「通貨安戦争勃発」

画像の説明 急速な円高・株安が逆巻く怒涛のごとく日本経済を襲ってきた――。

昨年12月1日の日経平均株価は2万円台をクリアし2万0012円、同3日の東京外国為替市場は1ドル=123円の円安だった。「株価が政権の命綱」である安倍晋三政権は、この円安・株高を背景にデフレ脱却も間もないと豪語したものだ。

それからわずか2ヵ月と10日後。2月10日の日経平均株価は1万5713円に暴落し、同11日のニューヨーク外国為替市場は対ドルの円相場が1ドル=112円に急伸した。ロンドン外国為替市場では一時、1ドル=110円台まで急騰した。

この円高は日本経済、とくに輸出関連企業を直撃する。例えば、世界一の売り上げを誇るトヨタ自動車は通期決算では1ドル=120円を想定しており、対米輸出で多大な損失を被る。同社の場合、1円の円高で営業利益が年間で400億円減るとされる。

これまで安倍政権は経済界に対して賃上げと設備投資を強く促してきた。だが、輸出関連企業の業績が厳しい局面を迎えれば、賃上げに前向きな姿勢を示していた榊原定征経団連会長も二の足を踏むことになり、賃上げの動きにとって逆風となる。

原油価格の下落にも歯止めがかからない。開発コストが25ドル/バレル、操業コストは12ドル/バレルとされる原油価格が今や30ドルを大きく割り込み、回復の兆しが見えない。そうした中、米国などが対イラン経済制裁解除を決めたことから、イランは現在、25ドル/バレルで原油輸出契約を交わして輸出解禁に備えている。

加えて、一触即発状態にあるサウジアラビアとイランは、イスラム教スンニ派とシーア派の教義対立が根深く、先行き不透明な中東情勢は原油価格にも影響する。

世界的な景気後退の引き金となったのは、改めて指摘するまでもなく、中国経済の減速だった。1月19日発表の昨年10~12月期の実質GDP成長率は6.8%に留まり、同12月の工業生産や社会消費品小売り総額の伸びも11月を下回った。建設や設備などの固定資産投資は通年でプラス10.0%と14年のプラス15.7%から減じた。

中国経済の減速は人民元がドルにペックして割高になったことが一因であり、さらなる大幅切り下げは避けられない。そして今、3月上旬に開催される中国全人代(国会)のタイミングに合わせての10~15%切り下げが有力視されている。

この中国人民元切り下げが、ブラジルなどの新興資源国を巻き込んで世界的な「通貨安戦争」を引き起こす心配がある。

暴落対策に妙案ナシ

それにしても、である。これほどの円高・株安を出来させたのは、実は1月29日の黒田東彦・日本銀行総裁の「マイナス金利政策」導入決断というよりも、2月10日のイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の米下院金融サービス委員会での証言である。

イエレン議長は、焦点の追加利上げについて「経済が下振れすれば利上げペースも減速するのが適当だ」と発言しただけでなく、FRBも2012年頃にマイナス金利導入を検討したが、「(当時の米国の)金融市場への衝撃を懸念し、好ましくないとの結論に至った」と証言したのだ。

すでに導入している欧州中央銀行(ECB)と導入を決めたばかりの日銀のマイナス金利政策が、あたかも正しくないと語ったように聞こえたのである。これに為替投機筋が元気付けられた。米国経済の先行きにもう少し自信を示していれば、リスクオフ相場も違った展開があったかも知れない。

市場は常に弱い所を衝いてくるものだ。それが原理・原則である。暴落が続く株価対策に妙案はない。

なお、安倍官邸に現下の危機打開策の有無を尋ねてみたいと、この原稿を書き終えようとした12日午後2時過ぎ、麻生太郎財務相と黒田総裁が相次いで官邸を訪れたとの第1報が入った。

3月末、黒田日銀はさらなる追加緩和に踏み切るということだろう。それでも、株価1万8000円台回復と円相場1ドル=115円は見えてこない。

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