2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「行政」
行政が民間の背中を押すべき時はある。だが、どんな手段をとるか、慎重さも必要だ。
金融庁が「銀行のビジネスモデルの転換」を打ち出している。低金利が続き、人口減少は止まらない。いまのままでは、地域銀行の経営がいずれ立ちゆかなくなるとの危機感からだ。
先週末に公表した今年度の「金融行政方針」にも、いくつかの具体策を盛り込んだ。
将来性がある企業や、地域に不可欠な企業であっても、担保や保証がないばかりにお金を借りられない。そんな状況を「日本型金融排除」と名付け、実態を調べる。それを踏まえて金融庁が銀行と「対話」する。
一方で、銀行に情報開示を促し、「優良な取り組み」をしている金融機関は、金融庁が公表・表彰するという。
銀行が担保や保証に頼るばかりで、本来の「目利き」の力が衰えていては、地域経済が求める役割は果たせない。テコ入れしたいとの金融庁の狙いはうなずける。融資の実情に迫り、顧客に見えにくい銀行の仕事ぶりを公表させるのも、有意義だ。
だが、やり方次第では、疑問や心配が生じかねない。まず、行政に民間を上回る目利き力があるかどうかだ。
「金融排除」は元来、英国などで貧困層が銀行に口座も持てないといった社会問題を指していたという。
「日本型」で問われているのは、融資先の信用力の見極め方だ。「排除」か否か、厳密な線引きは難しい。表彰も、行政が民間を超える判断基準を持つことが前提になる。将来まで見すえて優良な取り組みと認定する作業は簡単ではない。
金融庁には、銀行を検査・監督し、いざとなれば業務を停止できる強大な権限がある。バブル崩壊後の不良債権の山が金融システムを揺るがせた、あの苦い教訓を踏まえた仕組みだ。
金融庁に奨励や表彰をされた取り組みが、万が一、不良債権につながったらどうするのか。そのとき、検査・監督にブレーキがかかるような本末転倒は、避けなければならない。
今回の行政方針は検査・監督のあり方の見直しも強調した。「形式から実質へ」「過去から将来へ」視点を変えるという。
検査・監督は不良債権の処理と防止に力を入れるあまり、しゃくし定規になって銀行の工夫の芽を摘んできた面がある。その過去との決別は理解できる。
だが、新しい手法も、あくまで金融システムの安定の追求が前提になる。そのことを忘れないようにしたい。