「豹変・・騙されるな」

画像の説明 ガラリと変わる態度

日中経済協会を中心にした日本経済界の訪中団が、11月1日から5日までの日程で北京を訪問したが、中国側から異例の歓待を受けた。今回は特に経団連、日本商工会議所が加わる「オール財界」体制にしたこともあって、ここ数年途絶えていた国家指導者との会談が6年ぶりに実現した。

また、中国側がこれまで認めようとしなかった中国の過剰生産を認め、対象企業に懲罰を検討するなど、日本側を喜ばせた。中国側の“豹変ぶり”に驚きを隠せない訪中団だが、中国の歓待をそのまま額面通りに受け取るのは早計かもしれない。中国の思惑はどこにあるのだろうか。

「昨年まではけんもほろろだった。今回は面談する政府高官の態度だけでなく、首相との会談も実現するなど、ガラッと変わった」

4日夜、訪中団の北京での日程を終えた日中経協の宗岡正二会長(新日鉄住金会長)は、喜びながらも想定以上の成果に戸惑いもみせた。

1975年の第1回訪中代表団派遣以来、日中経協はほぼ年1回のペースで北京などを訪問し、国家主席・首相クラスとの会談を行ってきた。しかし、ここ数年は日中の政治・外交関係の悪化を受け、“格下”の会談相手が出ているケースが相次ぎ、昨年、一昨年は2年続けて、汪洋副首相が相手だった。

それが、今回は経済政策が専門の李克強首相が登場、200人近い訪中団全員を人民大会堂に招いての会談となった。

中国・商務省の高官も訪中団に対し、「(李首相との会談が実現したのは)日中の経済貿易協力と、訪中団を重視していることの表れ」と、政府をあげての対応であることを強調した。

かみ合う議論

それ以外の政府側との会談でも対応の変化ははっきりしていた。工業と情報通信産業を統括する「工業情報化省」との会合が特に、象徴的だった。

この会合で中心議題となったのが、鉄鋼や化学業界など素材産業の過剰生産能力問題だ。需要を超えた中国の生産力が、結果的には海外に向かい、国際市況で供給過剰を引き起こして価格を大幅に下落させている。鉄鋼を例に挙げれば、「10年前は中国は純輸入国。それが現在、世界の輸出市場の半分が中国産が占める」状況で、日本側も強く批判した。

同じような批判は、昨年の会合でも、日本側が行った。その際に中国側は「われわれはニーズがあるのだから、それに応じているだけ」と、国際市況を悪化させているのは中国ではないという主張を繰り返すだけだったという。

それが今回はなりを潜めるどころか、自ら過剰生産を容認したのだ。工業情報化省の幹部は「中国の当面の経済発展での突出した問題」と、過剰生産を自ら問題であることを認めるとともに、過剰生産設備を保有したままの企業に対し、懲罰的な公共料金課金の検討なども紹介するなど、日本の要望を反映させる回答をみせた。

訪中団も日本の主張を「正面から受け入れている」(日商の三村明夫会頭)と同時に、議論がかみ合っていることを驚く。

態度変化の背景は停滞

こうした中国の姿勢変化の背景に、経済事情がある。

今年の7~9月期の中国の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比6.9%と、6年半ぶりの低水準に落ち込んだ。安い人件費を背景にした「世界の工場」として、高成長を続ける経済に陰りがみられることが鮮明になってきたからだ。

過剰な生産が引き起こした国際市況の低迷は、めぐり巡って中国企業の収益低下という形に跳ね返ってきている。そのサイクルに中国の企業自身が耐えられなくなってきたのだ。そのうえ、人件費が高騰し、ベトナムやミャンマー、バングラデシュなどに「世界の工場」のポジションを脅かされている。

減り続ける対中投資

そこへ日中間の政治・外交関係の悪化もあって、日本企業の対中の投資意欲が激減した。2012年まで伸びてきた日本の対中投資は14年には43億3000万ドルと前年比4割近くの減少となった。今年の1~10月期も、激減した14年との比較で約25%減の水準で推移。2年間で6割超の投資額削減を目のあたりにすれば、政府としてもそれを見過ごすことはできない。

特に、「世界の工場」としての供給力を軸とした経済運営から、国内の消費を牽引役とする経済運営への大きな構造転換期にもぶち当たった。それにうまく移行できるかは、高付加価製品の生産や、インターネットや情報通信技術を活用した新しいサービスなどの拡大が鍵を握っている。

求む日本の技術力

「中国は自前の技術もブランド力も足りない」(中国高官)との危機感も強い。燃料電池車などのエコカー、各種センサーやその制御システム、大気汚染対策など、先行する日本の技術を取り込みたいというのが、中国政府の本音だ。そのため、日本との対立を前面に出すことはやめ、日本の経済界との連携を強化する姿勢に改めたようだ。

同時に、経済の安定成長をアピールすることも忘れない。日本にとっても中国経済の危機は、世界経済のショックにつながるため、経済界を中心に安定的な成長を願う声は強い。

そこで大きなポイントとなるのが、李首相が「中高速成長で6.5%以上の成長が必要」と、成長率の数値を明確にしたことだ。今年の7%目標を下回る水準だが、これまで中国経済の先行きに不安を示してきた日商の三村会頭が「現実的な数値の提示」と評価する。経団連の榊原定征会長も「中国経済の崩壊はないことを確信」と言い切る。

だが、中国リスクを嫌って、工場撤退や合弁解消など中国から距離を置く日本企業が増え始めているのも事実。日本に対する態度を“豹変”したからといって、日本企業の警戒感が即、払拭するわけではない。また、姿勢を変化することも十分想定される。中国の姿勢をじっくり見極める必要がありそうだ。

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