「人工知能」

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2016年が政治面で激動の1年だったとするならば、2017年はテクノロジーの分野で同じくらい激動の年になりそうだ。

変化のペースは目もくらむ勢いで加速している。私たちの働き方や遊び方、情報の伝え方に及ぶ影響は計り知れない。

では2017年に注目しておきたい、主なテクノロジー・トレンドは何だろう。

サイバーセキュリティー

サイバーセキュリティーが2017年の主要なテーマになることは間違いない。どんな技術革新も全て、データの盗難や詐欺、サイバー・プロパガンダ(宣伝工作)の被害をこうむる恐れがあるからだ。

米人気タレント、キム・カーダシアンの強盗被害など大したことはない。ここで言うハッキングはインターネットを破壊し、インターネット以外にも幅広い被害を引き起こしかねない

ロシアが2016年の米大統領選に介入したとされる問題が世界を騒がせ続けるなか、ハッカー集団は民間だろうが国家の後ろ盾を持っていようが、今や優勢になりつつある。

英新興企業ナショナル・サイバー・マネジメント・センターの会長を務めるリチャード・ベナム教授は、こんな不吉な警告を発している。「2017年にはサイバー攻撃で大手銀行が業務停止に陥り、信用を失って取り付け騒ぎが起きるだろう」。

昨年11月には、ハッカー集団が英テスコ銀行の顧客9000人の口座から総額250万ポンド(約3億6000万円)を盗み出す事件が発生した。英金融行為監督機構(FCA)はこれを「前代未聞」の犯行と呼んだ。

テスコ銀行のATM

車も家も常時インターネットに接続し、街にはセンサーが張り巡らされる。こうして世界がつながればつながるほど、ハッカーたちがシステムに侵入して大混乱を引き起こす狙い目も増える。

「2017年の標的型サイバー攻撃には、モノのインターネット(IoT)とインダストリアルIoT(IIoT)が、今まで以上に大きくかかわってくる」。情報セキュリティー大手トレンドマイクロのレイモンド・ゲネス最高技術責任者(CTO)はこう指摘する。

「こういう攻撃はネット接続デバイスが広く受け入れられるようになってきた流れに乗じ、セキュリティー上の欠陥や無防備なシステムにつけ込んで企業の業務を妨害する」と指摘し、その一例として「Mirai(ミライ)」を挙げた。IoT機器を乗っ取り攻撃に悪用したマルウェアだ。

また同社の予測によると、今年も「ランサムウェア」の技術をハッカーらに有料で貸し出す犯罪行為が横行しそうだという。ランサムウェアは、コンピューターのシステムに侵入して全てのデータを暗号化するマルウェアだ。ハッカーは暗号の解除と引き換えに「身代金」を要求する。

ハッカーが同様の目的を果たす手口としては、狙った相手のサーバーに大量のデータを送り付けるDDos(分散型サービス妨害)攻撃を仕掛け、ウェブサイトや工場の管理システムをダウンさせるという方法もある。

そしてオランダのセキュリティー大手ジェムアルトのデータ保護事業を率いるジェイソン・ハートCTOによると、盗んだデータで金もうけするだけがハッカー集団の狙いではない。

ハッカーが優勢になりつつあるのか?

ハッカーは、データを改ざんしているのだ。これがとんでもない結果につながることもあり得る。

「怖い話だが、データ改ざん型の攻撃はひとつの会社とその関係各所を丸ごとつぶしてしまうほどの威力を持つ。偽のデータに株式市場が丸ごと侵され、崩壊することさえあり得る」と、ハート氏は指摘する。

「送電網のほか信号や給水設備などのIoTシステムも、制御の基になるデータが改ざんされれば大混乱に陥る恐れがある」

安全対策の不十分なデバイスだけではなく、人間も標的になる。だまされやすい人たちは今後も狙われ続けるだろう。「ビジネスメール詐欺」で大もうけする犯罪は今後も続くだろうと、専門家たちは予測する。

企業の従業員をだまして、犯人の銀行口座に金を振り込ませるなど、ハイテクとは程遠い手口だが、驚くほど簡単に成功するようだ。トレンドマイクロによると、米国内で昨年そうした口座に振り込まれた平均額は1件当たり14万ドル(約1620万円)に上った。

「サイバー犯罪者は人間の弱みを突いてくる」と、ベナム教授は語る。「テクノロジーには何百万ドルもかけるのに、安全意識を高める教育には予算がまったく使われない」

人工知能(AI)

2016年の流行語となったAIは、2017年も善かれあしかれ、引き続き世の中を賑わすことになるだろう。

あらかじめプログラムされた指示や手順に従うだけだった機械が、自ら学習したり新しい状況に順応したり、決断を下したりできるようになる。これが実現すると、メリットと同じ数だけデメリットも生じるようだ。

悲観的な人たちは、自前プログラミングが可能になった機械が暴走して人間の手に負えなくなり、破滅的な結末を招く可能性を指摘する。

しかし楽観的な人たちは、我々が日々クラウドに保存する大量のデータについて、制約を強化し自律性を低めた機械学習(ML)を適用すれば、これまで人間には気づけなかった相関関係やパターンを特定できるのではないかと期待する。

ネットにつながったデバイスやセンサーが増えるにつれ、私たちを取り囲む世界について前よりよく分かってくる。大量のデータの意味を把握できるようになれば、それを活用して病気を治したり、気候変動に取り組んだり、食物をもっと効率的に育てたりできるようになる。私たちは全体としてはるかにスマート(賢明)で持続可能な生活を送れるようになるというのが、AI推進派の考えだ。

昨年は顧客と自動的に対話する「チャットボット」がもてはやされた。時にはAIの実用例とも称されたが、これは間違いだ。チャットボットのほとんどに大した能力はなく、ただ質問に一番合いそうな答えの当て推量しているだけだった。

本物のAIはもっと賢くてつき合いやすい。自然言語処理や神経回路網、機械学習に基づいて、人間がどのように考えたり話したり、概念を分類したりしているかを理解するからだ。

使う人が増えれば、AIが学習するデータもそれだけ増えて、性能も向上するだろう。

そのため今後はアマゾンの「アレクサ」、「グーグルアシスタント」、マイクロソフトの「コルタナ」、アップルの「シリ」、そして新たに登場した「ビブ」などのように、より賢いバーチャルアシスタントが増えていくのだろう。

企業はこういうAIアシスタントの自社版を活用し、手元にある大量のデータを解析していくことになるだろう。

米半導体大手インテル傘下でコグニティブ・コンピューティングの技術を開発するサフロン・テクノロジーのゲイル・シェパード本部長は、こう語る。

「AIのおかげで私たちには意思決定支援システムを構築するチャンスが与えられた。このシステムは自ら見て聞いて理解し、私たちと力を合わせて、今よりもっと速く適切な、もっと幅広い情報に基づく決断を下せるように手助けしてくれる」。

もちろん、こうしてデバイスが常時データを集め続け、クラウドにつながっている環境では、セキュリティーの危険要因がまたひとつ増える。そもそも吸い上げられた膨大なデータがその後どうなるのかという問題をめぐり、プライバシーへの懸念が生じていることは言うまでもない。

AIでもうひとつ心配なのは、ハッカーもこの技術を使うことができるという点だ。いわば、サイバーセキュリティー軍拡競争だ。

ITコンサルティング企業のキャップジェミニ・UKでサイバーセキュリティー部門を率いるアンディ・パウエル氏は「マルウェアもAI化されるだろう。攻撃相手から得たデータを使って、人間が書く文の特徴や内容をそっくり再現した詐欺メールを送れるようになる」と予測する。

「AI化した攻撃は本物にますます近付いて、受け取る側の心を従来よりもっと巧みにとらえるだろう。つまり、相手が引っ掛かってしまう確率はさらに高くなる」

2017年にサイバーセキュリティーの問題から逃れることは、もはや不可能というしかない。

拡張現実(AR)と仮想現実(VR)

ARあるいは複合現実(MR)がゲームの世界でいかに旋風を巻き起こすか。ポケモンGOはその威力を見せつけた。2017年には、さらに多くの企業もこの技術を導入することが予想される。

言うまでもなく、マーケティングにとって大きなチャンスだ。独自動車大手BMWはコンサルティング大手アクセンチュアと提携してグーグルのAR技術「タンゴ」を導入し、さまざまな型の車が現実の場面でどう見えるかを可視化する顧客向けアプリの開発に取り組んでいる。

拡張現実(AR)アプリは今年ますます人気になるだろう
小売業界ではほかにも多くの企業が、マーケティング強化にこの技術を活用するようになるだろう。

産業や教育分野でも、応用範囲はたくさんある。眼鏡型端末の「スマートグラス」や、見る人の視野に重ねて画像を映し出す「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」を使えば、現場の作業員が指示に従ったりマニュアルを読んだり、職場で立ち回ったりする効率を上げることができる。

VRはいまだに主にゲームで使われているが、ヘッドセットの軽量化、高速化とともに触覚を再現する技術が進めば、訓練や教育の場への応用も現実性を増してくるだろう。

自動化

AIがコールセンターや顧客サービスのスタッフに取って代わるようになり、製造業では引き続き自動化が進む。そこで持ち上がってくるのが、あぶれてしまった労働者にはどんな仕事があるのか、という大問題だ。

グローバル化と自動化の影響が、選挙でいかに有権者を駆り立てるか。その例はすでに米国であらわになり、今年も欧州各地で表面化する可能性がある。

ロボットが人間の仕事の多くを取り上げるなら、代わりに私たちは何をすればいいのか?

英国の「ラッダイト運動」では、工場労働者が産業革命に抵抗して機械を破壊した。その現代版が起きようとしているのだろうか。というのもとどのつまり、生産コストを下げることで一番得をするのはだれかという話なので。貧困層でないことは確かだ。

「私たちはこの先、テクノロジーと労働力をめぐる厳しい現実に立ち向かうことになるだろう」
従量・継続課金(サブスクリプション)型ビジネス支援のサービスを提供する米企業ズオラの創業者、ティエン・ツォ氏はこう語る。

「新たな経済構造の中で、人の雇用をどう創出していくか。その道を見つけないとならない。実際に仕事が減るというなら、何らかの形で生活水準や最低所得を保障する制度が必要になる」

テクノロジーは人間の社会に、はっきりと目に見える影響を与える。2017年は世界がついに、この影響への対応を迫られる、そんな年にもなりそうだ。

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