「やっぱり」

画像の説明国連の潘基文・事務総長が訪朝計画を進めている。

実現すれば北朝鮮の金正恩第1書記が面談する国際機関の初の要人となる。来年末で事務総長の任期を終える潘氏は韓国の次期大統領選の有力候補に取り沙汰されており、“南北会談”となれば2年後の選挙前に揺るぎないレガシー(業績)になる。一方、潘氏といえば習近平氏の抗日軍事パレードに参席し、拍手を送った人物で批判が絶えない。

金大中政権時代の北朝鮮に対する見返りなしの支援・協力という「太陽政策」の信奉者ともされる。北朝鮮核問題、人権問題について金正恩氏とどう渡り合うのか、訪朝実現の暁には潘氏の真価が問われることになる。

金正恩氏の外交デビューに潘基文氏は都合のいい名士?

潘基文氏が韓国報道陣に語ったところでは、訪朝計画は今秋、国連総会に出席した北朝鮮の李洙●(=土へんに庸)外相との面談を機に進み、現在は「可能なかぎり早い時期」を目指しているという。

潘氏は今年5月にも北朝鮮の開城工業団地を訪問する計画だったが、このときは直前になって北朝鮮側が許可を取り消した。だが今回は、北朝鮮が潘氏訪朝に前向きで、むしろ北朝鮮側が潘氏と誘っている趣だ。

韓国紙によると当初、北朝鮮側は「11月23日」と日付を指定して訪朝を要請したという。この日程は結局、潘氏の都合で延期となったが、北朝鮮は金正恩氏の外交デビューを準備したい理由があるようだ。

来年、金正恩体制は5年目に入る。来年5月には36年ぶりの党大会を予定している。党大会となれば外国からの賓客も招聘する。金正恩体制はこれまでの「強硬路線」から「対話・融和路線」に転換を図っているとの見方もある。

何しろ金ファミリーの3代目は内政外交ともに業績が皆無。今年は訪露、訪中が取り沙汰されたが結局、調整がつかずに立ち消えとなった。金氏は要人と一度も会談できない“世界の孤児”になりつつある。核実験とミサイル発射など軍事的示威のみで、叔父である張成沢氏を処刑し、独裁者、恐怖政治だけが際立ち、国際司法裁判所(ICU)に「人道の罪」で付託すべきだという議論が起きている。

そうした金正恩氏にとって、潘基文氏は「都合のいい名士」との分析がある。

潘氏は韓国の親北反米政権、盧武鉉政権で大統領府外交補佐官、外相を務め、盧政権の強力なロビー活動で国連事務総長のポストについた。「太陽政策」の提唱者だった金大中氏やその流れをくむ人々と親しく、北朝鮮との“親和性”が高いとされている。

そのうえ国連事務総長という政治的には中立の立場にあるため、核問題や人道問題で国連の立場をいくら表明しても、それで何かが動くといった拘束力や実効性はない。このため北朝鮮にとっては都合がいいというわけだ。

金正恩氏は、核問題は「米国の敵視政策のため」、人道問題は「北朝鮮では子供や女性の人権が保障されている」などと主張することが予想され、双方が立場を表明する以上の議論に発展する可能性はない。

一方、潘基文氏は次期韓国大統領選の有力候補で当選の可能性もあることから、ここで訪朝を認めて“韓国次期大統領”に恩を売るには格好の機会。どうやら金正恩氏にとって潘氏は余人をもって代え難い相手であるらしい。

潘基文氏にとって会談は至上のレガシー(業績)となる?

今回、自らの訪朝計画について潘氏は次のように語っている。「国連事務総長として、また大韓民国の国民の一人として南北間の平和と和解を図る機会があるなら、できることはすべてやるとの立場だ」

実は潘氏にとって、訪朝と会談は2007年の国連事務総長就任以来の念願のテーマだった。東アジア初の事務総長として、分断国家の代表として北朝鮮を訪問し南北問題をリーダーと話し合うことは韓国政治史に特筆される価値があるためだ。さらに国連事務総長としての訪朝はワルトハイム氏(1979年)、ガリ氏(93年)に続く3人目となる。しかも、いまだ金正恩氏と会談した要人は皆無である。

2期務めた国連事務総長として潘氏の評判は芳しくない。「退屈な演説」が有名で、欧米メディアから「指導力のなさ」が指摘され、国連内では「韓国人優遇」が批判されてきた。さきの訪中と抗日軍事パレードの参観は日米から「中立性を問う」と厳しく言及された。

ただ、潘氏は意気軒高だ。訪朝話以前から韓国での人気がうなぎ上りなのだ。次期韓国大統領選挙は2017年12月。韓国は来年から政治の季節に入る。潘氏の事務総長任期は来年末までで、韓国の大統領選にピタリと合うタイミングで帰国が決まっている。しかも現在、潘氏は与野党双方から“有力候補”とエールを送られているのだ。

保守系与党・セヌリ党は有力候補がおらず、朴槿恵大統領は潘基文氏を高く評価しているとされる。一方、野党・新政治民主連合も「潘基文氏は太陽政策の継承者」との待望論が出ている。

韓国では「反北親米が与党、親北反米が野党」がザックリとした傾向で、その双方から声がかかることは前代未聞である。「彼はイデオロギーより野心の人物」との評もある潘基文氏だけに、目下、訪朝にやる気満々といった感が強い。

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