「不動産?」

画像の説明 中国語で「地王」という言葉がある。日本語にすれば「不動産王」とでも言うべきだろうが、日本における「不動産王」とは意味合いが多少異なる。

単に多くの不動産を保有しているというわけではなく、その地域で最も高い価格で土地を売買する人または企業に、「不動産王」(地王)というあまり名誉ではない呼称を与えるのだ。

例えばこれまで上海楊浦区では、標準的な立地での土地取引は1平方メートル当たり5万2840元だった。それが最近、同10万元で取引されている。

これまでの2倍近くになっているというわけだ。この価格では実際、ビルを建て、最終的に売り出す価格は、最低でも同9万2506元、平均にしても同12万元ではないかと言われている。ちなみに、上海のど真ん中で日系企業で働く人の手取り月給は40歳前後で1万元そこそこである。

こうした現象は、実業にあまり魅力ある投資先がなく、資本がどんどん不動産市場に流入している結果と思われる。

「謎めいた」不動産開発会社

今年5月、ある「謎めいた」不動産開発会社が123億元というケタ違いの価格で、杭州の土地を手に入れた。その価格があまりにも高すぎたため、同社とともに土地を購入した企業はその場で同社との協力を解消した。

翌6月、さらにこの不動産会社は上海で宝山区顧村地区の土地を58億元で購入した。土地の予想価格から見て、割増率は303%という驚くべき数字である。

結局、2015年7月から2016年6月までの1年足らずで、この不動産開発会社は4つの大都市で6ヵ所の土地を落札し、トータルで352億元をつぎ込んだ。2015年の同社の通年の営業収益は81億3600万元にすぎなかったため、この新たな「地王」の登場は、世間を大いに驚嘆させた。

その企業の名は、信達地産という。中国財政部を大株主とする中央企業(中央政府が監督管理する国有企業)だが、これまで不動産開発会社としてはあまり知られていなかった。

しかし、現在の中国経済の「デリケートなポイント」といえる資産価格の膨張と実体経済の衰退の同時進行という状況の中で、中国財政部の直属企業という「特別な身分」もあいまって、現在の不動産市場と資本市場で「最も勢いのあるプレーヤー」とみられている存在である。

伏兵であった信達地産について、現在人々の注目を集めているのは、この「地王」の背後には誰がいるのか、どこから多額の資金を調達したのか、そしてここ1年の「戦争のような土地の囲い込み」は、住宅市場と経済にどのようなメッセージを発しているのか、といった3つの問題である。

「地王」は一体何者か?

前述の通り、信達地産は中国財政部を大株主とする上場企業である。

信達地産は2009年に信達投資有限公司が青鳥天橋というソフトウェア企業を買収して設立したA株市場上場企業
(600657.SH)で、再編後、信達地産は信達資産の不動産業務発展のための企業となった。

信達投資有限公司の株式は、中国信達資産管理株式有限公司が100%を持つ。そして中国信達資産管理株式有限公司(以下、中国信達と略す)の大株主は財政部で、67.84%の株式を握っている。

1999年、中国にあまねく存在する銀行の不良債権問題を解決するために、国務院は、東方、華融、長城、中国信達といった四大資産管理会社を設立した。

中国信達は不良資産処理のために設立されたが、現在も中央企業の資金面及び政策面での強みを生かして、不動産産業にも参入し、2016年には不動産産業の「新たな主役」となった。

そのため、信達地産は財政部の上場企業であることから、上記のような動向は「理不尽なことではない」と言う人もいる。

とはいえ、たとえば安邦保険集団が自らの経営状態を顧みずに海外で大規模な買収を行ったことに、世界は大いに疑いを抱いた。

同じように、信達地産の1年の収入は数十億元にすぎず、100億以上の価格の競売に参加できるレベルではなかった。

信達地産の年度報告書によると、2012~2014年度おける同社の営業収益はそれぞれ40億1000万元、44億5000万元、48億5000万元で、2015年度の営業収益は著しく増えたものの、それでも81億元にすぎず、同年末時点での現金残高は59億2000万元だった。にもかかわらず今年5月、信達地産は杭州で123億1800万元もの土地を購入しているのである。

信達地産の高額の土地購入の資金源の謎を解くカギは、巨大な債務にある。

克而瑞研究所が6月に公表した「信達はもともと土地購入の能力を備えている」と題した報告書は次のように指摘している。

「信達地産は、通常の銀行貸出、株式の担保、株券の増発などの手段のほかに、同社の「『土地の囲い込み』を支援する親会社の中国信達による基金を通じての『輸血』によって資金を得ている」。

財政部所属企業の土地買い漁りが示すシグナルとは?

また、「信達地産は、莫大な金融資産を有する親会社をバックに、債務を急激に増やして迅速に資金を得ている。

ある不動産企業の経理担当者は、全般的に金融緩和政策が打ち出されている中で、中央企業の信達地産にとって、融資は問題にならない。融資コストが低く、その拡大は資金的制約を何ら受けることはない」とも指摘する。

これは明らかに冒険であるが、社会全体が「資産不足」となっている状況にあっては、資金を中心都市の土地に投ずるのはやや勝算のある冒険といえよう。

ただし、こうした行為は、当然のことながら企業の負債率を引き上げる。2015年度の信達地産の債務総額は前年同期比70.45%増の305億1000万元だった。2016年3月の同社の純負債率は83.96%に達し、警戒ラインである70%を超えた。

財政部所属企業の土地買い漁りが示すシグナルとは?

それでは、財政部直属の不動産企業がこのように都市部の土地を高額で買い漁ることは、何を意味しているのかを考えてみたい。

こうした行為が示す1つ目のシグナルは「一線都市の中心的地価と住宅価格は上昇を続ける」ということである。

中国は政治・経済などにおける重要度によって都市を4段階に格付けしているが、信達地産による数度の土地購入は主に「一線都市」に集中している。だが実は、同社はもともと一線都市以外での土地購入を考えていた。

2015年の第3四半期までに、信達地産の不動産備蓄は計506億9300万平方メートルに達した。その内訳をみると、上海や広州など一線都市は15%にすぎず、二線都市が47%と最も多いものの、長春、瀋陽、海口、ウルムチなど経済パフォーマンスが好ましくない都市が少なくなかった。三線都市、四線都市は38%であった。

注目すべきは、信達地産が2015年後半より突然方向転換して、獲物に食らいつく狼のごとく上海、深セン、杭州の土地、さらに数日前に公表された長江デルタ都市群計画の中で述べられていた新一線都市である合肥の土地も購入したことである。

優良な土地資源はリスクヘッジに最適

中国の地域発展のばらつき傾向が強まるにつれ、資金、人材や政策資源は一線都市および二線都市に集まり、これらの都市がさらに発展する可能性は極めて高い。例えば、上海と深センは、面積は広くないが経済が発達しており、需要も旺盛で、かなりの確率で地価上昇が起こる。

ある政府関係者の言うように、現在不動産企業が上海で必死に土地を買っているのは、今買わなかったら、将来購入資金があったとしても買えなくなるからだ。

中央企業は、中国の経済政策の決定にとって欠かせない存在であるため、信達地産の一連の動きから考えると、向こう数年の一線都市の地価、住宅価格が上がり続けることは容易に想像できる。

優良な土地資源はリスクヘッジに最適

2つ目のシグナルは「人民元安が加速し、リスクヘッジのための資金獲得が急務となった」ということだ。

業界関係者は、信達地産の土地購入価格は業界の常識から外れた高価格であり、一部の土地は「どう計算しても利益が得られない」と分析している。

克而瑞研究所の報告書は、この背景には深い理由があると分析している。

中央所属の大手金融企業である中国信達の本業による利益率は、不動産から得られるそれよりも大きい。というのも、信達地産自体の不動産開発能力にはやや欠陥があり、2014年度の同社の純利益は7億6000万元で、純利益率は15.7%であった。利益率はまずまずだが、利益自体は非常に小さい。

それに比べ、中国信達の2014年度の純利益は124億4000万元で、純利益率は20.3%であった。同社は利益自体も大きく利益獲得能力も高いことから、中国信達は本来、不動産業務を全力で発展させる必要はなかった。

そのため、「現在の経済と市場の状況の下で、中国信達が最も必要としているのは、実は資産配分である」とみるのが合理的な分析だろう。

2015年7月より、オフショア人民元レートが下がり続け、インフレの影響も加わって、人民元安に拍車がかかったため、資産配分の合理化によって為替リスクを回避することを企業が考えるようになった。

世論の怒りを買う

国内四大資産管理会社の一つである中国信達は、典型的な「金満」企業で、資産分配に当たって大量の資金を投入できる産業を探す必要があった。中国信達にとって、不動産産業は最も良い選択であったというわけだ。

「資産不足」がますます深刻化する中で、優良な土地資源はリスクヘッジに最適であった。また、一線都市の中心地は値上がりの可能性を秘めていたことから、中国信達も不動産への投資がよいということをよく分かっていた。

世論の怒りを買う

しかし、信達地産が、合肥、深セン、杭州、上海といった都市部で土地を奪取していることについて、国営通信会社の新華社は6月12日、地価バブルを煽るものとして名指しで批判した。

さらに、6月14日付の『澎湃ニュース』の報道によると、国務院国有資産監督管理委員会など監督管理機関は中央企業の開発業者に対する業務改善指導を始め、土地市場において価格の値上がりを追求する土地購入をやめるよう求めた。

業務改善指導後、中央企業の土地購入の勢いが落ちた。13日、杭州の土地取引の割増率は37.34%にすぎず、多くの二線都市の上半期の平均割増率である100%よりも低い数字となった。

『澎湃ニュース』はある民営企業の責任者の話を伝えている。それによると、「最近、土地市場で価格の高い土地が多く出てきているため、世論からの圧力が大きくなっている」。これが業務改善指導を受けた理由であると中央企業の投資部の担当者が以前、非公式に語ったことがあるという。

ネットの反応をみると、高い住宅価格に苦しむ人々は、信達地産のような中央企業が狂ったように土地を買い漁ることに大きな不満を持っていることがわかる。

中国最大の不動産仲介機関である中原地産の統計によると、2016年以来、最高価格(総額に基づいて計算)の50の「地王」の購入者のうち国有企業の割合は、過去最高であった。50の「地王」の取引高は計2013億2900万元で、そのうち27の「地王」が国有企業であり、取引高は計1094億9000万元に達し、全体の54%を占めた。

世論の圧力が「地王」の土地購入の動きにどう影響するか。しばらくは目が離せない。

コメント


認証コード4266

コメントは管理者の承認後に表示されます。