「邦銀」

画像の説明 「FRB(米連邦準備制度理事会)からも目を付けられていて、これ以上、ドルを東京に融通することは難しい」。

ある国内メガバンクの米ニューヨーク拠点に籍を置く中堅幹部は、本店からの度重なるドルの無心に、頭を悩ませていた。

多くの邦銀が今、ドルの調達危機にひんしており、中堅幹部は「問題が長引けば、メガバンクの海外戦略は見直しを避けられない」と苦しい内実を明かした。

邦銀は一見、わが世の春を謳歌している。2015年3月期には、三菱UFJフィナンシャル・グループの純利益が初めて1兆円を突破するなど業績は絶好調だ。その原動力となっているのが、頭打ちの国内事業に代わって急拡大中の海外ビジネスである。

金融庁によれば、3メガバンクは過去5年で約40兆円も海外貸し出しを膨らませ、3メガの国際部門の収益が全体に占める割合は15%から33%に倍増した。ところが、足元では海外ビジネスの土台となるドル調達にすら四苦八苦しているとは、何とも皮肉な話だ。

本来、こうした海外貸し出しの原資は、ドルなどの現地預金で賄われるべきだが、リテール拠点が乏しい邦銀はドル預金を集める力が弱い。金融庁の調査では、外貨調達における預金の比率は3割にすぎず、大半は金融市場からの調達に頼らざるを得ないのが実情だ。

ドルの調達手段として邦銀が重宝してきたのが、「ベーシススワップ」だ。異なる通貨同士の金利差をやりとりするデリバティブ取引なのだが、下図の通り、円を元手にしてドルを仕入れるコストが今年に入って上昇。特に8月以降、12年に欧州債務危機でドル調達が逼迫して以来の水準に達した。

調達コスト急騰には、さまざまな思惑が絡み合っている。前述のような邦銀のドル需要に加えて、「中国の景気減速のあおりを受け、ドル資金の流出に見舞われた新興国の間でドル需要が強まっているから」と、ドルの調達側が抱える事情を指摘する市場関係者も多い。

一方で、問題に一層の拍車を掛けているのが、ドルの供給側に対する“縛り”だ。「最大の元凶は、金融規制の過度な強化にある」(メガバンク市場部門幹部)。

08年のリーマンショックのような金融危機が二度と発生しないよう、世界の金融当局は、金融機関のバランスシートの膨張を防ぐレバレッジ規制など、幾重にもわたる金融規制を導入してきた。中でも米国では、ドット・フランク法など独自の改革案によって金融機関はがんじがらめになった。

その結果、米銀は預金を断るほどドルが余っているのに、海外へのドル供給が割に合わなくなる。そして、「ドルの出し手である米銀が資産の拡大を極端に嫌うようになり、ドルの供給を大幅に細らせてしまった」(加藤出・東短リサーチ社長)。その傾向は各四半期末に顕著となり、年末にはさらなるコスト上昇が危惧されている。

一部メガバンクは
金持ち企業からのドル調達にも食指

そうなれば、他の調達手段を拡充したいところだが、「スワップの代替となるレポ取引によるドル調達も、レバレッジ規制の縛りが厳しくて欧米の銀行は取引をやらなくなっている」と外銀アナリストは打ち明ける。また、CP(コマーシャルペーパー)やCD(譲渡性預金)といったドル調達手法も、同様に規制強化が足かせとなって不透明感を増しているという。

そんな中で一部メガバンクが苦肉の策として、「キャッシュリッチな金持ち企業からの資金調達を始めた」(邦銀為替ディーラー)という。一般企業に加え、生命保険会社からもドルを仕入れており、なりふり構わぬドルあさりからは邦銀の焦りの濃さが透けて見える。

それでも、「最終的には日銀とFRBとの間で締結された通貨スワップ協定に基づくドル供給があるから大丈夫」との楽観論が日本側にはある。しかし、この“最後のとりで”も決して盤石ではない。

「米銀には、邦銀など海外の銀行が預金不足のくせにドルを大量に貸し出し、困ったら中央銀行が救うというのは、不公平だとの批判が根強くあり、FRBは通貨スワップを打ち切る方向で考えている」(外銀幹部)

日本が金融危機に直面した1990年代後半、巨額の不良債権を抱えた邦銀勢にはドル調達の際、上乗せ金利「ジャパン・プレミアム」が一時的に付いた。しかし、今回のプレミアムは、規制による恒常的なものであり、調達コストは高止まりする可能性が高い。

膨大なドル資産を維持するには、同様に大量のドルが不可欠だが、調達先は細る一方で、「ボリューム一辺倒では立ち行かなくなる」(大槻奈那・名古屋商科大学教授)。

外貨資産の積み上げで稼いできた邦銀の海外ビジネスは限界を迎えており、戦略見直しは必至だ。

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