「ネコババ」

画像の説明 中国財政部(日本での財務省)は10月11日、「エコカー」を生産する自動車メーカー数社に対し、これまでに交付した補助金を回収する通達書を送付した。

それに先立つ9月8日に、財政部はエコカーの普及・応用に対する補助金の特別調査を行い、その結果を発表し、5件の典型的な補助金の横領事例を明らかにした。

それによると、蘇州金竜が“ネコババ”した補助金は約5億元(約75億円)に達し、5社の中でもトップである。

その他の4社もそれぞれ、深セン五洲竜が約5600万元(約8億4000万円)、奇瑞万達貴州客車(乗用車)が約1億元(約15億元)、少林客車が約7600万元(約11億4000万円)で、5社が横領した補助金の総額は約10億元(約150億円)に達する。

11日の通達によって、各社はネコババした金額に罰金を加えてすべて返済しなければならない。中国のエコカー政策は、大きな変革の必要性に直面している。

補助金全体の2割近くがネコババされている!

ネコババの金額に多寡はあるものの、共通しているのは、各社とも少しも悪びれず、大々的に横領を行っている点である。

今年初め、財政部は主要エコカー生産企業90社に対して特別調査を実施した。2013年~15年に国庫から補助金を獲得、ないしは申請した新エネ車は約40万台で、このうち既に販売済みの約13万台を抽出調査したところ、補助金を不当あるいは不正に獲得していたエコカーの総数は約7万6000台に達し、総台数の19%に及ぶ。

9月9日の『経済観察報』によると、財政部がこれを明らかにした日の午後、さらに詳細なリストが各SNSのサークル内を駆け巡り、そのリストには補助金を掠め取った完成車メーカー20社やエコカーを開店休業にしていた89社が掲載されていた。

8日夜、完全版の「ネコババリスト」が明らかにされ、そのリストによって、調査対象の93社のうち72社に補助金の横領、規定違反の取得行為が存在し、その総額は約93億元(約1395億円)に上った。

このリストと金額は関係当局の確認を得てはいないが、メディアは「非常に大きな信頼性がある」として報じた。

企業の補助金依存症。地方政府がその協力

7月9日に国務院国有資産監督管理委員会(国資委)が発表した監査報告によると、2013年~15年に中央財政当局がエコカーに給付した補助金・奨励金は、年間約284億元(約4260億円)に及んだ。さらに当時の地方財政の年間の補助金は200億元(約3000億円)余りなので、合計484億元のうち約93億元が横領されたというのが事実とすれば、全体の19.2%となり、先の台数ベースの数字とも合致する。

業界を挙げて、国の資金を2割近くもだまし取っていたというのは、驚くべき事態である。

企業の補助金依存症地方政府がその協力

一部の企業が患っている「補助金依存症」は、もはやこれらの企業の“遺伝子”に起因していると言えそうだ。

『毎日経済新聞』の統計によると、金竜汽車(自動車)は純電気自動車(BEV)、プラグイン・ハイブリッドカー販売で昨年、合わせて約119億元(約1785億円)の収入を得たが、そのうち補助金は約58億元(約870億円)で、49%を占めた。

亜星客車の同年のBEVとハイブリッドカーの2車種のエコカーによる収入は約10億元(約150億円)だったが、そのうち補助金は約5億元(約75億円)で、44%を占めた。補助金頼みの事業であることは明らかで、これで投資家の信頼を得られるというのだろうか。

これらの企業は、利益目当てならどんな奇妙なデータでも、臆面もなく報告する。

例えば昨年11月の商用エコカーの月間生産台数は、世界中の生産台数の総和を上回った。12月にはさらにうなぎのぼりに増加し、世界の生産台数の2倍に当たる6万3525台に達した。

多くの商用車メーカーの過去1年の販売台数は数百台だったが、昨年12月1ヵ月の販売台数は1000台余に増えている。これは、どう見ても国庫補助金狙いのためである。

そして、こうしたデータをろくな検証もせず受け取る地方政府も、“共犯者”といえる。

政府の補助金を騙し取ることは多くの業界で公然の秘密

著名な財政経済専門ジャーナリストの葉檀氏は、次のように鋭く指摘している。

「制度と信用がダブルコストとなって中国市場を痛撃している。精神面から言うと、社会全体に信仰心が乏しく、尊厳の何たるかを知らない。P2Pやエコカーに対する助成は軽率な政策の典型的な事件だ。補助金効果が出るまできわめて長い時間がかかり、信用性が明らかでない市場で、重要な政策を打ち出す際には、事前に信用性の抜け道をきちんと塞いでおくべきであり、この点を怠ると大きな失敗を喫することになる」

エコカー補助金のネコババ問題から中国社会に目を向けると、いろんな分野で政府の補助金目当ての騙しがはびこっている。

李克強首相が「万衆創新」(万民のイノベーション)を呼びかけ、中国の研究開発への投資はますます高まっている。

現在、中国の研究開発投資額は米国に次ぐ世界第2位である。しかし、この資金は何に、どのように使われたのか。どれだけ研究開発やイノベーション活動に使われたのか。これらの問題に関して終始、論争が展開されている。

最近、ある科学研究開発分野におけるニュースに人々は驚かされた。広西省柳州市の民間企業の社長が10年の間、18の「プロジェクト」を通じて政府から1000万元以上の補助金を騙し取り、更に3.6ヘクタールの工業用地も入手していたというのである。

実際のところ、この企業のような手口は決して珍しい話ではない。多くの業界では、政府の補助金を騙し取ることがある種の公然の秘密となっている。

 『中国科技統計年鑑 2015』によると、2014年、政府は企業に422.3億元の研究開発資金を投入した。この資金には多くの企業経営者が目を付けた。

広西省柳州市民間企業の社長のように、存在しないプロジェクトを捏造したり、新製品の完成報告書を偽造したりした多様の手口が使われている。

政府の企業研究開発援助制度に重大な欠陥

資金を騙し取るだけでなく、巧みな手口で土地を入手し、不動産開発をする企業もある。多くの地方政府は、安い地価でハイテク企業に土地を譲る。これが、ずっと土地資源を欲しがっていた企業にとっていい機会となった。

『経済参考報』は昨年、「イノベーションの補助への拷問」という報道シリーズを掲載した。報道によれば「ある科学技術プロジェクトでは近々、某市で約186.7ヘクタールの土地を入手し、100億元の科学技術エリアの建設を計画している……この科学技術エリアの土地価格は、市場価格を遥かに下回っている。エリア内にはホテルや住宅建設の計画も含まれている」という。

全体的に見れば、個別企業が補助金を騙し取ることが問題のすべてではない。メディアの報道によれば、多くの地方で、秘密の企業ネットワークまで構築されている。

またその中には、新たな職業──科技ブローカーも誕生している。彼らは企業のプロジェクト捏造を手伝って政府からお金を騙し取り、自分自身もリベートを得ている。

これらの仲介者は政府部門に人脈があり、時々自ら企業に連絡し、資金を騙し取る計画を持ちあげる。惑わされたいくつかの企業がその指導の下で「研究開発部」を設立し、いかにも本物らしくやり始めるのである。

こう見ていくと、現在の政府の企業研究開発援助制度に重大な欠陥があるのではないかと思える。もちろん、表面的に見ればそうでもない。予算、プロジェクトの立ち上げ、成果の審査、検収など、制度上はすべて整備されている。

しかし、事細かな制度が必ず執行時の抑制力になるとは限らない。まして、科学技術革新において、地方政府の考えは必ずしも最上層の制度設計者と一致しているとは言えない。

たとえば、いくつかの地方政府は「新興産業の発展」を政治的業績と思い込み、関連企業にひたすら便宜を与える。

審査権を握っている政府幹部は、プロジェクトを立ち上げるばかりで、審査、検収段階などではろくに仕事をしていない。

こうして、納税者のお金が大量に浪費されていくのである。

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