「日本国民よ」

画像の説明 平和安全保障法制の制定が議論されているが、多くの国民は日本が置かれている情勢についてどれだけ認識しているのだろうか。まず、「日本は平和な国なのだろうか」という疑問がある。領土を侵略されている国家を平和であると言えるだろうか。

1945年8月、日本がポツダム宣言を受諾する意思を示し武装解除した直後に、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の北方四島はソ連による侵攻を受けた。当時、北方四島には1万7千人の日本人が暮らしていたが、島民はすべて島を追われた。

この時、ソ連兵の侵入による混乱で多くの人命が失われている。また、サンフランシスコ平和条約において、「竹島」が日本の領土として認められると、韓国は竹島を自国の専管水域の中に組み込み武装占領した。

当時、日本海南西部で漁を行っていた人々は漁場を奪われ、韓国当局により数人の人命が奪われ、多くの人が傷つけられたのだ。現在も、北方領土や竹島は、ロシア、韓国に占領されたままである。

当時の日本は、敗戦により国民、国土を守る力=防衛力を失ってしまった。防衛力を失った国家の犠牲者が、北方四島や竹島周辺海域から命を奪われ、傷つけられ、締め出された人々である。さらなる侵略をかろうじて防ぐことができたのは、自衛隊の創設と日米安全保障条約の締結によって防衛力を備えたことによるものである。

現在では中国が日本の領土、領海を脅かしている。2010年以降、中国警備船が尖閣諸島近海に頻繁に領海に侵入するようになり、東シナ海の平穏が崩されてしまったのだ。多くの日本人が「平和」と考えている現状さえ危ういのである。

また、グローバル化が進む現状において、日本は、自国のことだけを考えずにアジア全域の海洋安全保障についても考えなければならない。東南アジアの国々は、日本の安全保障に向けた動向に注目している。

9月15日、参議院で平和安全保障法制に関し与野党の攻防が続いているさ中、安倍晋三首相は、ベトナムの最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長と会談し、ベトナムの海上警備能力の向上のため巡視船艇を供与する方針を表明した。ベトナムへは、既に6隻の中古の巡視船(漁業取り締まり船)を供与しているが、さらに数隻を供与することで、同国の海上警備力を高め、南シナ海の海洋安全保障体制を支援する姿勢を示したのだ。

9月3日、中国政府は「抗日勝利70年式典」に際し、習近平国家主席は、中国人民解放軍の人員削減の方針を示した。中国の軍事戦略は、大量の兵員を擁する陸軍中心の戦略から、海軍、空軍を充実させる質の向上へと変貌を目指しているのだ。

南シナ海では、人工島において港湾建設とともに、空軍の拠点ともなる滑走路を造り、機動力を持った体制を目指している。このような中国の強引な海洋侵出に対し、南シナ海沿岸国であるベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアなどは、日本の平和安全保障法制の制定を歓迎し、アジア海域の平和に向けて日本が積極的にその責務を果たすことを求めているのである。

2014年、日本が、南シナ海に面した国々と南シナ海航路を利用して行った貿易額は、輸出入合わせて、約2000億ドルに上ると推定される。そのため南シナ海の紛争は、日本経済に与える影響も多く、「我が国の存立の危機」といえる。

アジアの国々も求めがあれば、日本も海洋安全保障のため貢献しなければならないのだ。東シナ海でも同様の戦略であり、日中の中間線に近いガス田のプラットホーム上に10数基のヘリポートを作った。さらに東シナ海に面した温州に港湾と航空施設を持った中国海警局の大規模基地を建設する計画を進めている。

また、中国海警局は、1万トンを超える大型警備船を複数建造し、東シナ海に配備する予定だ。この大型警備船は、ヘリコプターを搭載しており、ガス田のヘリポートと温州の基地を結ぶ洋上拠点となり、上空も含め東シナ海全域を管轄下に置こうとしているのだ。

中国の海上警備力の増強計画は、日本の海上保安庁が進めている12隻の巡視船による尖閣諸島専従部隊の配備を見越して変化しているのである。さらに中国の大型警備船には、軍艦並の10キロの有効射程距離を持つ76ミリ機関砲を装備していることも考慮し、日本は新たな海洋警備計画を作らなければならないのだ。

また、昨年来、南シナ海パラセル諸島(中国名・西沙諸島)周辺海域では、武装した中国船らしき船舶にベトナムの漁船が襲撃され、漁獲した水産物や網などの漁具、航海に必要な計器などが奪われる事件が頻発している。

この海域の島々の多くは、かつてベトナムが領有していたが、ベトナム戦争時に中国軍により占領され、今も中国の実効支配が続くが、現在もベトナムと中国、台湾の三国が領有権を主張しているのだ。特に地理的にもベトナムに近く、ベトナムの漁師の生活の海となっている。

この海域でベトナム漁船が頻繁に襲われているのだ。今年7月、操業中のベトナム漁船が3隻の中国船とみられる船に衝突され、沈没する事件が発生した。漁船に乗っていた11名の漁師は海に投げ出されたところを他のベトナム漁船に救助されたが、衝突した船は漁民を救助することなく逃亡したという。

ベトナム国内の報道では、今年に入り8月までに38隻のベトナム漁船が、中国船とみなれる船から襲撃されている。今回の事件は、あきらかな海賊行為であり、アジアの国々は「アジア海賊対策地域協力協定」の精神に基づき、共同で対処することも検討すべきだ。南シナ海は重要な日本のシーレーンであり、この海域の安全確保し海賊を排除するために日本の海上保安庁の巡視船によるパトロールも求められるであろう。

東シナ海でも中国漁船の動向から目が離せない。1000隻を超える漁船が東シナ海全域に展開し日本の漁船を締め出しているのだ。また、2014年秋には、サンゴの密漁船といわれる200隻を超える漁船が小笠原諸島海域を荒らしたことは記憶に新しい。

相手が漁民である以上、自衛隊が出動することできず、現実的に防衛体制がとれないグレーゾーンとなっているのだ。アジア海域の安全確保も含め、海保と海上自衛隊の連携体制のさらなる強化など検討しなければならない。

国民は今一度、「平和は与えられるものではなく、作り出すものである」という認識をもつべきである。

そして、これからは、日本のみならず世界の安定を考え、国際法の下、積極的に「海の平和」を守る活動をしなければならないのである。

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