2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「重要会議」
新興国はかつての活況が消え去り、成長と投資が共に落ち込んで出血がゆっくりと続く悪循環にはまり込んだようだ。
既に過去1年半に1兆ドル以上もの資金が逃げ出したが、流出はまだ道半ばにも達していない可能性がある。
新興国経済は金融危機を経験し、この10年間にいくつかの通貨や債務の大きな変動が市場全体に波及する事態に何回も見舞われてきた。
しかしダボス会議に参加する各界指導者は、今回の危機を払しょくするのは容易ではないと不安を感じている。
懸念の元になっているのは米国の金融引き締めとドル高で、これに中国経済の減速、コモディティの「スーパーサイクル」の崩壊が重なった。このため新興国の状況がいずれ急激に持ち直し、最悪の事態に立ち向かう胆力を持つ投資家が利益を手にするという展開は見込めないとの不安が広まっている。
ICBCスタンダード・バンクの新興国市場責任者デービッド・シュピーゲル氏はアジア諸国、ロシア、ブラジルが1990年代末の一連の危機から立ち直った2001年を引き合いに出し、「今は新興国市場にとって世界情勢やけん引役が大きく異なっている」と指摘。
「当時はグローバリゼーションの環境が整っており、新興国が最大の恩恵を受けた。今回は以前にはいくつもあった反応促進剤を欠いている」とした。
01年の最大のプラス要因は当然ながら中国。中国は世界貿易機関(WTO)加盟をきっかけにその後10年間にわたって輸出と投資が奇跡的な伸びを見せ、経済規模は世界第6位から2位に躍進した。
中国経済台頭の効果は新興国にあまねく及んだが、中国の成長が鈍化すると新興国は今度は一転して打撃を被った。UBSによると、新興国の輸出の前年比での落ち込みは08─09年以来で最大だ。
WTOによると、世界経済は貿易伸びが成長の伸びを下回る状態が15年まで4年連続で続く見通し。かつて貿易は成長の2倍のペースで伸びていた。
中国経済による新興国の景気押し上げ効果は一回こっきりで、今後は消滅するばかりだとする悲観的な見方も出ている。
UBSのストラテジスト、マニク・ナライン氏は「新興国市場が02─07年の黄金時代に戻ることはなく、貿易の面では1980年代に逆戻りするリスクがある」と話す。
<資金流出>
「黄金時代」には大量の資金が新興国に流れ込み、国際金融協会(IIF)によると01─11の純流入額は計3兆ドル近くに達した。
しかし資金の流れは逆転し始めており、IIFによると昨年は5400億ドルの流出と1988年以来の純流出に転じた。IIFは16年に流出額はさらに増えると予想している。
JPモルガンも中国は14年半ばから1兆ドル近くが流出したとみている。中国の中央銀行の外貨準備は昨年、5000億ドル以上減少したという。
EPFRグローバルによると、新興国の株式と債券に投資するファンドの解約は昨年、過去最高の600億ドルに達した。
IIFのエグゼクティブディレクターのハン・トラン氏は、新興国の問題は外部要因だけではなく、内部にも生産性の落ち込みという問題を抱えていると指摘する。
トラン氏の推計によると、将来の経済成長の指針となる生産性の昨年の伸び率は新興国がわずか0.9%にとどまり、先進国の0.4%とそれほど違わなかった。
「資本や投資を引き付ける大きな要因だった新興国の生産性の面での優位性は崩れた。投資リターンは低下サイクルに入っている」とした。
<徐々に進む危機>
新興国はインドやメキシコなど明るさの見える国も一部にある。しかし中国をめぐる懸念は高まり、ブラジルとロシアは2年連続で景気後退入りし、新興国セクターの投資リターンがすぐに持ち直すことはないとの見方が多い。
モルガン・スタンレーによると、新興国の株式市場のパフォーマンスは過去5年間先進国を下回っており、企業業績も4年以上にわたり悪化している。これはMSCI株式指数の歴史上、最長だという。
スタンダード・ライフ・インベストメンツの新興市場債責任者のリチャード・ハウス氏は、ドル高が新興市場国通貨建て債の投資家を脅かしていると指摘。「このセクターはファンドの成績がおしなべて良くない。現地通貨建て債ファンドからは当面資金が流出し、人々の心理に影響を与えるだろう」とした。
メキシコ中銀のカルステンス総裁は、新興国はこうした大規模な資金流出に対処するため、08年の金融危機後に西側諸国が実施したように証券市場に協調して介入するような大胆な政策を導入する必要があると述べた。
ただ、長期的な成長を押し上げるには厳しい経済改革しかないとも指摘している。