「そうだ・・逃げよう」

　やってられないね　　　　韓国の統一省が８日、北朝鮮国外で食堂を運営していた北朝鮮出身の支配人の男性と従業員女性１２人の計１３人が韓国に亡命したと発表したが、従業員の女性たちは本国でも身分の高い家庭に育っており、亡命しないよう厳しい思想教育を受けてきたエリート層の人たちだった。北朝鮮内で、金正恩体制に対する不満が高まっていることを示している。

関係者への取材によると、１３人は、中国・吉林省延吉市にある「千年白雪食堂」という北朝鮮食堂の関係者全員だ。その後、中国浙江省寧波にある中国資本との合弁の「柳京食堂」に移ったが、13人の亡命後にこの食堂は廃業している。核実験などを受けた国際社会による対北朝鮮制裁の影響で両店とも経営不振に陥った。

本国から求められている上納金の要求に応えられず、韓国への憧れもあって、脱北を決めたという。本国からの処分への恐れもあったに違いない。監視役も含めた食堂の全員が韓国に来た例は、多分初めてだろう。

韓国政府によれば、北朝鮮は合法的な外貨稼ぎとして、中国やカンボジアなど１２カ国に１３０カ所の食堂を運営している。そこでは、監督役の支配人をはじめ、北朝鮮から派遣された女性たちが、ウェイトレス兼歌手として務めている。１カ所には２０人程度が働いている。

私は中国で北朝鮮食堂を何回も訪ね、女性たちから話を聞いている。北朝鮮の人たちと直接接することができる数少ない場所だからだ。

彼女たちは現地の北朝鮮大使館内に寝泊まりして、集団生活をしている。休日も２人以上で行動し、お互いを監視しあっている。パスポートは支配人が一括管理しており、逃げ出せない仕組みだ。

通常勤務は最長４年だが、本国にいるよりも自由なため、勤務延長を申し出る女性が多い。女性たちは、厳しい面接を受けて選ばれる。容姿だけでなく、親が朝鮮労働党に勤務するなど家庭環境も重視される。オリンピックの元国家代表選手や、音楽大学を卒業し、複数の楽器を演奏できる人もいる。才能あふれた人材を惜しみなく送り込んで、外貨稼ぎをさせているのだ。

最近、北朝鮮食堂関係者にインタビューした対北朝鮮ラジオ放送のＶＯＡ（米国の声放送）によれば、店の売り上げは月平均２千ドル（約２０万円）前後で、年間では２０万ドルだという。基本は食事代だが、店内に並べている北朝鮮の酒や蜂蜜、栄養剤などの売り上げもある。
　
従業員はただ働きに近い。ＶＯＡによれば１５ドル（約１５００円）程度の月給、帰国時には慰労金として２千ドルと、貴重品であるテレビや冷蔵庫、洗濯機が与えられる。帰国後には、これらの「嫁入り道具」を持って、本国の将来のある男性と結婚するのが通常のコースだという。

北朝鮮食堂の上客は、何といっても韓国人観光客だ。

韓国では国家保安法という法律によって、北朝鮮人との接触を禁じている。北朝鮮のスパイ活動を警戒してのことだが、例外的に北朝鮮食堂に行くことは黙認されていた。

韓国人観光客は、外国でひたむきに働く北朝鮮の女性たちに感激し、かなりな額の現金を花束の中に隠して渡していた。これも店の売り上げとして吸い上げられる。韓国の外交官も、こっそり訪ねては、北朝鮮の実情を従業員から聞き出していた。私は何回も、そんな現場を目撃している。

逆に、従業員たちは韓国人客の会話に耳をそばだて、営業が終わった深夜に、全員がその日聞いた話を「反省文」と称する報告書にまとめ本国に送っていた。韓国人の北朝鮮に対する意識や、韓国企業のビジネス動向を探るためだ。要するにお互いが「スパイ活動」を行っているのだ。

韓国政府は、最近の北朝鮮の一連の挑発への独自制裁として北朝鮮食堂の利用を控えるように国民に呼びかけた。食堂が外貨収入の手段としてかなり機能しており、売り上げが核開発などに使われている可能性があるためだ。

この制裁措置によってどの北朝鮮食堂も客が激減した。特に店のテナント料が比較的高い中国では、廃業に追い込まれている店が続出している。最近現地を訪問した人によれば、北朝鮮に面した中国東北部の丹東では１５店中３店が閉店し、営業中の店も連日がらがらだという。

これまで韓国政府は、集団脱北について、北朝鮮を刺激しないため時間をおいて公表するか、公表を控えてきた。韓国では１３日に総選挙が行われる予定で、与党の苦戦が伝えられている。このため、朴槿恵大統領の北朝鮮政策の成果をアピールするため、今回の脱北を突然発表したとの見方もある。北朝鮮は来月上旬に３６年ぶりとなる党大会を開き、体制の安定を内外にアピールする予定だったが、集団脱北で面目は丸つぶれになった。

今後激しく反発し、挑発を強めるかも知れない。

韓国政府の意図はどうあれ、今回の集団脱北は、外部に向かっては挑発行動を続け、住民生活を顧みない金正恩体制への絶望感の表れだろう。第２、第３の集団脱北が起きるのは間違いない。　

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