「ヘタレ企業」

画像の説明 南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で人工島の造成を強行し、周辺海域で領有権まで主張し始めたため、米軍が10月末「お前ら勘違いすんなよ!」とこの海域に駆逐艦を派遣するなど、その度を超えた厚かましさぶりで世界の怒りを買っている中国。

さらに、急激な経済発展を受けた新興富裕層らによるニューヨークや東京などを対象とした活発過ぎる不動産投資に加え、以前のコラムでもご紹介しましたが、世界初となる月の裏側への月面探査機の着陸を成功させ、月の資源まで独り占めしようという恐ろしい野望まで着々と進めています。

そして、こうした傲慢な勘違いをし続ける中国とビジネスを円滑に進めたいため、情けないことに及び腰となっているヘタレ企業がいま、世界の非難を浴びています。小さい頃、これで遊んだ方もたくさんおられると思います。プラスチック製の組み立てブロックの玩具「レゴブロック」でおなじみ、デンマークの玩具会社レゴです。

あのノーベル賞マンデラ氏や、中国の人権活動家の肖像を作り始めたら「レゴブロックを売りません!」

なぜヘタレかと言いますと、この会社、祖国・中国の人権弾圧を真っ向から批判し、当局から執拗(しつよう)な弾圧を受ける有名な人権活動家兼現代芸術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏に「あなたにうちのレゴブロックは売りませんよ!」と販売を拒否したからです。理由はひとつ。中国に媚びを売るためです。

10月25日付の英BBC放送や米CNNテレビ、英紙ガーディアン(いずれも電子版)など、欧米主要メディアが驚きや怒りとともに伝えていますが、艾氏は昨年9月末、米サンフランシスコのアルカトラズ刑務所跡の敷地内で、約120万個のレゴブロックを使い、各国の活動家や政治犯175人の肖像を作成した作品などを展示しました。

作品化された活動家や政治犯は、中国の38人をはじめ、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策の撤廃に人生を捧げ、1993年にノーベル平和賞を受賞した南アのネルソン・マンデラ元大統領(99年6月に95歳で死去)や、NSA(米国家安全保障局)が大規模な個人情報の収集活動を極秘裏に収集していた事実を暴露した米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン容疑者(32)、米軍の膨大な機密情報を内部告発サイト「ウィキリークス」に漏洩(ろうえい)した米軍の情報分析官チェルシー・マニング受刑者(27)ら、国家権力の横暴や不正と戦い続けた“同士”たちです。

ちなみに、なぜここを展示会場に決めたかといいますと「米国は地球上で最高の投獄率を有する国」(2014年9月24日付英紙ガーディアン電子版)だからで、その象徴として世界的に有名なこの刑務所跡地を選んだということです。

中国初「レゴランド」発表の直前、芸術家に難癖…背景に、まずレゴ工場の稼働が

そして、艾氏はこの作品の類似作をビクトリア国立美術館(豪メルボルン)が12月に開催する展覧会に出品することにし、大量のレゴブロックの購入を打診。6月から製作作業を始めたのですが、9月になってレゴ側が艾氏に電子メールで「弊社は展覧会を支持する立場になく、大量注文には応じられない」と返信してきたというのです。

呆れた艾氏は10月24日、米写真共有サービスのインスタグラムに、トイレの便器にたくさんのレゴブロックを投げ入れた写真とともにこうした経緯を説明。「レゴは世界の文化や政治に影響力を持つパワフルな企業である。そんなレゴが芸術家への製品販売を拒む行為は検閲であり差別だ」との怒りのメッセージを投稿しました。

これに対し、レゴ側は「すべての個人の創造的自由の権利を尊重する」といったお題目を説明したあと「レゴブロックを政治的意見の主張に使おうとする人物への販売を禁止することは、わが社の長きにわたるポリシーである」と明言し、社としての判断に間違いはないと強調しました。

ここで艾氏の経歴を簡単に。北京生まれの艾氏は、父親が文化大革命期に迫害を受けた詩人で、自らも少年時代の5年間、新疆ウイグル自治区の労働改造所(強制労働所)で過ごすという経験を持っています。

その後、1978年、中国で唯一の映画人材養成大学で知られる名門「北京電影学院」に入学し、映画をはじめとする芸術全般に造詣を深めながら数々の前衛芸術を発表しますが、当局に目を付けられたため、81年〜92年までニューヨークで活動。

しかし、父の病気を機に93年、帰国し、母国で芸術活動に邁進(まいしん)。2008年の北京五輪のメーンスタジアム「鳥の巣」を共同設計したことで知名度を高めますが、一方で同じ年に起きた四川大地震を契機に、中国当局の人権弾圧に対する激しい批判を展開したため、当局から執拗な嫌がらせを受け続け、11年には81日間、当局に身柄拘束され、以降、中国出国を許されていません…。

レゴとしては、そんな艾氏に肩入れしていると疑われる状況を避けたかったのです。

なぜなら、10月21日付英BBC放送(電子版)などが伝えていますが、中国の習近平国家主席(62)の英国公式訪問を受け、英テーマパーク運営大手のマーリン・エンターテイメンツがこの日、中国の投資会社、華人文化産業投資基金(CMC)と合弁で、上海に中国初の「レゴランド」を建設すると発表するなど、今後、中国に本格進出する意向を明らかにしたからです。

レゴランドのオープン時期はまだ明らかになっていませんが、まず2017年にはアジアの生産拠点として、浙江省(せっこうしょう)の嘉興市(かこうし)に2000人の従業員が働くレゴの大工場が稼働します。当局を怒らせればこうした中国市場への進出が水泡と化します。

というわけで、ビクトリア国立美術館の広報担当シャロン・ウェルズさんは10月25日付のメルボルンの地元紙ヘラルドサン(電子版)に、今回のレゴの措置を受け「今、艾氏とともに、豪州の人権や表現の自由に焦点を当てた別の作品づくりを始めている」と述べ、レゴブロックによる作品の制作を断念する考えを示しました。

しかし、一連の報道を受け、こうしたレゴの姿勢に納得がいかない艾氏の支持者らはツイッターに、箱いっぱいのレゴブロックの写真とともに「これはわれわれが所有するブロックの10%だ。これらを使ってほしい」と投稿するなど、ブロック提供の申し出が各国で相次いだのです。

これに驚いた艾氏は考えを改め反撃に出ます。10月26日、自身のインスタグラムにこんな呼びかけを投稿しました。

「艾未未の(制作)スタジオは、多くの都市でレゴブロックを集めることにしました。艾未未はBMWの5Sシリーズのセダンをレンタル(色は何でもいい)もしくは中古購入したいと思っています。レゴブロックを集めるコンテナとして使うためです。このBMWは、人々がレゴブロックを中に投げ入れることができるよう、窓とサンルーフを5センチだけ開けておきます。

広告や装飾は一切施さないで下さい。このBMWは、人々がアクセスしやすい街の中心部に駐車してください。街の駐車スペースや野外、もしくは屋内の文化芸術関連施設に大体1カ月間、駐車してください。レゴコンテナとなったBMWの管理やその後の移動に関しては、艾未未の(制作)スタジオが単独で責任を持ちます」

このメッセージに、さらに多くの人々が賛同。当のビクトリア国立美術館をはじめ、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(王立芸術院、英ロンドン)やマルティン・グロピウス美術館(独ベルリン)、クンストハル美術館(デンマークのコペンハーゲン)、マラガ現代美術館(スペイン)、FOAM写真美術館(オランダ・アムステルダム)、ブルックリン博物館(ニューヨーク)といった各国の美術館や文化施設がこのメッセージに従い、目立つ場所にBMWを駐車。多くの人々がレゴブロックを投げ入れています。素晴らしいですね!。

しかし、残念ながら、レゴのように中国に媚びる姿勢は各方面に広がっています。英国も今年7月末、9月にロンドンの王立芸術院で行われる自身の展覧会に合わせ、訪英を予定していた艾氏に対し、6カ月ビザの発給を一旦拒否(8月はじめに発行)し、物議を醸しました。

さらに10月5日付米CNN(電子版)によると、北京にある艾氏の(制作)スタジオから盗聴器が発見されました。艾氏はCNNに対し「盗聴器は私のスタジオとリビングルームで見つかった。プロの仕業だ。仕掛けたのが誰かは誰でも分かるけどね」と余裕で答えました。

中国当局のこうした弾圧に屈せず芸術活動で体制批判を続ける艾氏は、10月29日付米紙ワシントン・ポスト(電子版)に、今回のレゴとの一件についてこう語っています。

「芸術は、人々が世界を理解する助けとなり、より良きコミュニケーションを成立させる」

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