九州周辺の空域で共同訓練を実施した。

▽グアム基地から離陸するランサー10月10日

更にランサーは機首を北に向け、朝鮮半島に到達すると、南鮮空軍の直掩機を引き連れ、日本海上空で空対地ミサイルの演習を行った。先月24日以来となる半島でのランサー召喚だ。

「例え共和国の領空外であっても、米帝の爆撃機を撃墜する権利がある」

NYを訪れていた北朝鮮外相の李容浩(リ・ヨンホ)は9月25日、記者団の前で息巻いた。次にランサーが接近した場合は無慈悲な措置を講じるという。北宣伝機関はより強い口調で、こう宣言する。

「我が軍は我が領空を侵犯しようとすれば、断固として撃墜する意思に溢れている」

ランサー2機は9月23日深夜から翌未明にかけ、北朝鮮東方の国際空域に展開。海の境界線であるNLL(北方限界線)の北側ギリギリを飛行したが、北空軍機のスクランブル発進はなかった。

火病爆発する金正恩の顔が目に浮かぶ。先月のランサー飛来を受け、北朝鮮は航空兵力を東海岸に集め、哨戒飛行を実施するなど防空態勢を強化。次の飛来に備えていた。
▽離陸準備中のランサー2機10月10日

しかし、2回目となる急接近でも何らアクションはなかった模様だ。かつて北朝鮮は、清津沖約160㎞の空域に現れた米軍の早期警戒機EC-121を問答無用で撃墜している。

ベトナム戦争が泥沼化する中、当時のニクソン大統領は報復攻撃を控えたが、米軍は31人の犠牲を忘れていない。一方、核とミサイルに頼る3代目は、初歩の要撃管制すら忘れている。

▽北空軍に撃墜されたEC-121

北朝鮮軍のミグ17による米軍EC-121撃墜事件から半世紀。今や日本海でも黄海でも北朝鮮軍の制空権は初めから存在しない。

【金正恩“命乞い演説”の哀愁】

「北朝鮮が10日の朝鮮労働党創建記念日までにミサイル発射を行う可能性がある」

10月初めに訪朝したロシアの野党議員は、近日中のICBM発射を予言し、見事に外した。各国のメディアが注目した訪朝団だったが、ガセネタを掴まされるだけに終わった。

▽平壌入りしたロシア議員訪朝団10月2日

訪朝団長はロシア野党LDPRのアントン・モロゾフ。この政党の母体は90年代に脚光を浴びたジリノフスキーのロシア自由民主党だが、勢いを失って久しい。アントニオ猪木よりは格上といった程度だ。
 
意外だったのは、モロゾフとの会談に金永南(キム・ヨンナム)が登場したことだった。金永南は形式的な国家元首&表向きの序列2位だが、決定権を何一つ持たない。

「米本土に到達可能な9000㎞に射程を伸ばすのが目標だ」
▽モロゾフ・金永南会談(KCNA)

金永南は揺さぶりを掛けるつもりだったが、7月末のICBM発射時に北は「米全土が射程圏内」と豪語していた。二転三転する脅し文句。帰国の途に就いたモロゾフは平壌中枢の印象について、こう語った。

「北朝鮮は絶望的な状況にあるので、最後の藁をも掴もうとしているのかも知れない」

率直な感想である。金正恩がロシアの野党議員にメッセージを託した可能性が高い。生き残りを目論む平壌中枢が助け舟を求める相手は、今やクレムリンしかない状況だ。

▽仔犬贈呈されるプーチン10月7日

「米国の老いぼれ狂人を必ず、必ず、火で制するだろう」

トランプ大統領のUN演説後、金正恩は初めて自分名義の声明を発表した。UN演説を「宣戦布告」と断定して、史上最高の超強硬対応措置を宣言。各国メディアも「危機が最高潮に」と報じた。

▽大統領令に署名するトランプ10月12日

トランプvs金正恩の構図を強調するメディアにとって「強い言葉」は美味しい素材だった。実際、3代目声明は憎悪と中傷に満ちていたが、同時に、弱々しさも埋め込まれていた。

「超強硬対応措置の断行を慎重に検討する」

宣戦布告に対し、報復を「慎重に検討する」のだという。声明と共に宣伝機関が公開した1枚の写真。執務室のセットに1人座る金正恩の表情には、威厳も自信もなく、蒼褪めているようにも見える。

▽声明を読み上げる金正恩

罵詈雑言の羅列とは裏腹に、この声明は金正恩の命乞いに等しかったのだ。

【習近平の面汚し弾道弾】

臆病風に吹かれながらも、金正恩が次に繰り出す一手はやはりICBMだ。要注意日は10月18日。この日から北京で中共の第19回党大会がスタートする。

多くの保守系識者が指摘し始めたが、北朝鮮の軍事恫喝は習近平の動きとリンクしている。5月14日の国際会議初日にICBMを発射。9月3日のBRICS会議前日には核実験に踏み切った。

▽5月14日の弾道ミサイル発射

また奥尻島沖にKN-20が着弾した7月29日は、習近平の南モンゴル軍事パレード観閲の前日に当たった。偶然の一致ではなく、米大統領のスケジュールなど毛頭考えていないといった感じだ。

『「朝鮮有事」は禁断の言葉…金正恩が天仰ぐ米支急接近』

例外もあるが、核やミサイルで脅し、習近平の面を拝む。それが一貫した金正恩の趣味趣向だ。3代目の思惑通り、いずれも習近平は渋い表情で表舞台に現れた。

▽発射翌日に軍事パレード登場7月30日(共同)

会見や議会答弁の多い民主国家の指導者と違い、共産国のトップは日常的に報道カメラに晒されることはない。それどころか、国家主席や総書記が首都の何処に居るのかさえ不明確なのだ。

金正恩は明らかに習近平登場のタイミングを窺っている。18日から始まる中共党大会には内外の記者が招かれ、頭撮りが行われる他、無難なシーンの撮影も許可される。

▽前回の中共党大会’12年11月(共同)

中共トップにとって己の権威を国際社会に印象付ける重大なセレモニー。金正恩が絶好の機会を逃すはずがない。1週間から10日に及ぶ党大会の期間中、習近平は北の恫喝を警戒し続けるだろう。

衆院選と重なる我が国もアラート発令とNSC閣僚級会合の緊急開催に備える必要がある。次のICBMは、北海道上空を襲った過去2回のICBMとは異なるコースを飛ぶ恐れが高い。

▽黄海~沖縄上空を通過したテポドン2改(時事)

中共党大会を脅すのであれば、逆方向の日本海ではなく、沖縄上空を掠めるかも知れない。昨年2月、戦後初の空襲警報が響いたテポドン2改と同じコースである。

【米軍トップが視察した対北部隊】

9月16日、北京や天津などの都市で空襲警報が鳴り響いた。過去にも行われた訓練だが、今回は、朝鮮有事を睨んだミサイル退避を想定したものとの見方も多い。

我が国で実施されるミサイル退避訓練やJアラートについて、TBSなど朝鮮労働党系のメディアは“挑発行為”と非難する。しかし、支那国内では朝鮮有事を視野に入れた動きが進んでいる。

▽北京で実施された防空訓練’16年(新華社)

具体的には、中共軍幹部と米軍制服組との連携が今春以降、緊密になっていることだ。中身は一切不明だが、有事勃発に伴う両軍の行動プランを擦り合わせていることは確かだ。

8月中旬、支那を訪問した米統合参謀本部のダンフォード議長は、旧満州エリアの瀋陽に招かれた。対北部隊の根拠地。そこで議長は北部戦区の軍事訓練を視察している。

▽瀋陽に到着したダンフォード議長8月(AP)

「北朝鮮の崩壊に備え、中国は米国や韓国と緊急対応策の調整を始めるべきだ」

米支連携が胎動する中、北京大の賈慶国が9月に発表した論文が話題になっている。賈慶国は非主流派とされるが、政協常務委員を務める中共の御用学者だ。

「北朝鮮の最悪の事態に備える時」と題された論文。中共指導部が打ち上げた観測気球ではあるが、金正恩政権の崩壊後にスポットを当て、諸問題を考察している点は刺激的だ。

▽北京大国際関係学院院長・賈慶国1月

政治的な黒い思惑があるにしても、対話一本槍の我が国の反日メディアが完敗する“タブーなき言論”。朝鮮有事を想定した議論さえ許さない9条カルト系の対話連呼厨とは比較にもならない。

金正恩政権崩壊後の世界を見据えた論文。簡潔に論点を整理し、核管理にまで言及するが、北京が最も懸念する重大な問題は、軽く疑問を投げ掛けるだけで実質スルーを決め込む。

【中共が戦慄する“民主化の波”】

有事勃発に伴う米南軍の「作戦計画5027」には不可解な停戦ラインが存在する。国境を越えて破竹の進撃をする米南軍は、寧辺の北でピタリと止まる。38度線改め、新たな40度線の出現だ。

▽「作戦計画5027」の概略図

米国は40度線以北に中共軍が侵攻・駐留することを想定している。米支間で何らかの合意があったと見るべきだろう。賈慶国の論文でも、難民流入阻止を名目にした安全地帯設置が説かれる。

混乱の中の核管理は、コスト面から米国が担うケースも有り得るとする一方、中共の管理となっても異論は出ないと予想する。核保有国にとって「北の核」に技術的な旨味はないのだ。

▽核弾頭モックアップと金正恩9月(KCNA)

「北京が議論すべき第4の問題は危機後の半島の政治的な取り決めである。国際社会が北朝鮮に新政府を創設するのか?UN主導で南北統一を進めるのか?」

これがほぼ全文。ポスト金正恩の統治形態について中共は不安でいっぱいだ。具体的には、崩壊後の北朝鮮エリアで民主化プロセスが進行する事態を恐れている。

金正恩排除・軍の武装解除後、半島北部には暫定統治機構が設置される。そして、米国はイラクでの失敗に学び、長い時間をかけて民主化を推し進めるだろう。

▽平壌の政治宣伝「米全土が射程内」10月9日(共同)

中共にとって旧衛星国の民主化は悪夢でしかない。いくら情報を統制しても、旧北朝鮮エリアの社会変革は支那国内に漏れ伝わる。一党独裁という中共の足元が揺らぐことは必至だ。

これまで中共は、北の独裁者が造反した場合、単に首をすげ替えて混乱を収拾させる腹積もりだった。だが、お飾りの金正男も子飼いの張成沢も殺害されてしまった。朝鮮労働党存続の余地はない。

▽錦繍山宮殿を詣でる金正恩ら10月7日(KCNA)

一党独裁の瓦解、民主化プロセス…中共指導部は北の核もミサイルも恐れないが、国内に動乱のタネが撒かれることに戦慄する。果たして北京は北崩壊後の世界と向き合えるのか?

急がれる決断。習近平に残れされた時間は少ない。

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