「営業戦略」

画像の説明 使う人にとっては必需品だが、使わない人にはまったく縁がない。

そんな季節商品ながら、すでに世界でシェアを獲得している商品もある。それは使い捨てカイロだ。

国内市場には様々なメーカーが参入しているが、シェアトップは桐灰化学である。その現状について、マーティング部部長・戸張元宏氏に聞いた。

「国内シェアは全国平均で28%程度ですが、他社さんの数が多いので、これでもシェアNo.1なんですね。10年以上はこの数字を保っています」

同社にとって、使い捨てカイロは売上の70%を占める重要な商品。さらに通常の防寒用カイロだけでなく、派生商品として肩こりをほぐすためのカイロや、カイロを使ってお尻を温める温座ぶとんなど様々なバリエーションを展開している。

興味深いのは、東西でシェアに大きな偏りがあり、関西で圧勝、関東では苦戦している点だ。

「弊社は広島で生まれた企業で、後に大阪へ移動しました。大阪以西を中心にビジネスを展開していたこともあり、西高東低の状況が生まれたようです。たとえば主力製品のカイロ『はる』などは、関東と関西では認知度がまったく違います。

関西圏では60%を超えるシェアを持っているのですが、関東以北では10%前後です。『桐灰はる』は商標にもなっていまして、これだけシンプルな言葉が登録できるというのは、それだけ知名度が高いと認められたということなのですが」

◆価格競争より品質で勝負したい

トップシェア企業であっても地域差は大きな障壁。ホームグラウンドで確立したブランドイメージが、アウェーでなかなか浸透しないというのは、他業界にも通じる悩みだろう。

「まずは販路を充実させたいところですが、販売店さんによっては他メーカーを扱った方が売上が見込めると考えているようですね。これは単価が若干ながら高いことも関係していると思います。あくまでたとえですが、価格が100円高くなる分のメリットを認識してもらっていない状態と言えるのではないでしょうか。ただ、弊社としては、品質には絶対の自信がありますので、価格競争は得策ではなく、重要なのは品質の良さを浸透させることだと考えています。それをどうやって達成するのかが課題ですね。現状、流通の皆さんをお招きした展示会などでは、マイナス気温下においたカイロのあたたかさを比較してもらい、弊社カイロの品質の良さを実感してもらうことを地道にやっています

それにしても、使い捨てカイロのシェアの違いはどこからくるのか。桐灰化学の『はる』は競合製品より若干高値。使い捨てカイロの形状はシンプルなこともあり、メーカーごとの差を感じにくいのではないだろうか?

「いえいえ、カイロの根本的な機能性にお客様は敏感だと思いますよ。弊社の製品は『表示している時間の最後までしっかり温度が保たれる』というのをウリにしており、一般的な品質基準以上の高い基準を設けています。弊社の『はる』であれば14時間、『ニューハンドウォーマー』であれば24時間、さまざまな状況下においても持続することをお約束していますので、極めて厳しい基準だと思いますね。これは桐灰化学の最も強いこだわりどころかもしれません。その成果は、お客様から『朝使い始めたのに、夜に寝て起きたときにもまだ温かい』 という評価にあらわれていると思います」

では、その持続時間はどこからくるものなのか?

「これは開発のキモなので詳しくは言えないのですけれども、鉄粉の品質からして、相当に選び抜いています。また、水分保持、空気の取り込み量などの加減に、カイロ独特の処方みたいなものがあるんです。そのあたりの調整に、開発陣は命をかけている部分がありますね」

◆北米で10年、そして中国へ

こうした品質を武器に、海外市場へと進出。海外展開については小林製薬が担当している(以下、小林製薬広報担当者によるコメント)。

「海外では寒い時にカイロを持ち歩く習慣が一般的な光景ではないんですね。そこで、日本発の商品として、認知度を高めていっている状態です」

ここでも地域差、特に海外では習慣の違いが障壁となっている。とはいえ、北米と中国では、すでにトップシェアを獲得(小林製薬推計)。特に売上が大きいのは北米だ。

「弊社がカイロ『Cura-Heat』を販売開始したのが2002年ですが、このカイロは身体の痛い場所を温めるためのヘルスケア用途でした。海外ではこうしたヘルスケア用途もそれなりのマーケットがあるためです。2006年に防寒用カイロのトップメーカーであったヒートマックス社をM&Aし、防寒用カイロ『HOT HANDS』の販売を始めました。ここから一気にシェアが拡大し、それから約10年かけて浸透させていきましたね。現在はウォルマートやウォルグリーンといった大手量販の多くで取り扱いがあり。北米でのシェアは70%程度と見ています(小林製薬推計)」

ただし、北米は、カイロ市場が形成されているものの、使用シーンはスポーツ観戦やハンティングなどのレジャーシーンが主流。防寒用とは一般的ではないという。

「米国はクルマ社会でドアtoドアでの移動が日常化していますから、生活の中で防寒用カイロを使う必然性が薄いんですね。ただ生活様式も多様なので、まだまだマーケットは眠っているはず。より日常的に使用してもらえるように、スーパーのレジ前やエンド展開などをして、お客様とのタッチポイントを増やしている状況です」

◆ゼロから始めてシェア3割となった中国

まずは認知度の獲得。これは基本ではあるが、中国展開では大きな効果を上げている。

「一部量販店のPOSデータからの推測ですが3割強、おそらくはトップシェアです。弊社が中国に進出した2000年ごろは、使い捨てカイロはほとんど普及しておらず、高級な輸入品としてごくわずか取り扱われている状況でした。そこで、2003年に使い捨てカイロ『暖宝宝』を発売すると共に、店頭でのデモンストレーションやTVCMを流すことで知名度獲得に務めました。おかげで沿岸部では認知度90%(小林製薬POS調べ)というデータもあります」

アウェーの地域でシェアを獲得するために、長期的な視点で普及活動にとりくめる。腰を据えた戦略の重要性が見て取れる。

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