「政争?」

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北朝鮮へ核物質輸出疑惑の中国女性社長の正体 
習主席と李首相の「権力闘争」の影ちらつく

北朝鮮に核物質原料を輸出したとして、中国の国境都市、丹東の鴻祥実業発展有限公司のオーナー、馬暁紅社長(43歳)が中国当局に拘束され、重大経済犯罪容疑で取り調べを受けている。

この事件では、関連していた現地の共産党幹部が更迭され、北朝鮮側の関係者も本国に送還、粛清されたと伝えられるなど、中朝貿易関係者に大きな影響を与えている。一代で北朝鮮と太いパイプを築いた馬とはどんな人物で、背後には誰がいたのか。

「小柄で、恥ずかしがりだった。やり手という印象ではなかった」。彼女と昨年10月に直接会ったことのある日本人は、馬の印象をこう語る。昨年10月に丹東で開かれた「第4回中朝博覧会」に、鴻祥グループがブースを出しており、この日本人は中に入って、偶然、馬と出会ったという。

ブースには北朝鮮のものらしき鉱石の見本が展示してあったほか、中国と北朝鮮をつなぐ船便の宣伝もしていた。これは、同社の系列会社、金海航運合資有限公司の定期貨物便で、中国山東省の龍口と北朝鮮の南浦をつないでいた。どうやらこの船便が、北朝鮮制裁の抜け穴として利用されていたようだ。

鴻祥と同じように、北朝鮮と危険なビジネスをしている企業は、丹東だけで少なくとも15社ほどあるとされ、捜査を逃れるため、会社を閉鎖するところも出ている。

鴻祥と北朝鮮との関係は、多くの人がうすうす知っていたという。同社は、丹東に出先事務所がある朝鮮光鮮銀行を通じて、北朝鮮本国と大規模な貿易をしていたが、秘密里に行っていたため、米国の司法当局が指摘するまで、詳しい内容は現地の人でも分からなかった。

鴻祥が出版していた同社のPR雑誌や現地に人の話によると、馬は高校生の時、人気ドラマ「公関小姐」が好きだった。上海を舞台にしたそのドラマは、センスのいいオフィスで働く女性たちが描かれていた。「いつか自分も、あんなオフィスで働きたい」と夢を膨らませたという。

鴻祥実業は1990年代後半に馬の夫の母親が始めた小さな貿易会社だったが、2000年に行われた韓国と北朝鮮の首脳会談によって、南北間の貿易が拡大。この波に乗って事業を展開した。ショッピングモールの店員だった馬が、2001年に社長に納まった。 

まず、中国・瀋陽にある北朝鮮資本の七宝山ホテルの大規模リフォーム事業に投資した。中朝の合弁で北朝鮮のビジネスマンが中国に出張する際、必ず使う北朝鮮の拠点ホテルとして知られている。私も宿泊したことがある。前は薄暗い印象だったが、リフォーム後は、内装が飛躍的に豪華になった。北朝鮮側が馬に頼み込んで実現したという。

ここには北朝鮮の「121局」と呼ばれるハッカー部隊があり、韓国に対するサイバー攻撃をしているとも指摘されている。

貿易だけでなく中国国内の北朝鮮レストランも経営し、北ビジネスにのめり込んでいく。

貿易統計を調べた韓国のシンクタンクによれば、鴻祥実業は、2011年から2015年までの5年間に、対北輸出で約3億6000万ドル、輸入で約1億7千100万ドルの取引を行っていた。特に対北輸出は、同社が行っている輸出業務の99%を占めており、事実上北朝鮮専門輸出会社だった。

取引品目の中には、ウラン濃縮用遠心分離機の製造に転用可能な酸化アルミニウムなどの金属が含まれていたという。米国の司法当局もこの数字に気づき、最近、中国側に捜査を申し入れていた。

事業を拡大する一方で馬は、2010年9月からは、香港科学技術大学で、英語の授業を受けるMBA課程に入り、16カ月の課程を終え、経営学を身につけた。

北朝鮮のナンバー2だった張成沢とも関係を築いたとされるが、2013年に張が処刑された後も、事業は順調で、「北朝鮮軍などと太いパイプがあるようだ」と見る人もいる。馬は、自分が鴻祥グループのトップになってから、わずか15年で系列会社6社、従業員約600人の中堅企業に育て上げた。

「長期間、大規模に北朝鮮と取り引きできたのは、バックに中国の有力な政治家がいたため」(現地貿易商)とされる。丹東市の孫兆林・共産党委書記が9月24日突然解職され、大連医科大学の党委員会書記に更迭されたが、鴻祥事件に関与した可能性が噂されている。

それにしても不思議なのは、中国が米国からの申し入れを素直に聞き入れて、馬を徹底捜査していることだ。中国は、米国からの干渉を毛嫌いする。

そこで思い浮かぶのが遼寧省の特殊性だ。同省は、李克強首相がかつて省のトップを務めており、権力基盤の1つである。

遼寧省では最近、国会議員に当たる全国人民代表選出の際に金銭授受などの不正をしたとして、人民代表大会(省議会)の省代表454人(省議員)が、異例の資格停止となった。2013年に遼寧省人民代表会の代議員に選出された馬も、その中に含まれていた。

李氏は経済政策などをめぐり、最高権力者の習近平・国家主席と対立しているとされる。このため当局による、馬への迅速な捜査は、「形を変えた中国内の権力闘争ではないか」との分析も浮上している。

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