「勝ち組ではない」

画像の説明 医学部人気が続いている。

医師は不況に強く、高収入のイメージが定着しているようだが、現役医師からは「そんなに甘くない」との声も。

少子化が進み「大学全入」時代といわれるが、医学部はなお狭き門。2016年度入試の定員は、国公立大学が5778人、私立が3484人の計9262人。東北医科薬科大学の新設などで、前年度より100人余り増えるが、難関であることに変わりない。

医師になるためのコストは、入り口で大きく分かれる。国公立と私立の学費に、天と地ほどの開きがあるからだ。

6年間の費用総額は、国公立が350万円程度なのに対し、私立は2千万円超が当たり前、4千万円を超える大学もある。とても一般の家庭に支払える額とは思えないが、東京大学医科学研究所の上昌広特任教授によると、私大医学部への進学者は「多くが開業医の子弟で、親から設備や顧客を引き継ぐため、十分ペイすると考えられる」という。

そもそも医学部に進学するためには、相応の学力を身につけるための投資も必要だ。大手予備校の講師によると、

「もともと学力の高い生徒であれば、特待生として学費が免除されるケースもあります。医学部専門予備校を選べば、個々の事情に応じて指導してもらえますが、学費は跳ね上がります」

それでも医学部を目指すのは、その先に「勝ち組」の人生が待っているからなのか──。だが、現実は必ずしもバラ色とはいえないようだ。

首都圏の診療所副院長を務める医師(40)によると、医師として一人前になるには、研修医の期間を含め、医師免許取得からおよそ10年かかるという。研修医時代の給与は、当直代などを除けば、手取り月20万〜30万円が相場のうえ、原則としてアルバイト禁止の研修先も多い。

「大学の医局や一般病院で勤務医として経験を積みながら、認定医や専門医、博士号などの資格を取る。その後は医局に残る、一般病院へ転職する、開業するなど、各自キャリアを選択していきます。勤務医の給与は、手取り30万〜40万円程度から始まるのが一般的です」

医師の仕事には当直があり、「9時5時」勤務とは程遠い環境だ。

1日の平均勤務時間は、8割超が8時間以上、3割超が10時間以上となっている。

年収調査では、医師の8割以上が1千万円超。高収入だが、当の医師たちからは不満の声も相次いだ。

「忙しすぎる。賃金が安い」(産婦人科・勤務医・40代男性・1300万〜1600万円)

「給料も低いし、休みも有休もなしです」(小児科・勤務医・40代男性・600万〜800万円)

「時間外手当が出ないので、十数歳年下の看護師より給料が低い」(整形外科・スポーツ医学・勤務医・30代女性・800万〜1千万円)

こうした医師の不満の背景には、勤務時間の長さ、人の命を扱う責務や緊張感、訴訟リスクなどがありそうだ。

常勤先により、ベースの収入に大きな差が出るという現状もある。大学病院の医局や有名な病院は、症例が多く効率的に学べ、人気がある半面、給与がさほど高くないのが一般的だ。

医局に残って教授を目指す場合を除き、一定の経験を積んだ後は、よりよい条件の病院へ転院していく医師が多いという。

「医師の満足度の分岐点は年収1500万円といわれています。1千万円未満の所得は、大学病院所属者が多いようです。技量や経験に収入が比例しないため、不満もたまりやすいのではないでしょうか」

「国公立の病院の場合、公務員に準じる扱いなのでアルバイトもできない。教授などの管理職になっても、年収は1千万円を超えません。名誉と収入が一致しない、珍しい職業です」(前出の診療所副院長)

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