「接待」

画像の説明 7月28日午後2時過ぎ、韓国を代表する通信社、聯合ニュースが8本立て続けに速報を流した。

同日発足した従軍慰安婦を支援する財団のニュースではない。「韓国の接待文化を変える台風」(朝鮮日報)が晴れて認められた日になったからだ。

接待。洋の東西を問わず、美味しい食事や酒、季節ごとの贈り物、ゴルフなどのもてなしは、企業の経済活動の助けとなり、社会の潤滑油として機能してきた。日本でも、公務員の職務に関係したり、接待の内容が違法なものだったりしない限り、その限度は社会のモラルに任されてきた。

だが、韓国では9月28日から接待文化を法律で縛る試みがスタートする。「不正請託及び金品授受の禁止関係法」が施行されるのだ。韓国では、この法律を推進した国民権益委員会の当時の委員長の名前を取って「金英蘭(キム・ヨン・ラン)法」とも呼ばれている。聯合ニュースの速報は、7月28日に韓国憲法裁判所が同法に合憲判断を下した結果を流したものだった。

同法の対象になるのは公務員や記者、私立学校職員らとその配偶者。韓国メディアによれば、これだけで全人口の1割近い400万人が対象になる。彼らを違法接待した一般人も処罰される。

1回100万ウォン(約9万円)か年間300万ウォンを超える金品を、本人か配偶者が受け取ると、職務や対価に関係なく刑事処罰の対象になる。食事は3万ウォン、贈り物は5万ウォン、慶弔費は10万ウォンがそれぞれ、許される上限になる。では、本当に韓国の社会は変わるのだろうか。

ソウルの官庁街にあたる光化門(クァン・ファ・ムン)や司法機関が集まる瑞草洞(ソ・チョ・ドン)には様々な飲食店がひしめいている。

韓国経済研究院が今年5月に発表した資料によれば、2015年に接待と思われる支出額は、飲食店で30.32兆ウォン、ゴルフ場が2.36兆ウォン、贈り物が11兆ウォンに上ったという。

これがどの程度の接待なのか。

同研究院の調べでは、1人あたりの平均飲食費は、韓国料理店4万3,900ウォン、日本料理店6万9,000ウォン、中国料理店3万3,000ウォンなど。ゴルフの場合、ラウンド1回あたりが30万ウォン前後になるという。

このため、法律が施行されると、飲食業界が年間8兆5,000億ウォン、ゴルフ業界が同1兆1千億ウォン、贈り物業界が同2兆ウォンの損失を被るという。早速、業界では法律を批判する動きが出る一方、「ステーキをやめてハンバーグにして、29,000ウォンのランチを」「牛肉に缶詰も混ぜて49,000ウォンの贈り物」などをアピールする動きが出てきたという。

ただ、そうまでしなければいけないほど、韓国社会には腐敗の慣習が根深く残っているともいえる。

韓国では記者が身銭を切ることはない––

国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が毎年公表している腐敗認識指数(公務員と政治家がどの程度腐敗しているかの認識の度合いを示す数値)によれば、2015年の韓国は世界168カ国中の同率37位(日本は同率18位、中国は同率83位、北朝鮮は同率最下位)だった。一見、それほど悪くない数字だが、経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国に限って言えば27位という低い数字だ。

最近では、陳ギョンジュン検事長(49)が7月、収賄の疑いで逮捕された。韓国で現職の検事長が逮捕されるのは初めて。陳氏は2005年、大手オンラインゲームの創業者から4億2,500万ウォンを受け取って同社の非上場株式1万株を取得。06年に10億ウォンで売却した容疑のほか、高級乗用車を受け取った疑いも持たれている。

長らく政治的な影響力を維持してきた韓国検察では、幹部には「スポンサー」と呼ばれる経済的支援者がついているとされてきた。

また、今回の法律にはメディア関係者や私立学校の職員も対象になっている。日本では考えにくいが、韓国の記者が取材活動を兼ねた会食をする場合、身銭を切るケースはまずない。ほぼ全てにわたって公務員や企業がカネを払っている。海外の視察などに、記者を無料で招待するケースもあるという。

韓国政府関係者の1人は「文化の違い。カネを出して良く書いてもらおうという雰囲気が役所や企業に根強く残っている」と語る。元国会議員補佐官は「いつも記者から、酒を飲みに行こうと誘われた。もちろん、こっちで全部支払った。疲れていても記事が気になって断れなかった」と話す。

同じように、学歴社会の韓国では、少しでも良い成績、少しでも良い高校・大学への進学を願う父母から教育関係者への付け届けが絶えない。同研究院の資料によれば、父母の「寸志」は年間1,706億ウォンにのぼるという。

外交官だって笑っていられない。各国の外交官は政治家や韓国政府関係者に接近するため、よく贈り物をする。昔はオールドパーが有名だったが、今では日本の山崎など高級な洋酒もよく使われるという話を聞いたことがある。

韓国憲法裁判所は7月28日、新法が腐敗防止に必要だと指摘。「メディアや教育は社会に与える影響が大きい」として、対象者の範囲も問題がないとし、弁護士会や記者協会による違憲訴訟を退けた。

どのくらいの接待なら許されるのか、それぞれのモラルに任せるのが欧米や日本のやり方。しかし、韓国の場合、このくらいの荒療治が必要なのかもしれない。

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