「学問」

画像の説明 中国の有名大学の入試担当者が、受験生らに“げたを履かせる”などの便宜を図った見返りに4億4000万円相当の賄賂を受け取っていたことを法廷で認めた。

幼稚園から高校まで人気校への進学は「カネとコネ」がものをいう中国社会にあって、試験の点数で全てが決まる全国統一大学入試「高考」は機会平等の最後のとりでだった。だが、習近平国家主席(62)が進める反腐敗運動により、改めてその公正性に疑問の目が向けられている。

高額賄賂でげたを履かす

中国の通信社、中国新聞社などによると、南京市中級人民法院(地裁)で今月3日、受験生の保護者らから賄賂を受け取ったとして収賄罪に問われた中国人民大の学生募集・就職部元部長、蔡栄生被告(50)の初公判が開かれた。

起訴状によると、蔡被告は2005年から13年までの間、受験生や学生ら44人に対して合否判定や専攻科目の変更などで便宜を与え、その保護者ら30人から現金2330万元を違法に受け取ったとされる。蔡被告は罪状認否で全ての起訴内容を認めた。

「高考」は、一発勝負の試験の点数で志望校・学科への進学の可否が決まる全国共通入試で、15年は942万人が出願した。ただ例外的に各大学が独自に筆記試験と面接を実施し、さらに「高考」で一定の点数を取れば入学できる制度もある。

ネット上に不正の噂

蔡被告は「自主選抜」と呼ばれるこの入試制度を悪用し、高考の点が合格ラインに達していない生徒らから賄賂を受け取っていたようだ。北京の有力紙、新京報は人民大の自主選抜制度を利用した学生らを取材。記事によれば、人民大には入試でげたを履かせるための明確な「相場」があり、蔡被告はテストの出来に応じて5万~80万元を受験生側に要求していたという。

蔡被告は北京の名門・清華大を卒業後、同じく北京にある中国人民大で経済学の博士号を取得。中国人民大教授の肩書も持っていた。

人民大の入試の不正は10年以降、ネット上に噂が拡散し、13年9月には中国共産党の中央巡視チームが大学としては初めて人民大に査察に入り、党規違反や法律違反について調査を開始。13年11月には偽のパスポートを所持して広東省深●(=土へんに川)の空港からカナダに逃亡しようとした蔡被告が当局に拘束された。

北京の首都師範大で外国人向け中国語教育を担当している米国人のデイビッド・モーザー氏は米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズに対し、「自主選抜制度は暗記一辺倒ではなく、より多様な学生を集めようとする良い試みだが、実際は希望した効果をもたらさず、逆に腐敗の舞台となっている」と指摘している。

実は大学入試における点数の売買は、中国社会で以前からささやかれていた「公然の秘密」でもあった。ある中国人研究者は「高考」について「1点につき決められた金額を払えばその穴を埋めることができる。それは別帳簿の金として教育、事務などを担当する教員や職員の収入になる」と解説。「こうした非合法の収入は、中国では教育分野に限らず各業種に存在し、社会の格差拡大につながっている」と指摘する。

公正どころか格差再生産

大学入試において広く点数の売買が行われ、そこでやりとりされる非合法の金が新たな格差を生み出しているとしたら-。「高考」は公正どころか2重の意味で格差を再生産する罪深い制度ということになる。

インターナショナル・ニューヨーク・タイムズは「習主席の3年以上に及ぶ反腐敗キャンペーンにおいて、大学教育の現場は重点対象の一つであったが、表面化した多くのケースは贈収賄よりも公金の乱用だった」と指摘する。

一方、中国のニュースサイト「財新ネット」の集計によると、14年から15年12月までに全国で54大学の幹部ら83人が調査を受けており、その内容は経費の乱用や施設建設に絡む収賄のほか、入試の不正も含まれているという。

反腐敗運動は入試制度の闇の一端を暴いたが、一罰百戒で終わるのか、新たな広がりをみせるのか注目される。

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