「拉致問題」

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「なぜ日本は、われわれを取り返してくれないのか。不安、恐怖、焦り…。精神状態は尋常ではない」。

産経新聞の取材に応じた拉致被害者の蓮池薫さん(60)は、北朝鮮に捕らわれる拉致被害者の胸中をこう推し量った。帰国から15年。蓮池さんの念頭にあるのは、北で生きてゆくために耐えた“屈辱の順応”だった

■「子供の将来…従わざるを得なかった」

故郷で過ごす夏休みの日常は突然、暴力的に打ち切られた。昭和53年夏、北朝鮮での生活は有無を言わせずに始まった。

「(指導者の)バッジを胸につけ、正月には忠誠の誓いを述べる。拉致された上に、彼らに強制的に従わされ、教育される。これは屈辱的でつらかった」

拉致直後、蓮池さんは「帰せ、帰せ」と憤った。ただ、次第に怒りや反発を表面に出さなくなった。

「プライドが許さないからと反発したら生きていけないですよ」
 一緒に拉致された妻、祐木子さん(61)との間に56年と60年、長女と長男が生まれていた。

「わが身に(制裁が)降りかかるというよりも、子供の将来を考えると、従わざるを得なかった」

■塗りつぶされぬ新聞の父親の写真

北朝鮮での人生は、プライドをかなぐり捨てて生きることでもあった。そして、朝鮮労働党中央委員会所属という肩書は反発の色を見せないことで維持された。北朝鮮では階級が生活水準に影響し、医療や食料などに直結する。

「党中央に所属するか否かは指導者への忠誠心の尺度というよりも、より良い条件で生きてゆくためのステータスだった」

特殊機関など党中央の部署に働く国民には、一般国民より良い待遇が与えられる。蓮池さんはその待遇を得ることができた。子供たちが将来、安全に生きるためにも必要だった。

蓮池さんは特殊機関で日本の新聞の翻訳などもさせられた。新聞は通常、検閲で不都合な部分を消されて手元に届くが、不思議なことに拉致被害者救出活動中の父親の写真や記事は塗りつぶされていなかった。

蓮池さんはこれを「不思議なアイロニー」と表現する。「北朝鮮にとって拉致は日本側のでっち上げで、作り話という立場」。北朝鮮は原則ができると、それ以外は軽視する傾向がある。万事“原理原則”で動き、“大義”が優先だ。

■「被害者はカード」末端に管理させぬ

帰国後、「拉致」の意味を考えた。拉致、結婚、帰国には、目的や理由があったに違いない-。ここ数年は毎日、韓国の北朝鮮関連ニュースをチェックし、国際政治と北の内部情勢や日朝関係などを分析した。そして「24年間がかろうじてつながった」という。

北で身についた思考習慣からいま、見えてくることもある。拉致被害者を北朝鮮はどのように扱うか。

「被害者は、カードだ」-。末端部署に管理させるはずがない。「中央機関の管理下で、中央の人間が随時、接触し、被害者の状況を知っている可能性もある」。救出活動のためにさらに声を上げていくことを決めた蓮池さんは、真剣な表情でそう明かした。

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