「つぶれる」

画像の説明 カネの貸し先が見つからない

「この国には銀行の数が多すぎる。しかも、担保を取って貸し出すだけで何の工夫もしていないし、知恵もない。

これだけ金融緩和をしているのに、融資を必要としている起業家たちにカネが回っていないのはどういうことだ。金融機関がまともに機能していないから、日本ではアップルのようなイノベーション(技術革新)が生まれないんだ。

自己保身しか考えない愚かな金融機関を潰さなければ、日本が滅びる。そうなる前に、一刻も早い銀行の淘汰と再編が必要だ」

森信親金融庁長官はこう考えている。その思いが形になったのが、9月15日に発表された「金融レポート」だった。すでに本業(貸し出しや手数料ビジネス)で赤字になっている地域金融機関は4割もあり、'25年度にはもっと増えて、実に6割超で本業が赤字になるという衝撃的な内容だった。

さらに同レポートは、「早期に自らのビジネスモデルの持続可能性について真剣な検討が必要である」とまで踏み込んだ。

このままでは信用金庫や地方銀行などの地域金融機関は潰れる。私たちは警告を発した。それでも変わらないのなら、救う気はない。金融庁はそう言っているのである。

「信金や地銀など中小金融機関は、人口減少で融資や手数料収入は増えないうえ、金利の低下で利ざやも減り、しかも体力がないから新しいサービスも始められない『三重苦』に陥っています。将来を考えると、『死ね』と言われているに等しい」(SBI証券投資調査部シニアマーケットアナリスト・藤本誠之氏)

すでに地銀各行は他の地域の地銀と広域提携を結び、生き残りを図ってはいる。だが、衰退する地方経済で有望な投資先など簡単に見つけられるはずもなく、ジリ貧から抜け出せていない。

一つの地域に第一地銀、第二地銀をはじめ、信組・信金がある「オーバーバンキング」状態は、体力の低い金融機関から破綻を引き起こす。

メガバンクも危機的

そして、危機に瀕しているのは地方金融機関だけではない。むしろメガバンクのほうが危機的かもしれない。その大きな要因は日本銀行が今年2月に導入した「マイナス金利」だ。

元々、日銀はアベノミクスの「第一のエンジン」として、金融緩和で2%の物価上昇を達成し、経済を活性化させる役割を担っていた。しかし、目論見は大きく外れた。

日銀はマネタリーベース(資金供給量)をアベノミクス以前の約7倍となる404兆円まで膨らませたが、世の中には回らなかった。百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏が解説する。

「銀行は融資先を見つけられない、もしくは貸したとしても少ない利ざやしか取れないため、銀行は余った資金で国債を購入したり、それを日銀に預けたりして運用してきました。日銀と銀行の間で国債と預金をやりとりするだけで、市中に資金が出回らなかったんです。

これに業を煮やした日銀が、マイナス金利政策を導入することで日銀に銀行が資金を預ければ、逆にコストがかかるようにした。このため、メガバンクは大幅な減収減益に陥っている状況です。

背景にはメガバンクの図体が大きすぎることが挙げられます。

すでに民間から資金を集めて、成長産業に貸し出すといった、従来の銀行のビジネスモデルは成り立たなくなった。それなのに、高給で多くの銀行員を抱え、駅前の一等地にある支店の維持などのコストが大きい。

今の利ざやでは銀行経営は苦しい。現状の数の銀行が生き残るのは厳しいでしょう」

老人相手の手数料ビジネス

実際、マイナス金利はメガバンクの収益を直撃している。金融庁の調査ではマイナス金利の影響で、3メガバンク合計で少なくとも3000億円の減益になると試算している。

もちろん、このような状況下でメガバンクも必死だ。顧客から手数料を搾り取ることで生き残りを図ろうとしている。

たとえば、三井住友銀行は10月21日からATMで現金を引き出す場合、平日であっても1回につき、時間外手数料108円を徴収するようになる。自分のカネを自分の銀行口座から引き出すのに、(時間外)手数料を取るというわけだ。

「森金融庁長官は、『(ドラマの)半沢直樹になれ。企業を育てろ』、『銀行の利益ではなく、顧客の利益を考えろ』と銀行の尻を叩いています。顧客第一という姿勢に変わらないと、銀行は生き残れないという正論です。

ところが、実際の銀行は顧客に損を押しつけて儲けようとしている。

最近も、銀行が窓口販売している外貨建て生命保険について、銀行が高い手数料を取っていることが問題化しました。金融庁が銀行に手数料の開示を求めた結果、この低金利時代に約7%もの手数料を取っていることを渋々顧客に明かしました」(金融ジャーナリスト・浪川攻氏)

今も大学生の人気就職先ランキングトップ10に3メガバンクすべてが名を連ね(マイナビ調べ)、銀行員は花形職業と思われているが、実際には現場の銀行マンは日々の業務にうんざりしている。
メガバンクに勤める30代の中堅行員がこう愚痴をこぼす。

「銀行は投資信託や保険を売る『手数料ビジネス』にシフトしました。しかし、それも限界に近づいていると思います。
商品内容を理解していない老人にリスクの高い商品を強引に買わせた上に損をさせているのですから、当然ですよ。

私だって手数料が高く損をする商品など売りたくないのですが、支店にいたとき、一度上司に文句を言ったら、『嫌なら別の商品を売っても構わないが、売り上げ目標は必ず達成しろ』と言われました。

手数料の安い投資信託を売っていたら、ノルマに届かずこっぴどく叱られた経験があります。自分の将来を考えたら、今は嫌でも従うしかないと諦めていますが」

こうした現状に、自身も信金で金融の最前線に立ってきた城南信用金庫元理事長の吉原毅氏が提言する。

「元々銀行の仕事とは、お客様の夢を実現し、困っている人を助けること。この根源的な役割に立ち返るべきです。技術はあるが経営が苦しい人や、新しいアイデアがあっても起業の仕方がわからない人は大勢います。そういう人を助けるために何ができるかを、銀行員も徹底的に考える。

そうしてお客様が成果を出し、新たなビジネスが生まれれば、そこで初めて自分たちも利益を得られるという風に発想を転換するべきです。

そういう意味ではこれから最も苦しいのはメガバンクです。彼らの取引相手の中心は大企業ですが、大企業ほどすでに成長が終わっているからです。さらに成長しようとすれば、メガバンクもより大きなリスクを取らざるをえなくなる」

ところが、メガバンクは本業に立ち戻るどころか、新しい分野に進出し始めた。フィンテックだ。
これは金融(ファイナンス)とIT技術(テクノロジー)の融合を指す。

AIを使って、小口融資の需要を掘り起こす。ロボットに窓口業務を担わせる。海外送金を手軽に行えるようにする。独自の仮想通貨を発行する、といったことが実現可能だと言われている。

みずほ銀行はこの取り組みに一番熱心だ。ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」を銀行で初めて店頭に導入した。

さらに9月15日にはソフトバンクと合弁で消費者金融の新会社を設立することを発表した。融資を受けたい人の個人情報をAIが処理し、適切な貸出金利で融資をするのだという。

高給な銀行員はいらなくなる

新しい技術によって、顧客にもっと便利で手軽なサービスを提供し、収益の核にしたいとメガバンクは息巻くが、経営コンサルタントの加谷珪一氏は、「認識の甘さ」を指摘する。
「海外でフィンテックは銀行のビジネスを破壊する技術という認識です。

フィンテック企業は銀行を滅ぼそうと考えており、銀行側は彼らを飲み込まないと自分たちは殺されるという強い危機感を持っています。

ところが、日本ではフィンテックと言うと、資産運用へのアドバイスがこれまで以上に的確にできるとか、家計管理が楽になるといった金融サービスの利便性が高まることだと捉えられています。

銀行側の人間でさえ、フィンテックの進歩を歓迎し、提携しようとしている。実に楽観的です」
メガバンクが諸手を挙げて歓迎するフィンテックは、実は銀行にとって諸刃の剣だ。銀行の主要な業務の一つ、顧客の資産運用もAIに取って代わられるからだ。

『人工知能が金融を支配する日』の著者で、東京銀行やソニー銀行で勤務した経験もあるRPテック取締役の櫻井豊氏が解説する。

「金融の仕事のほとんどは数字を扱うものですが、人間にミスはつきもので色々なものを見落としますし、思い込みの余地も入ってしまいます。

しかし、人工知能にはそういったヒューマンエラーはなく、膨大な数字を瞬時に分析して統計的なパターンを読み取り、適切な解答を導き出します。金融業界は人工知能の活躍にうってつけの場なんです。

たとえば、どう資産運用をすればいいのかについて、人間では24時間チームを組んで働いたとしてもたどり着けないほど緻密な分析が可能となります。いくら優秀な銀行マンでも商品知識には偏りがありますからね」

つまり、従来の「銀行員」も「銀行とその機能」もAIの時代には必要なくなる。フィンテックは、メガバンクの行員にとっては悪夢になりかねない。メガバンクの海外事業担当の行員が話す。

「著名な投資家ウォーレン・バフェット氏の投資先として知られる米ウェルズ・ファーゴ銀行は、いち早くフィンテックを導入しました。その結果、同行の支店は日本の銀行とはまるで違うものになりました。

コンピューターが業務のほとんどを処理してしまうので、行員がやることと言えば、訪れた顧客にスマホの使い方を教えたり、融資の書類を処理したりする程度。このため、支店の広さは6畳間程度で、行員は2人ぐらいしかいません。不動産の賃料は安く済みますし、行員の人件費も安く抑えられ、多額の利益を叩き出しています。

ウェルズ・ファーゴ銀行の支店長の給料は日本円に換算して600万~700万円と聞いていますが、一方の日本のメガバンクの支店長の年収は2000万円ほどです」

メガバンクの経営陣にとっては人件費のカットにつながるが、一方で、これまでとまったく違った仕組み作りと維持・更新には莫大な費用がかかる。金融知識に加えてITに精通した新たな人材の確保も必要となる。

ただでさえ収益の悪化に苦しむメガバンクの経営を直撃するのは確実だ。

「食われていく」運命

加えて、システムのトラブルが発生したら、メガバンクがこれまで築いてきた顧客からの「信頼」という資産が一瞬にして崩壊しかねないリスクもはらんでいる。

「これまでの銀行の最大の強みは、顧客からの信頼の上で資金の流れを見られることでした。カード決済をどれくらい使っているか、家賃はどう払っているか、金融資産はいくらあるかといったデータを蓄積していた。

これは銀行が決済に使われているから得ていた情報で、こういったデータを元に金融商品の売り込みなどを行っていた。

ところが、フィンテックによって、資金の流れが銀行に見えなくなるという事態が起こります。すでに海外では銀行の口座ではなく、スマホを通じて給料を支払う仕組みができている。

グーグルやアマゾンが決済のやり取りのすべてを抱え込むようになれば、銀行はおカネの流れの外に置かれる。そうなると、銀行は『リアルなおカネを預ける金庫』という、さえない存在になってしまうのです。銀行がいらなくなる日は十分にリアリティがあります」(楽天証券経済研究所客員研究員・山崎元氏)

将来的には、銀行ではないところが銀行になる。その動きはすでに始まっている。前出の百年コンサルティング代表・鈴木氏が言う

「金融機関は数少ない融資先をフィンテック企業に奪われていきます。たとえば、飲食店はこれまで銀行のお得意様でした。ところが、フィンテックが会計アプリなどを提供して、飲食店の経営状況を把握するようになると、優良店を判断することができるようになります。

銀行だけでなく、フィンテック企業にも『おいしい顧客』、つまり資金需要があり、健全経営をしている会社の情報がわかるようになる。そこに融資を持ちかけ、銀行から顧客を奪うといった状況がすでに出てきています。銀行の利ざやはますます減るので、体力のないところからどんどん潰れていくでしょう」

メガバンクでさえ、このままでは3つも残らないだろう。金融業界のドラスティックな再編はもう間近だ。

現在、顧客の預金が保護されるのは1行1000万円まで。虎の子資産を逃がす先を、一刻も早く考えたほうがいい。

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